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045. 共同名義とツムギの思い

3月5日1回目の投稿です


ヴェルナーは契約書をめくりながら、静かに言葉を紡ぐ。


「さて、今回の商標登録と利益契約だが……エリアスに任せようと思う。」


「え?」


ツムギは驚きながら、隣に座るエリアスをちらりと見る。

彼はすでに契約書に目を通しながら、落ち着いた表情をしていた。


「彼はとても優秀でね。そろそろ独り立ちしてもいい頃だと思っている。本人の希望もあるし、年の近い者同士で関わり合った方が、今後何かと協力できるだろう。」


ヴェルナーの言葉に、ツムギは改めてエリアスを見た。

学院時代から彼の優秀さは有名だった。証契士としての知識と技術だけでなく、商業の流れを読む力も並外れていた。


そんな人が、自分の契約を担当してくれるなんて――。


「エリアスさんのことは、学院の頃からずっとすごい人だって聞いてました。

まさか担当してもらえるなんて……!」


ツムギは興奮気味に言いながらも、少し不安そうに彼を見上げる。


「……もしエリアスさんが嫌じゃなかったら、ぜひお願いします!」


エリアスはくすっと微笑み、契約書を閉じた。


「もちろん、最初からこの仕事はぜひ私が担当したいと思っていました。」


「えっ?」


「ツムギの発明は、今後の商業の流れを変える可能性を秘めている。私はそれを一番近くで見届けたいし、適切に守る責任を持ちたいと思っているよ。」


そう言いながら、エリアスは穏やかにツムギを見つめる。

ツムギは、彼の言葉の意味をじわじわと噛みしめながら、深く頷いた。

「……よろしくお願いします!」


すると、ジンが腕を組みながら、満足げに口を開いた。


「確かに、これから先、共に切磋琢磨する仲間は多い方がいい。」


「ええ、私もそう思います。」


ヴェルナーも微笑みながら頷く。


「それでは、契約手続きを進めよう。」


エリアスが契約書の束を手際よく並べ、一本のペンを差し出した。


「まずは商標登録だ。アタッチメントと透輝液、それぞれの技術を正式に登録し、ツムギの発明として証明する手続きを行う。」


ヴェルナーが商標登録の手続きを進める中、ツムギは意を決して口を開いた。


「すみません、少し相談があるんです。」


ヴェルナーとエリアスが同時に視線を向ける。


「なんだ?」


「実は、アタッチメントの商標登録を父との共同名義に、透輝液はハルとの共同名義にできませんか?」


一瞬の静寂。

エリアスが書類をめくりながら、ツムギをじっと見つめる。


「ツムギ、これは君一人の発明として登録できるケースだよ? 本当にそれでいいのか?」


エリアスの口調は、どこか慎重なものになっていた。共同名義にするということは、名義人全員がその技術の権利を持つことを意味する。通常、発明者が単独で所有権を持つほうが管理は楽で、利益分配もシンプルになる。

それを、ツムギはわざわざ他者と共有しようとしている。


「……はい。」


ツムギは、まっすぐな瞳でエリアスを見つめる。


「アタッチメントは、お父さんと一緒に考えたものだから、お父さんの名前が入っていないと、私の中で完成じゃないんです。」


ツムギはそう言って、ジンをちらりと見た。


ジンは腕を組んで黙っていたが、どこか照れ臭そうに鼻を鳴らした。


「まぁ、ツムギがそう言うなら、オレはそれで構わねぇよ。」


「……わかりました。」


エリアスは、冷静にアタッチメントの書類に「ジン・ツジヤ」の名を加えた。


「では、透輝液のほうも同じ理由で?」


「はい。」


ツムギは少し息を吸い込み、言葉を続ける。


「透輝液は……ハルのアドバイスがなかったら、生まれていなかったんです。彼が晶樹液を見つけてくれたからこそ、私はこの発明にたどり着けたんです。」


「……。」


エリアスはその言葉を聞いて、思わずペンを持つ手を止めた。


――滅多にない、いや、こんなケースは聞いたことがない。


エリアスは商標登録の手続きを扱う中で、多くの発明家や商人たちを見てきた。

通常、発明者は自分の技術を独占し、少しでも有利な条件で利益を得ようとする。

ましてや、相手が職人ならともかく、まだ子どもであるハルとの共同名義とは……。


「……君、普通は発明者はこういう場合、自分の名義で登録したがるものなんだけど?」


エリアスは、どこか信じられないという顔でツムギを見た。ツムギは、そんな彼の反応に少し困ったように笑う。


「でも、私一人でできたことじゃないし……。だから、正しく残したいんです。」


エリアスは、書類にハルの名前を記入しながら、ツムギの横顔を見つめた。


(この子は、自分の技術を「一人のもの」だと思っていない。)


ものづくりの喜びを、誰かと分かち合うことを大事にしている。

それが、彼女の考え方なのだ。


――だからこそ、彼女が作り出すものは、私が守りたい。


エリアスは、心の中で密かにそう決意する。


「……わかった。アタッチメントは共同名義で問題ないとして、透輝液に関しては契約内容をもう少し精査する必要があるな。例えば、ツムギを正式な作り手としつつ、ハル君を開発協力者として明記し、利益の分配方法を明確にするのが妥当だろう。」


エリアスは淡々とした表情を保ちながら、ツムギに書類を差し出した。


「アタッチメントについては、これで正式に共同名義の商標登録が可能になる。最終確認として、ここにサインを。」


ツムギは改めてペンを取り、深く息を吸い込んだ。


「……お願いします。」


そう言って、力強くサインを記す。


ヴェルナーは書類を受け取ると、静かに魔導刻印を施した。

契約が成立し、淡い光が書類に灯る。


「これで、アタッチメントはツムギとジンの共同名義として正式に登録された。」


ヴェルナーが厳かに告げる。


ツムギは少し肩の力を抜いて、ホッとしたように微笑み、ぽてが「ぽてぃ!」と誇らしげに跳ねた。


「ぽてぃ!(しょーめい、おわり!)」


「えへへ、ありがとう、ぽて。」


ツムギがぽてを抱き寄せると、エリアスが静かにツムギの方を見ていた。


(この子の考え方は、本当に面白い。)


彼女の技術は、ただの発明じゃない。

誰かと共に作り、誰かと分かち合う――

そんな「ものづくりの本質」を、彼女は無意識のうちに体現している。


「……ツムギ。」

「はい?」

「透輝液の共同名義についてなんだけど……」


エリアスは書類を指で軽く弾きながら、淡々と言った。


「ハルくんのサインが必要だね。」


「あっ……!」


ツムギは、完全にそのことを忘れていたことに気づき、ハッとした表情を浮かべる。


「そ、そうですよね……! どうしましょう?」


「商標登録を正式に有効にするには、共同名義者の意思確認が必須だからね。だから、彼のサインをもらわないといけない。」


エリアスは書類を整えながら、さらりと言葉を続ける。


「だから、私が今度、工房に行くよ。その時にハルくんを呼んでもらえるかな?」


「えっ……エリアスさんが工房に?」


ツムギは少し驚いたように目を瞬かせる。


「もちろん。商標登録の手続きを確実に進めるためだからね。」


エリアスは涼しい顔で言う。


「そ、それは……! ぜひお願いします!」


ツムギは少し緊張しながらも、嬉しそうに頷いた。


「ハルにも話をして、都合の良い日を確認しておきますね!」


「よろしく頼むよ。」


エリアスは微笑みながら書類を閉じる。

ヴェルナーも静かに頷いた。


「それでは、その件は後日ということで。」


「はい!」


ツムギは改めて背筋を伸ばし、契約が無事に進んだことを実感する。


エリアスはそんなツムギの様子を見ながら、内心で静かに思う。


(ハルくんか……彼にも、会ってみるのが楽しみだな。)


こうして、ツムギの発明は正式に商標登録される道筋が整い、新たな一歩が踏み出されることとなった――。

本日は10時までに2回目22時までに3回目の更新をさせて頂きます。

ツムギの世界図鑑、キャラクターとシステムを追記しました。

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