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057. イリアとコレクションケース

3月9日3回目の投稿です。

次に向かうのはイリアの店だ。

城下町の活気ある通りを抜け、教えられていた店構えが見えてくると、ツムギはほっと息をついた。しかし、店の前に近づくにつれ、中から賑やかな声が聞こえてくる。


「これ、まだありますか?」

「POTENの新作は!?」

「えっ、もう売り切れ!?」「予約はできるの?」


(……なんか、すごいことになってない?)


扉を開く前から、ただならぬ熱気と期待のこもったざわめきが伝わってくる。ツムギは戸口で一瞬立ち止まり、ぽてを抱えたまま首をかしげた。


「ぽぺ?」


恐る恐る扉を開けると、そこにはたくさんの客がひしめき合っていた。


店内のカウンターには、綺麗に並べられたアクセサリーの数々が光を浴びて輝いている。そして、それを求める人々が熱心に商品を眺め、次々と店員に声をかけていた。


(えっ、POTENのアクセサリーって、こんなに人気だったの!?)


ツムギは思わず息をのむ。


すると——


「ツムギ!」


忙しくしていたイリアが、すぐにこちらへ視線を向けた。


「来てくれたのね!」


「忙しそうだから、また後で……」


「いいえ、ちょうどいいところよ!」


イリアがそう言うと、近くにいたお客の何人かがツムギの方を振り返った。


「このお客様たち、みんなPOTENのアクセサリーを求めて来ているのよ!」


「えっ、そうなんですか!?」


ツムギは驚きのあまり、ぽてを抱え直した。


「ええ、おかげさまで大好評。追加の納品が待ち遠しいくらいよ」


イリアが得意げに言うと、お客の一人がツムギの方に目を留めた。


「……あら! その子の蝶ネクタイ、とっても可愛いわね!」


ツムギが「え?」と視線を落とすと、ぽての胸元で、小さなマントどめがついた蝶ネクタイが揺れていた。


「ぽぺ?」


ぽては自分が話題になっていることに気づき、小さく揺れる。


「これもPOTENのアクセサリーなの?」


「えっ、あ、ええと……これは試作品で、ぽて専用なんですけど……」


「まあ、なんて可愛いの! これ、うちの子にもつけてあげたいわ!」

「私も欲しい!」


お客たちは次々とぽての蝶ネクタイに興味を示し始めた。


「ぽぺぇ……?」


突然の注目に、ぽてはツムギの腕の中で小さく揺れ、ちょっと得意げに見える。


ツムギは戸惑いながらも、なんだか胸がいっぱいになった。自分の作ったものが、こんなに多くの人に求められている——。


「……すごすぎる」


小さく呟くと、イリアがにやりと微笑んだ。


「でも、ツムギ。あなたが作ったPOTENのアクセサリーは、ここには並んでないのよ。」


「えっ?」


ツムギが周囲を見渡すと、確かに自分が手作業で作った特別なアクセサリーは見当たらない。


「POTENのブランドがここまで話題になったから、高級ラインのみ置く予定だったこの宝飾店も少し改装したの。一階は手頃な価格のベーシックラインを販売するスペースにして、二階を高級ライン専用のフロアにしたのよ。」


「つまり、ツムギが作ったものは、二階にあるわ。選ばれたお客様だけが入れる特別な空間よ。」


イリアはそう言って、店の奥にある階段を示した。


「特別なものは、特別な場所にふさわしいでしょ?」


ツムギは言葉を失い、思わず足元を見つめた。


自分の作ったものが、そんなふうに扱われるなんて、考えてもいなかった。


「……なんか、緊張しますね。」


「ふふ、誇っていいのよ。」


イリアはそう言うと、ツムギを二階へと案内した。そこには、静かで洗練された空間が広がっていた。


煌めくガラスケースの中で、ツムギのアクセサリーが特別な輝きを放っている。


ツムギはゆっくりとケースに近づき、そっと指先で触れた。


「……すごい。」


まるで、別世界みたいだった。


自分がただ「ものを作るのが好き」という気持ちで始めたことが、今、こうして特別な空間で扱われている。

ツムギは胸の奥でじんわりと感動が広がるのを感じた。


「それで、今日はどうしたの?」


イリアが微笑みながら問いかける。


「あっ、ええと……これを。」


ツムギは持ってきたジュエリーボックスを差し出した。


「イリアさんに、感謝を込めて作りました。」


イリアは一瞬目を見開き、それから静かにボックスを受け取る。その後、ジュエリーボックスの蓋を開き、内部の仕切りやミストスライムウールの柔らかな手触りを確かめる。


「ありがとう……これ、すごくいいわね。」


彼女は指先で仕切りを軽く動かしながら、その機能性をじっくりと確認する。


「仕切りを調整できるから、アクセサリーの大きさに合わせて自由にレイアウトできる……しかも、内側はミストスライムウールだから、デリケートな装飾品でも安心して収納できるわけね。」


ツムギは少し緊張しながら、イリアの反応を伺う。


「そ、それならよかったです……。イリアさんのアクセサリー、すごく素敵だから、特別なボックスに入れてほしくて……。」


「ええ、気に入ったわ。というか——」


イリアはふっと笑みを浮かべ、ボックスの蓋に触れながら目を細める。


「……これ、高級ラインの顧客向けに展開できるかもしれないわね。」


「えっ?」


ツムギが驚いて目を見開くと、イリアは既に次の商談を思い描くように指を軽く弾く。


「このジュエリーボックス、顧客にコレクションケースとして提案できるわ。POTENのアクセサリーを購入した人が、自分のコレクションを美しく収納するための特別なボックス……需要は十分にあるはずよ。」


「た、確かに……!」


「特に、限定アイテムを集めている顧客層は『特別な保管方法』にもこだわるものよ。このジュエリーボックスを、“POTEN特製コレクションボックス”として販売すれば、『選ばれた者だけが持つ、特別な収納』としての価値も生まれるわ。」


ツムギは思わず目を輝かせる。


「そんな風に活用してもらえたら、すごく嬉しい……!」


イリアは満足げに頷くと、ジュエリーボックスの内側のメッセージに目を向ける。


『あなたの目が選ぶものは、きっと特別なもの。』


ふっと微笑み、静かに蓋を閉じた。


「ツムギ、あなたの作るものは、ただの道具じゃないわ。それを持つことで、持ち主が“特別な何か”を感じられる——そういう価値があるのよ。」


ツムギは少し照れくさそうに笑う。


「そ、そんな大層なものじゃないですよ……!」


「ふふ、そう思う? でも、少なくとも私はそう感じるわ。」


イリアは穏やかにそう言うと、ジュエリーボックスをそっと抱え直す。


「……さて、それじゃあ、このボックスを顧客向けにどう売り出すか、具体的に考えていかないとね。」


「えっ、もう商品化する方向で決めちゃうんですか!?」


「当然よ。これを必要とする人が必ずいるって、私はもう確信しているもの。」


イリアはにっこりと笑い、商売人の目でツムギを見つめる。

(すごい……! イリアさん、もう次の展開を考えてる……!)

ツムギは感嘆しながら、改めて彼女の商才に驚かされた。

明日も10時までと22時までの2回投稿予定です

ツムギの世界図鑑(この物語の設定を書いている小説です)の中の「ツムギの作ったアイテム図鑑」更新しました


先日、後書きで反応が欲しいと書いたところ、いくつかお声をいただけました。ありがとうございます!

自分の書いた文章に反応をもらえることが、こんなにも貴重で嬉しいことだと改めて実感しました。

10年以上、登録もせずに楽しんでいた自分を叱りつつ、これからは好きな作家さんをクリックポチで全力応援していこうと思います!

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