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049. パッケージの打合せ

3月6日2回目の投稿です。

後日、ナギ、ジン、イリア、ツムギ、そしてぽてが工房に集まり、パッケージ作りの打ち合わせが始まった。ナギは両腕に抱えきれないほどの生地の束を抱えて工房に飛び込んできた。


「ツムギ!持ってきたよー!見て見て、ガルスさんと一緒にミストスライムウールを改良した生地!あと、上質なベルベットも持ってきた!」


テーブルの上に次々と広げられる生地は、どれも手触りがよく、高級感に溢れていた。


ツムギは目を輝かせながら、ミストスライムウールを手に取る。「すごい……ふわふわで、でもしっかりしてる……!ガルスさんも手伝ってくれたんだ!」


「うん、前のよりも繊維を均等にして、扱いやすくしたの。こういう繊細なものを包むのにぴったりだと思うんだけど、どう?」


ナギの言葉に、イリアも手に取って確かめる。「確かに、柔らかくて衝撃吸収もできるなら、アクセサリーの保護には最適ね。」


ジンも腕を組みながら「これなら、よくある指輪ケースみたいな形にするといいかもな。開いたときに中のアクセサリーがしっかり見えて、高級感も出る。」


「たしかに!蓋を開けると、ミストスライムウールがアクセサリーを包み込むようなデザインにしたら、保護もできるし、見た目もいいかも!」


ツムギはひらめいたように声を上げた。ナギも「なるほど、それなら内側はこのミストスライムウールで優しく包んで、外側はこのベルベット生地を使えば、高級感が出ていいんじゃない?」と提案する。


「いい考えね。」イリアも頷きながら、「外側にブランドロゴを刺繍すれば、特別感が増すわ」と補足する。


ツムギはしばらく考え込んだあと、「それなら、刺繍はさりげなくPOTENの文字を入れる形がいいかも……?」と呟くように提案した。


ナギがすぐにスケッチを描きながら、「シンプルなワンポイントなら、上品でどんな人にも受け入れられやすいかもね」と同意する。


「じゃあ、まずは試作品を作ってみよう!」


ナギはさっと針と糸を取り出し、ツムギと一緒にパッケージの試作に取り掛かった。

「改良して針が通るミストスライムウールもできたのよ」とナギが自慢げだ。

イリアがサイズや形状の提案をし、ジンが使い勝手を考慮しながら細かい調整を加える。


しばらくして、試作品が完成し、ツムギがそっとアクセサリーをケースに収めた。外側は深みのあるベルベットで包まれ、蓋を開けると、ふわふわとしたミストスライムウールがアクセサリーを優しく支えている。ロゴの刺繍も上品で、さりげないアクセントになっていた。蓋を開けると、ふんわりとしたウールが形を保ちつつ、アクセサリーを持ち上げる仕組みになっていた。


「……すごい……!」


今まで自分が作ってきたアクセサリーが、パッケージひとつでここまで輝いて見えるなんて。まるで特別な宝物のようだった。


「これが、パッケージの力なのね……!」


ツムギは思わず呟き、指先でベルベットの感触を確かめる。

イリアはそんなツムギを見つめながら、柔らかく微笑んだ。


「パッケージは、ただの入れ物じゃないの。」


ツムギが顔を上げると、イリアはそっと試作品を手に取り、ゆっくりと開閉しながら言葉を続けた。


「お客様が最初に目にするのは、商品そのものじゃなくて、パッケージなの。パッケージが美しければ、それだけで『きっと中身も素敵なんだろう』って期待が膨らむ。」


ツムギは真剣な表情でイリアの言葉を聞きながら、小さく頷いた。


「でも、それだけじゃないわ。パッケージは、商品の価値を守る役割もあるの。どれだけ素晴らしいものを作っても、それが雑に扱われたら台無しになってしまうでしょう?」


「……たしかに。」


ツムギは少し考えながら、そっとアクセサリーを包むミストスライムウールに触れた。


「だからこそ、あなたの作るものを大切にしてもらうために、パッケージにも気を配ることが大事なのよ。」


イリアの言葉は、まるでツムギの心の中に静かにしみ込んでいくようだった。


「ものを作るだけじゃなく、それをどう届けるか、どう見せるか。そこまで考えるのが、職人としても商人としても大切なことなの。」


「……なるほど。」


ツムギは深く頷きながら、もう一度パッケージを見つめた。

ただの入れ物だと思っていたものが、こんなにも大切な役割を持っていたなんて――。


「イリアさん、教えてくれてありがとうございます。」


ツムギは笑顔で礼を言うと、イリアは満足げに「ふふ、これも大事な商売の心得よ」と優しく微笑んだ。


「ぽぺ!(なーるほど!)」


ぽてが納得したようにポンポンと跳ね、工房の中には和やかな空気が広がった。


ナギは試作品を確認しながら、「じゃあ、この生地でアクセサリーケースを正式に作るわね。うちの店で加工して、オーダーメイドで仕上げるから!」と張り切った様子で言った。


ツムギが嬉しそうに頷いたその時、ナギは思い出したように、「あ、そうだ!ぽて、こっちおいで!」と声をかけた。


ぽてが「ぽぺ?」と首をかしげながらナギの前にぴょこんと跳ねると、ナギは小さな包みを取り出し、嬉しそうにそれを広げた。


「ほら、ぽてのために小さく作り直した蝶ネクタイ!今度はちゃんとサイズも調整したよ!」


ぽての目がキラキラと輝く。「ぽぺぺ!(ちっちゃくなってる!)」


ツムギがそっと蝶ネクタイを首に巻いてあげると、ぽてはくるくると回りながら喜びを表現した。


「すごく似合ってる!」


ナギも満足げに頷いたが、ふと何かを思いついたようにジンに振り向いた。


「ジンおじさん、この蝶ネクタイの真ん中につけられるようなアタッチメントってある?」


ジンは少し考えた後、「おお、ちょうどいいのがあるぞ!」と工具箱を探り、手のひらに収まるサイズのアタッチメントを取り出した。


「これなら、マント止めのサイズのパーツなら付けられるぜ。」


ナギはそれを受け取ると、その場で器用に蝶ネクタイに縫いつけた。


「ぽて、これでマント止めもつけられるよ!」


「ぽぺぺ!(すごい!)」


ぽては誇らしげに胸を張り、まるで小さな貴族のような雰囲気を醸し出していた。ジンはそれを見て「なんか、フォーマルな感じになったな……」と笑い、ナギとツムギも「可愛い!」と大絶賛した。


イリアはそんな様子を見て、クスッと微笑みながら、「アクセサリーを店舗で売るときに、ぽてがこれをつけてお店にいたら、アイドルになりそうね……」と冗談とも本気ともつかない口調で言った。


ナギは「ぽて、POTENの公式マスコットになる?」と冗談交じりに言いながら、パッケージの仕上げ作業を進めた。


こうして、パッケージの形が決まり、すべてが整った。


「このパッケージも、このアクセサリーも、どちらもまだ市場に出ていない特別なものになったわね。話題になる可能性が高いわ。」

イリアが真剣な表情で呟いた。


その言葉に、ツムギは少し驚きながらも、わくわくとした気持ちを抱いた。自分が作ったものが、誰かの目に留まり、特別な価値を持つかもしれない。


そんな中、イリアはふと手を止め、「ところでツムギ、この生地も商標登録しておいた方がいいわよ」とさらりと言った。


ツムギは一瞬、驚いたように目を瞬かせた。「え、この生地も?」


「ええ。これは今までにない技術を使った生地でしょう? だったら、ちゃんと登録しておかないと、すぐに模倣品が出てくるわよ。」


「そっか……確かに!」


ツムギはすぐに納得し、後日エリアスに手紙を書いて手続きを依頼することを決めた。


数日後、エリアスはその手紙を手に取り、静かに目を通す。


「……ふむ。」


一見、淡々とした表情のまま書類を整えるが、指先にわずかな力が込められる。


(やれやれ、また面白いことを持ち込んでくる……。)


彼は手紙を軽く指で弾きながら、ふっと口角を上げた。


(商標登録に共同名義を加えるだけでなく、新たな素材まで……。)


今回の依頼は、ミストスライムウールの改良版を正式な商標として登録し、ハルの時と同じように、ナギとガルスを開発協力者として名義に加えるというものだった。

ツムギの発想は、常識の枠を軽々と飛び越えてくる。そんな彼女が生み出すものを、自分が記録し、守る。

それが、なぜか心地よく感じた。


(……これから忙しくなりそうだな。)


そう思いながらも、内心では抑えきれない高揚があった。

新しい価値が生まれ、それが形になっていく過程に関われる喜び。


机に書類を揃えながら、エリアスは小さく息をつく。


(だが……悪くない。)


僅かに細めた瞳は、すでに次の展開を見据えていた――。

パケ買いついついしちゃいますよね。

明日は10時までと、22時までの2回投稿予定です。

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