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054. 贈り物とハズレ召喚石

3月8日3回目の投稿です

ツムギはスケッチブックを広げたまま、机の上に必要な素材を並べていった。透輝液のボトル、アタッチメントの土台、ミストスライムウールの布……ノアとジンに贈るアクセサリーは、特別なものにしたかった。


「さて、お父さんとお母さんの分から作ろう!」


ぽてが『ぽぺ!』と元気よく跳ね、そのままツムギの隣にちょこんと座った。


まずはノアのアタッチメントネックレスから。

透輝液を使って、七種類の魔石入りパーツを作る。

肩こりをほぐす雷属性、体を温める火属性、涼しくする氷属性……毎日の気分や体調に合わせて付け替えられる、便利なネックレスだ。


「お母さん、よく肩がこるって言ってたから、雷属性のパーツはちょっと強めにしておこうかな。」


ツムギは慎重に透輝液を調合し、ひとつずつ魔石を封じ込めていった。光を当てると、透輝液が静かに硬化し、宝石のように澄んだパーツが生まれる。ひとつ手に取って角度を変えると、内側で細かな輝きが揺れる。


「うん、きれい……!」


ツムギは満足そうに頷くと、次々と残りのパーツを作っていった。

魔石のセットが揃ったら、次はアタッチメントの土台に取り付ける作業だ。

シンプルな円形のデザインに、透輝液のパーツがぴったりとはまるように調整する。

仕上げに、ツムギはミストスライムウールで包まれた小さな専用ケースを用意した。


「この内側に、こっそりメッセージを入れておこう。」


ツムギは繊細な筆を手に取り、布の内側に小さく書き込んだ。


「お母さん大好き。」


きっと、気づくのはずっと後。でも、ふとしたときに目にして、微笑んでくれたらいいな――そんな思いを込めて。」


「ぽてぃ!(すてき!)」


ぽてが嬉しそうにネックレスを見つめている。


「よし、次はお父さんの腕輪だね!」


ジンには、ノアとおそろいのアタッチメントの腕輪を作る。

透輝液のパーツはノアと同じく七種類のセット。

違いは、腕にしっかりフィットするように、少し丈夫な革のバンドを使うこと。


「お父さんは手を動かす仕事だから、外れにくい作りにしないとね。」


ツムギはアタッチメントの土台を加工し、革バンドにしっかり固定した。

パーツは簡単に付け替えられるが、しっかりと留まるように調整する。


そして、こちらも内側にメッセージを。


「お父さん大好き。」


「……ちょっと照れるけど、きっとお母さんと一緒に気づくよね。」


ツムギは小さく笑いながら、腕輪を仕上げた。


最後に、それぞれのアクセサリーをミストスライムウールのケースに収める。

ふわふわの布が、優しくアクセサリーを包み込み、大切な贈り物にぴったりの仕上がりになった。


「できた……!」


ツムギは完成したネックレスと腕輪を並べて眺める。

どちらも、両親のことを想って作った、特別なアクセサリー。


「喜んでくれるかな?」


ぽてが「ぽぺぺ!」と嬉しそうに跳ね回る。


「ふふ、ぽても渡すとき一緒に来てね?」


ツムギはノアとジンへの贈り物を見つめながら、次に作るアイテムのスケッチを広げた。

次は、ガルスとイリアへの贈り物――どちらも、自分にとって大切な存在だ。


「さて、ガルスさんのループタイから作ろう!」


ぽてが「ぽぺ!」と元気よく跳ね、ツムギの肩にちょこんと乗る。


ガルスは精錬屋を営んでいるため、日々熱を扱う仕事をしている。

そこで、彼に贈るのは熱を和らげる氷属性の魔石を封じ込めたループタイ。

作業中も邪魔にならず、さりげなく涼しさを感じられるようにデザインすることにした。


「ガルスさん、ぶっきらぼうだけど、いつもハルくんのこと気にかけてるし……本当は優しい人だよね。」


ツムギは透輝液を準備し、氷属性の魔石を封じ込めたパーツを作り始める。

光を当てると、澄んだ青色の輝きが透輝液の中でゆらめいた。


「うん、いい感じ!」


次に、ループタイの紐部分には、ミストスライムウールを加工した特別な布紐を使う。

この素材はしなやかで肌触りが良く、ガルスが身につけても違和感がないはずだ。


「仕上げに、ちょっとした遊び心を……。」


ツムギは透輝液のパーツに小さな刻印を入れる。それは、さりげなく彫り込まれた「G」の文字。


「……たぶん、気づいても何も言わないけど、ちょっとは喜んでくれるかな?」


ぽてが「ぽぺぺ!」と小さく跳ね、ツムギの手元を覗き込む。


「よし、これで完成!」


最後に、ミストスライムウールの小さな袋にループタイを包み込む。

涼しさを感じる特別なループタイ――ガルスにぴったりの贈り物になった。


次は、イリアへの贈り物。

彼女は商人であり、ツムギにとって商売の先生みたいなものだ。出会ってから今までいつもお世話になっている。


「イリアさんには、特別なジュエリーボックスを作ろう!」


ツムギは木材を用意し、ジュエリーボックスの土台となる部分を削り出していく。

イリアの洗練された美意識に合うよう、シンプルで高級感のあるデザインを目指した。


蓋の中央には、アタッチメントをつけられるような仕組みを取り入れる。

こうすれば、イリアが気分によってパーツを変えられる、特別なカスタムボックスになる。


「収納部分は、仕切りが動かせるようにしよう。大きめのアクセサリーも小さなピアスも、自由に収納できるように……。」


ツムギは木の内側にミストスライムウールを敷き、アクセサリーを優しく包み込める構造にした。

そして、最後の仕上げとして、蓋の内側にこっそりメッセージを刻む。


「あなたの目が選ぶものは、きっと特別なもの。」


「ふふ……イリアさん、これを見てどんな顔するかな?」


ツムギは微笑みながら、透輝液で作った小さなPOTENのロゴをボックスに埋め込む。

光を受けてほのかに輝くそのロゴが、ジュエリーボックスの特別感をさらに引き立てた。


「ぽてぃ!(おしゃれ!)」


ぽてがくるりと回って、嬉しそうにボックスを見つめる。


「うん、イリアさんにぴったりの贈り物になったね!」


最後に、ジュエリーボックスを柔らかい布で包み、プレゼントの準備が完了した。


「さて、次はエリアスさんの分……。」


ツムギは作業台に広げたスケッチを見つめながら、深く息をついた。

エリアスは証契士として、日々膨大な書類を扱う仕事をしている。

彼の机の上には、きっとたくさんの紙が並んでいて、風が吹けば飛んでしまいそうだ。


「だから、ペーパーウエイトがいいかな。」


ツムギは、工房の端に置いてあった古びた木の枝をそっと手に取った。

ジンが前に「この木、いい味があるだろ?」と言って取っておいたものだ。

滑らかな曲線を描く枝の一部を使えば、自然の温かみを感じるデザインになる。


「ここに透輝液を垂らして、雫みたいにして……。」


ツムギは透輝液の調合を始めた。

苔や小さな草花、微かに魔力を帯びた植物の種を慎重に封じ込め、木の上にそっと流し込む。


ゆっくりと硬化する透輝液は、木の上でぽってりとした美しい雫となり、まるで自然が作り出した小さな魔法の結晶のようだった。

淡い光がほのかに宿り、見る角度によって輝きが変わる。前世ではテラリウムと呼ばれていたものに似た感じのものができた。


「うん、エリアスさんの机に置いても邪魔にならないし、品のあるデザインになったかも!」


最後に、木の端に「E.V.(エリアス・ヴァンデール)」のイニシャルを刻み、小さく透輝液を流し込んで仕上げた。

光を受けると、イニシャルがさりげなく浮かび上がるようになっている。


「ぽぺぺ!(かっこいい!)」


ぽてが感心したようにテーブルウエイトを覗き込む。

ツムギはふと、透輝液の雫の中に閉じ込めたハズレ召喚石を見つめた。

淡く光を帯びている……気のせいだろうか?


「……この前のマントどめの時も、こんなふうに光ったよね?」


ぽてと顔を見合わせるが、何か確証があるわけでもない。けれど、ツムギの胸には、妙なざわめきが残った。


「ま、まあ……大丈夫だよね!」


ツムギは気を取り直し、エリアスへのプレゼントをミストスライムウールの布で包んだ。

「大事な書類が風で飛ばないように」という手紙を添えて――。


ナギへの贈り物――ぽてに似たボタンとハズレ召喚石を使ったアタッチメントブローチ


「さて、次はナギの分!」


ツムギはぽてを見ながら、「ふふっ」と笑った。


「ナギはぽてのファンだから、バザールで貰ったポテに似たボタンを使ってブローチを作ろうかな?」


「ぽてぃ!(おそろい!)」


ぽては嬉しそうに跳ねながら、ツムギの作業台の上でくるくる回る。


ナギは生地屋「ホビーナ」の看板娘で、布を扱うプロフェッショナルだ。

だから、服やバッグにつけられるアタッチメントブローチがぴったりだと思った。


まずはモールドに透輝液を垂らし、そこにぽてに似たボタンを配置して、動かないように一度固めてみた。


「うん、いい感じ!」


そして、その透輝液の中に、ハズレ召喚石を封じ込める。

光を当てると、またほんの一瞬だけ、石が微かに揺らめいた気がした。


「……え?」


ツムギは一瞬、手を止める。


「ぽぺ?」


ぽても不思議そうに覗き込むが、召喚石の光はすぐに消えてしまった。


「うーん……やっぱり気のせいなのかな?」


気を取り直して、透輝液がしっかりと固まるのを待つ。

透輝液のパーツの周りには、ヴィンテージの装飾を施し、クラシックな雰囲気を持たせた。


最後に、小さなアタッチメントを取り付けて、ブローチとして仕上げる。

これなら、ナギがその日の気分に合わせて、他のアタッチメントと組み合わせて使うこともできる。


「完成!」


ツムギは手に取ったブローチを眺めながら、「ナギ、喜んでくれるといいなぁ」と呟いた。


「ぽてぃ!(ぜったい よろこぶ!)」


ぽてが元気よく跳ねながら、ツムギの頬にぽふっとぶつかる。


「ふふっ、そうだね。」


ツムギは微笑みながら、ミストスライムウールの布でブローチを包み込んだ。


これで、すべての贈り物が完成した。


ツムギは作業台の上に並べたプレゼントを見つめ、満足げに息をつく。


「よし、これで準備完了!」


ぽてが「ぽぺぺー!」と飛び跳ねながら、完成したアイテムたちを見回す。

どれも心を込めて作った、大切な人たちへの贈り物だ。


けれど、透輝液の中で淡く光るハズレ召喚石――。

それが何を意味するのかは、ツムギにはまだ分からなかった。


(……でも、なんだか少し、気になるな。)


彼女は胸の奥に残る小さな違和感を振り払うように、プレゼントを丁寧に箱へと収めた。


あとは、みんなに渡すだけ、喜んでくれる姿を想像して、思わず笑みが溢れた。

明日も10時までと22時までに2回投稿予定です。

最近、執筆していると何か作りたくなってウズウズするのですが、読んでくださっている人も同じだと嬉しいな。なんて思いながら書いています。

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