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058. リナとの出会い

3月10日1回目の更新です

イリアは満足げにコレクションケースを眺めながら、ふと顔を上げた。


「そういえば、今日はちょうどリナもいるわ。紹介するわね。」


その言葉とほぼ同時に、軽やかな足音がツムギの背後から近づいてきた。


「なんやイリアさん、今日はえらい楽しそうやな?」


ぱっと振り返ると、そこには赤毛をポニーテールにまとめた少女が立っていた。

明るいオレンジ色の瞳がいたずらっぽく輝き、軽やかな笑みを浮かべている。


「うち、リナ! イリアさんに色々教えてもろてる。あんたが噂のツムギちゃんやんな?」


ノリのいい言葉に、ツムギは少し驚きながらも「うん、よろしくね」と笑顔を返した。

するとリナは、「ええなぁ〜! そのほんわかした雰囲気、めっちゃツムギって感じやわ!」と、親しげに声を弾ませる。


「ぽてぃ!」


ぽてがツムギの肩の上でピョンと跳ねると、リナは興味津々といった様子で身を乗り出した。


「わ〜! これが噂のぽてちゃんか? かわええなぁ!」


すぐさま手を伸ばし、ぽての頭を優しくなでる。ぽては気持ちよさそうに「ぽぺ〜」と喉を鳴らした。


ツムギは、リナの明るく親しみやすい雰囲気に少し安心しながらも、どこか鋭い視線を感じた。

無邪気に話しかけているように見せつつ、ツムギの反応をじっくり観察している――そんな空気がわずかに伝わってくる。


(この子、すごくフレンドリーだけど……きっと頭の回転がすごく速い人なんだろうな。)


イリアはそんな二人のやりとりを微笑ましく見守ったあと、テーブルの上に手を添えた。


「リナ、これを見てちょうだい。」


そう言いながら、コレクションケースをそっと回転させ、リナの前に差し出す。


リナは「ん?」と目を瞬かせ、一歩前に出た。


「おぉ……これはまた、ええモン作ったなぁ。」


指先でそっとケースの表面をなぞると、透輝液で施された装飾が、光を受けて柔らかく輝く。

中に敷かれたミストスライムウールのクッション部分を押すと、じんわりと指が沈み込み、優しく包み込まれるような感触があった。


「この質感、むっちゃええな。高級感あるし、でもゴテゴテしすぎへん。こういうの、うちの客層めっちゃ好きやと思うわ。」


リナは一瞬にして商品の価値を見極めると、ふっと目を細めた。


「……ふむふむ。で、これをどう売るつもりなん?」


イリアが意味ありげに微笑むと、リナはじっとツムギを見つめた。

その瞳には、単なる興味ではなく、商売人としての冷静な計算が宿っていた。

明るく気さくな態度の裏で、ツムギをじっくりと観察しているのが、ひしひしと伝わってくる。


ツムギは、リナの視線に少し緊張しながらも、「商売のプロであるこの人が、自分のものづくりをどう評価するのか?」と、自然と知りたくなった。


イリアはそんな二人を見て、どこか楽しげに口元を緩めた。


「リナ、あなたならどうする?」


その言葉を受けて、リナは一瞬考え、ニッと口角を上げる。コレクションケースを手に取りながら、しばし考えるように指先で表面をなぞった。そして、ニッと口角を上げてツムギを見つめる。


「――そやなぁ。うちやったら、これをPOTENの高級ラインに組み込むわ。」


ツムギは、イリアと同じ事を言い出したリナにびっくりしながら、話の続きを聞く。


「このケース、アクセサリーを収納するだけやない。手に取ったときの感触、透輝液の輝き、中に敷かれたミストスライムウールの質感……全部が特別感を演出してるんよ。」


彼女は指で軽くケースを叩きながら続ける。


「POTENのアクセサリーを買うお客さんは、ただ身につけるだけやなくて、コレクションとして大事にしたい人も多い。せやから、このケースを『高級ラインの専用収納』として売り出せば、ブランド価値をさらに高められる。」


「なるほど……!」


ツムギは感心したように頷く。自分ではただ「プレゼント」として作ったものが、こんな風に商売としての価値を持つとは思ってもみなかった。


「しかもな、」リナはイリアに目を向ける。「イリアさんの店、今は1階にベーシックライン、2階に高級ラインを置いとるやん? このケースも2階専用にして、POTENのアクセサリーを買ったお客さんだけが購入できる特別なアイテムにしたら、もっとええ感じになると思うで?」


イリアは満足げに微笑みながら、リナの言葉に静かに頷く。


「リナ、あなたもそう思うのね。実は私も、このコレクションケースをただの収納箱として売るのは惜しいと思っていたの。あなたの考えと一致しているわ。」


「ほらな?」リナは得意げに肩をすくめる。「せやから、このケースは『選ばれた人しか手に入れられない特別なもの』にするんが一番や。POTENの名前を背負うなら、中途半端にはできへんからな。」


ツムギは少し考え込んだ。自分の作ったものが、そんな風に扱われるのは嬉しい。でも、その分だけ責任も増える。


「……POTENの名前がついたものは、ちゃんと責任を持って作らなきゃいけないね。」


「そやな。」リナは満足げに頷く。「せやけど、ツムギちゃんの作るもんは、どれもちゃんと想いがこもってる。そこが一番大事や。」


リナは少し真剣な表情になりながら、ツムギの目をじっと見つめた。


「うち、あんたのこと、もっと知りたくなったわ。」


リナはそう言って、いたずらっぽく微笑んだ。

ツムギはその言葉を受け止めながら、ぽてを抱きしめる。


「私も、リナさんともっと話してみたいな。」


ぽてが「ぽてぃ!」と嬉しそうに跳ねる。


「そやけど、こういう話って楽しいなぁ。商売ってな、お金儲けだけやなくて、ほんまにええもんをどう届けるか考えるのが醍醐味なんよ。」


リナの声には、ただの計算高さだけではない、商売に対する本気の情熱が込められていた。

ツムギはその言葉を聞きながら、「この人は、商売をただの仕事とは思っていないんだな」と感じる。


「うち、そういうの考えるの、めっちゃ好きやねん。」


そう言って、リナは満足げにコレクションケースを軽く指で弾いた。


イリアはそんな二人のやりとりを見守りながら、満足げに口を開いた。


「さて、これで方向性は決まったわね。あとは具体的な売り出し方を詰めるだけ。」

本日は10時までと22時までの3回更新予定です。

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