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055. 贈り物大作戦決行 01

3月9日1回目の投稿です

夕飯の時間、食卓にはノアの作った温かいスープと焼きたてのパンが並んでいた。

ジンはスープをすする合間にパンをちぎり、ノアはのんびりと食事を楽しんでいる。

ぽては椅子の上でちょこんと座り、大きなパンを抱えながらも、ツムギの様子をちらちらと気にしていた。


ツムギは膝の上に置いた包みを、そっと握りしめる。

食事がひと段落した頃、意を決して立ち上がった。


「お父さん、お母さん、ちょっと渡したいものがあるの。」


そう言って、ふたつの包みをテーブルの上に並べる。

ノアが興味深そうに手に取り、ジンも無言で包みを開いた。


布の中から現れたのは、七つの透輝液のパーツがセットになったアタッチメントネックレスと腕輪。

ノアのネックレスは、魔石の色合いが優しく揺らぎ、ジンの腕輪はしっかりとした革バンドに固定されている。

光の加減で、透輝液の中に閉じ込められた魔石が美しくきらめいた。


ノアが「まあ!」と嬉しそうに目を輝かせ、ジンは腕輪を手に取りながらバンドの質感を確かめる。


「ほぉ、なかなかいい作りだな。」


ツムギは少し照れくさそうにしながらも、それぞれのパーツの効果を説明した。

肩こりを和らげる雷属性、冷やす氷属性、温める火属性――その日の体調や気分に合わせて付け替えられる。

仕事で動き回るジンのために、腕にしっかりフィットするよう調整したことも付け加えた。


ノアはさっそくネックレスを首にかけてみる。


「これ、すごく軽いわね!しかも、ひんやりして気持ちいい!」


「おお、本当だ。これなら仕事中でも気にならないな。」


ジンも腕輪を手首に巻きながら感心する。

ふと、その内側に何かが刻まれていることに気づき、指でそっとなぞる。


「……ん?」


ノアも不思議そうにネックレスの裏側を覗き込む。

そこには、小さな文字でそれぞれの名前と、


「お母さん大好き」

「お父さん大好き」


と、こっそり刻まれていた。


ノアの目がぱちくりと瞬きを繰り返し、ゆっくりとツムギを見つめる。


「ツムギ……」


ジンは一瞬だけ目を伏せ、腕を組んで無言になる。


「……まったく、お前は……。」


そう呟くと、大きな手でツムギの頭をぐしゃぐしゃと撫でまわす。


「わわっ!? お父さん、髪がぐしゃぐしゃになっちゃうよ!」


「いいじゃねぇか、娘からのプレゼントだ、嬉しいに決まってるだろ。」


ジンは口をへの字にしながらも、どこか嬉しそうに腕輪をもう一度眺める。


「ぽぺぺ!(だいせいこう!)」


ぽてが嬉しそうにテーブルの上をぴょんぴょん跳ねる。

ノアはくすくす笑いながら、ぽてをそっと抱き上げた。


「ふふっ、ツムギ、ありがとう。本当に素敵な贈り物ね。」


「ふぉー!」とぽてが楽しそうに鳴き、ノアの首元で丸くなる。


ジンは腕を組んだまま、目を細めながら「……お前も、いい仕事するようになったな」とぼそりと呟いた。


ツムギは少し照れながらも、二人が嬉しそうにしている様子を見て、胸がじんわりと温かくなった。

ぽてがツムギの肩にちょこんと座り、満足げに頬をぽふぽふと撫でる。


食卓には、いつもより少しだけ賑やかな笑い声が響いていた。


数日後、ツムギはぽての蝶ネクタイを整えながら、「うん、ばっちり!」と満足げに頷いた。

ナギが作ってくれた蝶ネクタイに、特別仕様のアタッチメントを取り付けたことで、より華やかさが増している。


「ぽぺぺ!(おしゃれ!)」


ぽてはくるりと回り、ふわふわの体を揺らして自慢げに胸を張る。


「ナギがつけられるようにしてくれたおかげだね。きっと喜んでくれるよ。」


そう言いながら、ツムギは準備したプレゼントを手に取り、生地屋「ホビーナ」へと向かった。


店の扉を開けると、ベルの音と共にナギの元気な声が響いた。


「いらっしゃいませー!……って、ツムギ!ぽても!」


ナギは作業台の向こうから顔を上げ、目を輝かせる。


「わぁ、ぽて、蝶ネクタイつけてくれてる!しかも、マントどめまでついてるじゃない!」


「うん、ナギのおかげで、いろんなパーツを付け替えられるようになったよ!これでぽても、その日の気分でおしゃれできるね!」


「ぽぺ!(ないす!)」


ぽては誇らしげに胸を張り、くるくると回ってアピールする。


「ふふ、すごく似合ってる!なんだかすごく特別感が出たね。」


ナギは嬉しそうに笑いながら、蝶ネクタイをじっくり眺める。


「それでね、今日はナギにちょっとしたお礼を持ってきたの。」


ツムギは包みを差し出すと、ナギは「え?何これ?」と興味津々に受け取る。

包みを開くと、中から透輝液で作られたブローチが現れた。

中央には、バザールで手に入れたぽてにそっくりなボタンが埋め込まれ、周囲にはヴィンテージの生地やリボンで装飾が施されている。


ナギは目を丸くして、「……これ、ぽてに似てる!」と驚きの声を上げる。


「うん、ナギはぽてのこと可愛がってくれているから、これなら喜んでくれるかなって。」


「え、嬉しい!可愛いし、絶対似合う!」


ナギはさっそくブローチをエプロンにつけ、鏡で確認する。


「うん、いい感じ!これ、お気に入り確定だね!」


ぽてが「ぽてぃ!(なかま!)」と嬉しそうに跳ね回る。


ツムギもほっとしたように笑い、「気に入ってもらえてよかった」と胸をなでおろした。


しかし、そのとき――


ブローチの透輝液に封じ込めたハズレ召喚石が、ほんの一瞬だけ、淡く光を帯びた。


「……あれ?」


ツムギは一瞬、何かを見間違えたような気がして、ブローチをじっと見つめる。

だが、次の瞬間には何も変わっておらず、ナギは満足げにブローチを撫でている。


(気のせい……?)


ツムギは首をかしげたが、ぽてが「ぽぺぺ!」と跳ねるのを見て、ひとまず気にしないことにした。


「改めて、ありがとね!これ、大事にする!」


ナギが笑顔でそう言うと、ツムギも「うん!」と元気よく頷いた。

ホビーナの店内には、いつも以上に賑やかな笑い声が響いていた。


その後、ツムギはぽてを肩に乗せ、ガルスの精錬屋へ向かった。扉を開けると、金属が打たれる音と火炉の熱気が迎えてくれる。カウンターの奥では、ガルスが分厚い手で鉱石の仕分けをしていた。


「ガルスさん、こんにちは!」


ツムギが元気に声をかけると、ガルスはちらりと視線を向け、「おう」と短く返した。


「今日は、ちょっとお礼を渡しに来ました。」


ガルスは手を止め、少し訝しげな顔でツムギを見た。


「お礼?……何の話だ。」


「ミストスライムウールを作る時、色々と助けてもらったので!」


そう言って、小さな袋を差し出す。ガルスは「なんだ?」と言いながら袋を開け、中からループタイを取り出した。


「おっ……?」


氷属性の魔石が封じ込められた透輝液のパーツが、光を受けて静かに輝いている。ミストスライムウールを加工した紐はしなやかで、肌触りもいい。


「精錬屋は火を使うから、少しでも涼しくなればいいなと思って、氷属性の魔石を仕込んでみたんです。もし必要なかったらごめんなさい……」


「使うに決まってんだろ。」


ガルスは短く言いながら、無造作にループタイを首元にあてがってみる。


「おお、似合ってる!」


ぽてが「ぽてぃ!」と満足げに跳ねた。


「まぁ、悪くねぇな。」


ガルスは素っ気なく言ったが、そのままループタイを握りながら目を細めている。その様子を見て、ツムギは内心ほっとした。


「そういや、こないだの商標登録の件……わざわざ俺の名前を入れるとは思わなかったな。」


ガルスがふと呟く。ツムギは驚いたように顔を上げ、「もちろんですよ!」と即答した。


「ミストスライムウールは、ガルスさんがいたから完成したものですし、最初に助けてもらったおかげで、ちゃんと形にできたんです。だから、一緒に名前を並べられて嬉しいです!」


「……ふん。」


ガルスは腕を組み、鼻を鳴らす。照れくさそうにそっぽを向いたが、その口元には小さく笑みが浮かんでいた。


「俺の名で、迷惑かけてないといいけどな。」


「そんな!ガルスさんの名前があるだけで、職人の人たちからの信頼度が全然違うと思います!」


ツムギが無邪気に笑うと、ガルスは喉を鳴らして笑った。


「……お前、たまに妙に商売人みたいなこと言うよな。」


「えへへ、イリアさんの影響かな?」


ぽてが「ぽぺぺ!」と小さく跳ね、ツムギの肩で楽しそうに揺れる。


「最近、忙しそうですね?」


話題を変えるようにツムギが尋ねると、ガルスは少しだけ渋い顔をした。


「鉱石の入荷が増えてな。暑い中、炉を動かしっぱなしで、体が溶けそうだ。」


「じゃあ、ちょうどよかったですね!少しでも涼しくなれば……!」


ツムギが嬉しそうに言うと、ガルスは「まぁな」とぼそりと呟いた。


「そういや、小僧は元気か?」


「ハルくんですか?元気ですよ!この間も拾い物の冒険に行ったとかで、すごく楽しそうに話してくれました。」


「ほう……相変わらず妙なもん拾ってくるのか。」


「はい、でも今回はちゃんとお母さんに役立つものだったみたいで。」


「それなら、いいこった。」


ガルスは腕を組みながら、静かに笑う。ツムギはそんな彼の横顔を見ながら、心の中で「やっぱりハルくんのこと、すごく気にかけてるんだな」と思った。


「それじゃあ、また来ますね!」


「おう。……ありがとよ。」


ガルスはそうぼそっと呟き、ツムギが店を出る頃には、しっかりループタイを首にかけていた。


ぽてはツムギの肩の上で「ぽてぃ!(だいせいこう!)」と小さくガッツポーズをしていた。

本日は10時までと22時まで2回投稿予定です。


今まで、アクセス解析のユニーク数を心の支えに、投稿を続けていたのですが、何故かこの2日、見れなくなってしまいました…… か、悲しい……

評価やブックマークなど、どんな反応でもいいので、まだ読んでやるぞ!と思ってくださっている方に、何かの反応頂けたらとても嬉しいです(涙

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