050. イリアの販売戦略
3月7日1回目の投稿です。
無事にパッケージが完成し、次なる課題は販売戦略の確立だった。
ツムギの工房に、イリア、ジン、ツムギが再び集まり、細かな戦略を詰めることになった。工房のテーブルには、新しく作られたPOTENのパッケージが並べられ、ツムギは改めてその仕上がりをじっくりと眺めていた。
「本当に……こんなに素敵になるんだね。」
ベルベットの外装に、さりげなく刺繍されたPOTENのロゴ。蓋を開くと、ミストスライムウールがふんわりとアクセサリーを包み込み、柔らかな光を帯びた透輝液の輝きを引き立てている。ツムギはしみじみと感動しながら呟いた。
「これなら、どんなお客様にも満足してもらえるでしょうね。」
イリアは微笑みながら、用意したノートを開いた。そこには、販売戦略の細かな計画が書き込まれていた。
「さて、ここからが本番よ。パッケージは整った。でも、ただ並べるだけでは売れないわ。戦略が必要よ。」
「たしかにな……。」
ジンは腕を組みながら、イリアの話に耳を傾ける。ツムギも真剣な表情で、彼女の言葉を待った。
「まず、最初に売り出すのはツムギが手がけたアクセサリーの中でも、特に価値のあるもの。透輝液を使ったものの中でも、魔石を封入したものを選んで、特別な顧客層にアプローチするの。」
「特別な顧客層?」
ツムギが首をかしげると、イリアは静かに頷いた。
「ええ。目の肥えたお客様がいる私の宝飾店舗へ、厳選したアイテムを並べるの。彼らは価値のあるものを見極める目を持っているし、新しいものに対する感度も高い。だから、ここで確実に認められれば、自然と口コミが広がるわ。」
「なるほど……。」
ツムギは納得したように頷いた。
「そして、この顧客層には特徴があるわ。」
イリアは指をすっと滑らせながら続ける。
「彼らは自分が気に入ったものを、必ず家族や友人に紹介する傾向があるの。だから、最初の購入者が気に入れば、数日後にはその人が大切にしている人たちを連れて、またお店に来る可能性が高いわ。」
「えっ、それって……!」
「そう、選ばれた人たちにだけ特別に商品を出すスタイルよ。」
イリアは自信ありげに微笑んだ。
「こうすれば、誰でも簡単に買えるものではない『特別な価値』を生み出せる。人は『選ばれた人しか手に入れられない』ものに惹かれるものよ。」
「たしかに……」
ツムギは思わずパッケージに触れながら呟いた。自分が作ったものが、そんな風に特別な価値を持つなんて、考えてもいなかった。
ジンも「なるほどな」と感心したように頷いた。
「ただし、これは限定販売。POTENの名前がついたものは、ツムギの手で作られたもののみにする。」
イリアは次のページをめくりながら言った。
「でも、透輝液とアタッチメントは、もっと広く普及させるべきよ。」
「それは、どうするんですか?」
ツムギが尋ねると、イリアは静かに微笑んだ。
「大量生産品として、ベーシックラインを作るのよ。」
「……ベーシックライン?」
「そう。POTENの名前をつけず、工房と提携して透輝液のパーツとアタッチメントを大量生産するの。価格を抑えて、手頃なアクセサリーとして広めるのよ。」
イリアはさらりと説明しながら、ツムギの反応を見た。
「そうすれば、誰でも透輝液の美しさやアタッチメントの便利さを手に取れる。でも、POTENの名前がついたものは、ツムギが作ったものだけ。」
「なるほど……!だから、POTENが特別なものとして扱われるんですね!」
ツムギはようやくイリアの考えの全体像を理解し、目を輝かせた。
「それでね、ツムギ。」
イリアはさらりと言葉を続けた。
「POTENのブランドとして販売するアイテムは、前にお願いした月に20個の納品分にする予定よ。そのアイテムは毎回テーマを決めて、それに沿ったデザインで作るのはどうかしら?」
「テーマ……!」
ツムギは目を輝かせた。
「はい!たとえば、『星のきらめき』とか『春風の贈り物』みたいに、その時々のイメージに沿って作ったら、作るのも楽しくなりますね!」
「そういうことよ。それなら、お客様も毎月の新作を楽しみに待つようになるわ。」
ツムギはワクワクしながら頷いた。
「それに、ツムギ個人で作るアイテムは、POTENの名前を自由に使えるようにしておくわ。」
「えっ、どういうことですか?」
「つまり、イリアのお店で販売する20個とは別に、ツムギが個人的に作るアイテムにはPOTENの名前を使っていいってことよ。」
「たとえば、個人のオーダーを受けたり、バザールや工房で販売したりね。」
イリアの説明に、ツムギは驚きながらも嬉しそうに頷いた。
「それなら、自分で作ったものも、もっと自由に届けられますよね!」
「さて――これで、大まかな販売戦略は決まったわね。」
イリアはペンを置き、満足げに微笑んだ。
「POTENはツムギが作る特別なブランドとして、少数限定で展開する。そして、透輝液とアタッチメントは、もっと手軽なベーシックラインとして広める。」
「はい……!」
ツムギは、じんわりと胸の奥が温かくなるのを感じながら、大きく頷いた。
「これなら、私の作ったものが、ちゃんとみんなに届く……」
「そうね。そして、ただ届くだけじゃない。正しく価値を持って広がるのよ。」
イリアは穏やかにそう言い、ツムギの肩をぽんっと軽く叩いた。
「ぽぺ!(ぜったい だいじょうぶ!)」
ぽてが誇らしげに跳ねる。ツムギは笑いながら、ぽてを抱き寄せた。
本日も22時までに2回目の投稿をします。