051. POTENお披露目とその先へ
3月7日2回目の投稿です。
ついに、POTENブランドのアクセサリーがお披露目された。
イリアが選び抜いた目の肥えた顧客たちに向け、まずは厳選した数点のアイテムを宝飾店舗へと並べる。魔石をあしらったアクセサリーは、一つひとつが唯一無二の輝きを持ち、その繊細なデザインと、アタッチメントによる自由なカスタマイズ性が話題を呼んだ。
イリアは店の奥で静かに様子を見守っていたが、すぐに予想以上の反応が返ってきた。
「……これは、どこで作られたものなの?」
ある貴婦人が手に取ったのは、月影石を透輝液で封じ込めたネックレスだった。
光を受けてふんわりと淡い輝きを放つそのデザインに、彼女の目が吸い寄せられているのがわかる。
「POTENという新しいブランドです。手作業で作られているため、すべて一点ものになります。」
イリアは微笑みながら答える。
「一点もの……。」
貴婦人は指先でそっと石の表面を撫で、目を細めた。「なるほど、これは特別なものね。」
横にいた男性客も興味深げに別のブローチを手に取った。
「このアタッチメントという仕組み、面白いな。飽きることなく、装いに合わせて付け替えができるわけか。」
イリアは静かに頷いた。「ええ。このブランドの特長はそこにあります。
手元にある一つのアクセサリーを、用途に合わせてさまざまな形で楽しめるんです。」
「……ふむ。」
男性はしばらく考え込むように指でブローチを回し、やがて小さく笑った。
「君は、私の好みをよく知っているね。これはもらおう。」
「ご満足いただけて光栄です。」
イリアは微笑みながら、アクセサリーを包むよう店員に指示を出した。
それからわずか数日。
イリアの目論見通り、最初の顧客たちはこの特別なアクセサリーを大いに気に入り、早速次の来店時には家族や友人を伴って現れた。
「先日購入したネックレス、とても評判が良くて……。」
「友人が、どこで手に入るのか教えてほしいと言っていて。」
「もう少し違うデザインのものが見たいのですが、こちらにあるかしら?」
そんな声が次々と店内に響く。
イリアはその反応を冷静に受け止めながらも、内心では確信を得ていた。
――計画通り、いや、それ以上の速さでPOTENの名が広まっている。
ここで一気に品薄感を演出するため、すぐには商品を並べない。
顧客たちが増えるにつれ、「選ばれた人だけが購入できる特別なアクセサリー」というブランドイメージが強化され、瞬く間にPOTENの名は広がっていった。
「申し訳ありませんが、店頭には出しておりません。少々お待ちください。」
イリアはそう告げると、店の奥にある特別な収納ケースから慎重にアイテムを取り出し、顧客の前に置いた。
その瞬間、視線が釘付けになる。
「まあ……!」
「これは……前に見たものよりも、さらに美しいわ!」
顧客たちは、まるで秘密の宝物を手にするかのように、嬉々としてアクセサリーを眺めた。
こうして、選ばれた人しか手にできない特別なブランドという戦略が、完全に功を奏した。
イリアは、店のカウンター越しにその様子を見つめながら、静かに目を細める。
(これでPOTENの地盤は固まったわね。)
そして次の段階――
一部のアイテムを、手頃な価格帯で販売するベーシックラインの展開へと進む準備を始める。
イリアは再び視線を店内へと向け、微笑を浮かべた。
「さて、次の段階を仕掛けようかしら。まずはツムギに報告しなきゃね。」
そう呟くと、手際よく書類をまとめ、足早に工房へと向かった。
イリアは足早に工房へ向かう途中、POTENの反響を振り返っていた。
彼女の目論見以上に、アクセサリーはすさまじい勢いで売れていった。
特に魔石をあしらったアイテムは、一つひとつが唯一無二の輝きを持ち、選ばれた顧客たちを魅了した。
(予想以上の反響……まあ、ツムギの作品なら当然ね。)
イリアは自分の狙い通りにブランドが育っていくことに、確かな手応えを感じていた。
さて、次はベーシックラインの展開へ――
そんなことを考えながら工房の扉を開けると、そこには想像以上に賑やかな光景が広がっていた。
扉を開けた瞬間、イリアの耳に楽しげな声が飛び込んでくる。
「ぽてぃー!!(きらきら!!)」
「うわぁ、本当に透輝液って光が閉じ込められてるみたい……!」
小さな少年の声が弾む。
イリアが目を向けると、カウンターの前でハルが目を輝かせながら、ツムギが作ったアクセサリーを覗き込んでいた。
隣ではぽてがふわふわと飛び跳ねながら、ツムギの作った透輝液のパーツを指差して「ぽぺ!(まほうのかけら!)」とはしゃいでいる。
ツムギは少し困ったように笑いながら、「ちょ、ちょっと待ってね!ちゃんと触るなら手袋するんだよ?」とハルに注意を促していた。
ハルは慌てて手を引っ込め、「う、うん!わかった!」と真剣な顔で頷く。
そのやり取りに、イリアは静かに微笑んだ。
「随分、賑やかになったわね。」
ツムギが顔を上げ、驚いたようにイリアを見る。
「イリアさん!いらっしゃい!」
ジンも作業台から顔を上げ、「お、どうした?」と穏やかに声をかける。
「ちょっと顔を見たいなと思ってね。それに今日は、POTENの様子を報告しに来たの。」
ツムギが驚いたように目を丸くする。
「もう売れたんですか?」
「ええ、驚くほど早くね。」
イリアはカウンターに書類を置きながら続けた。
「最初に選ばれた顧客たちは、すぐにPOTENの価値を理解してくれたわ。そして、その魅力を知った人たちが次々と店舗に訪れ、想定以上の速さで完売したの。」
「す、すごい……!」
ツムギは思わず息をのむ。
「ぽぺ!(だいせいこう!)」
「本当に……ツムギお姉ちゃん、すごいよ!」
ハルも目を輝かせながらツムギを見上げる。
そんな彼の反応を見て、ジンは優しげな表情を浮かべながら、ツムギの方をちらりと見た。
「……ツムギも、いい仲間が増えてきたな。」
ツムギは、まだどこか実感が湧かないのか、「え、ええっと……」と口ごもる。
ぽてはツムギの肩の上に乗り、「ぽぺぺ!(ふえるふえる!)」と嬉しそうに跳ねた。
イリアはそんなツムギに視線を向け、少しだけ意地悪そうに微笑んだ。
「実感が湧かないのも無理はないわね。でも、もうPOTENはただの工房ブランドじゃない。特別なアクセサリーとして、市場に確かな足跡を残したのよ。」
ツムギはイリアの言葉をじわじわと噛みしめながら、小さく頷いた。
「……そう、なんですね。」
「そうよ。そして、次のステップへ進む準備が必要になったわ。」
イリアは改めてカウンターの書類を整えながら、ツムギとジンに向き直った。
「次は、いよいよベーシックラインの展開よ。」
工房の空気が、次の展開への期待と興奮でふわりと色づく。
本日結構筆が進んだので12時前後に3回目の更新予定です。