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040. お揃いのマントどめと父の威厳

3月2日3回目の投稿です

ツムギは工房の作業台に座り、白い紙を広げた。インク壺を用意し、ペン先を軽く浸してから、丁寧な筆記体で文字を綴る。

ぽてはツムギの横で、じっと紙を覗き込んでいる。


「ぽてぃ……(まじめなかお)」


「ふふ、ちゃんと書けるかなって見張ってるの?」


ツムギは微笑みながら、静かにペンを走らせた。


『ハルくんへ』

マントどめが、やっと完成しました!

ぽてとお父さんと一緒に、すごく素敵に仕上げました。ハルくんのために、風紡草かぜつむぎそうの葉っぱも入れたから、きっと気に入ってくれると思うよ。

都合がいいときに、工房まで取りに来てくださいね。会えるのを楽しみにしています!


ツムギより


「……うん、こんな感じかな?」


手紙を書き終えると、そっとインクを乾かし、折りたたんで封筒に入れた。ハルの家の住所を書き、封蝋でしっかりと閉じる。


「よし、郵便局に行こう!」


ぽてを抱き上げ、一緒に町の中心部へ向かった。カムニア町の郵便局は、こぢんまりとしているが、人の出入りが多い。木製のカウンターの奥では、郵便員が手紙を仕分けており、時折、魔導列車の運行状況を確認している様子が見えた。


ツムギはカウンターに封筒を置いた。


「ハルくんの家まで速達でお願いします!」


郵便員の男性は頷きながら、封筒に**「速達印そくたついん」**を押した。魔法陣がふわりと浮かび上がり、封筒がほのかに輝く。


「速達なら、今日の夕方までには届くよ。料金は50ルクだ」


「お願いします!」


ツムギはポーチから50ルクの硬貨を取り出し、カウンターに置いた。郵便員がそれを受け取ると、封筒を仕分け用の箱に収める。そこにはすでにいくつかの手紙があり、一定量が集まると魔導列車に載せて配送される仕組みだった。


「これで、ちゃんとハルくんに届くね」


「ぽてぃ!(どきどき!)」


ぽても期待に満ちた目で封筒を見送る。

あとは、ハルが手紙を読んで工房に来るのを待つだけ。

ツムギは楽しみな気持ちを胸に、工房へと戻るのだった。


それからツムギは工房に籠る日々が続いた。

試作が終わり、いよいよイリアに頼まれたアクセサリー作りに本格的に取り掛かることになった。


本日も、工房の中では、ツムギが黙々と透輝液とうきえきのパーツを取り出し、アタッチメントを組み合わせながら指輪やイヤリング、ネックレスを仕上げていた。


透輝液の透明感を活かした繊細なデザインのアクセサリーたちは、光を浴びて美しく輝いている。テーブルの上には、完成したばかりの万年筆の装飾やヘアアクセサリー、マントどめがずらりと並び、工房はまるで宝石店のような輝きを放っていた。


「……ふぅ、あともう少し!」


ツムギが細かい調整をしていると、工房の奥からジンの低い声が響いた。


「ツムギ、できたぞー!」


「えっ、本当!? お父さん、すごい!!」


ツムギが振り向くと、ジンは手のひらに金属製の指輪を数点持って立っていた。


それは、イリアが運び込んだエンブレムやプレートを加工し、サイズ調整が可能な形に仕上げたものだった。ジンは試行錯誤の末、素材の中心に穴をあけ、切り込みを入れて一度細長い長方形に加工してから指輪の形へと仕上げるという方法にたどり着いた。


「色々試したが、こうやって加工するのが一番しっくりくるな。素材の強度も保てるし、指のサイズに合わせて微調整もできる」


ジンが指輪を軽く曲げて見せると、しなやかに広がり、また元の形に戻った。繊細な加工が施された金属の表面には、イリアが持ち込んだ素材特有の紋様が浮かび上がっており、シンプルながらも高級感があった。


「お父さん、本当にすごい……! こんなに綺麗に仕上げるなんて!」


ツムギが感嘆の声を上げると、ぽてがじっとジンを見つめながら、ふわりと跳ねた。


「ぽてぃ……(たくさん徹夜してたね……)」


「ん? なんか言ったか?」


ジンがぽてを見下ろすと、ぽては 『何でもないよー』 とでも言うように、くるりと転がって誤魔化した。


ツムギはそんなぽての様子にクスッと笑いながら、ジンの作った指輪をそっと手に取る。


「これなら、どんな人の指にも合わせられるし、長く使ってもらえそうだね!」


「まぁな。イリアの注文通り、商売向きに仕上げたつもりだ」


ジンはそう言いながら、少し誇らしげに腕を組む。ツムギは感心しながら、出来上がった指輪に透輝液で作ったパーツを丁寧にはめ込み、アクセサリー類と一緒に並べた。


そろそろ休憩をしようかなと思っていたところで、工房の扉が軽く叩かれた。


「ツムギお姉ちゃん、いる?」


元気な声に、ツムギは手元の作業を止めて扉を開けた。


「ハル君! いらっしゃい!」


「ぽてぃー!(ハルー!)」


ぽてがぴょんと跳ねながらハルのもとへ駆け寄る。ハルはにこっと笑い、ぽてのふわふわの体をそっと撫でた。


「ぽて!会いたかったよー! 元気にしてた?ツムギお姉ちゃん、魔導手紙ありがとう!」


ハルの瞳はキラキラと輝いている。ツムギは嬉しそうに微笑みながら、作業台の上に並べていた三つのマントどめをそっと持ち上げた。


「じゃーん! できたよ、お揃いのマントどめ!」


ハルの目がぱぁっと輝く。


「すごい……! ほんとにお揃いだ!」


透明な透輝液の中に、桃色の石やぽてに似たボタン、琥珀色の召喚石が埋め込まれ、風紡草かぜつむぎそうの小さな葉がふわりとアクセントになっている。優しい光が差し込むたびに、パーツの一つひとつがきらめいて見えた。


「ハル君が『お揃いがいい』って言ってくれたから、嬉しかったよ!ぽてと考えながら作ったんだよ」


ツムギが手渡すと、ハルは大切そうに手のひらに乗せて眺める。


「ありがとう、ツムギお姉ちゃん! ぽても、パーツ作りに協力してくれたんだね!」


「ぽてぃ!(まかせて!)」


ぽては得意げに胸を張る(?)。


「このマントどめね、ただの飾りじゃなくて、ちゃんとアタッチメントで取り外しできるから、別のものにも付け替えられるんだよ!」


ツムギが実際にぽてのマントどめを外し、またすぐに装着して見せると、ハルは驚きの声を上げた。


「すごい! これなら、ネックレスにしたり、ブローチにしたりもできるんだね!」


「そうそう! それに、透輝液でコーティングしてるから、丈夫で軽いし、傷もつきにくいよ」


「お父さんがアタッチメントの強度を調整してくれたおかげで、しっかり留まるのに外すのも簡単!」


ハルは目を輝かせながら、そっと自分のマントにつけてみた。


「……ぴったりだ!」


すると、ぽてがぴょんぴょん跳ねながら、ハルのマントどめをツンツンと突つく。


「ぽてぃ!!(おそろい!)」


ぽては、自分のマントをひるがえして、マントどめを自慢げに見せた。


「ぽて、すごく嬉しそうだね」


「うん! ぼくも、すっごく嬉しい!」


ハルはツムギを見上げながら、心からの笑顔を見せた。

その様子を、工房の奥からジンが静かに見守っていた。


「……ふふ、楽しそうだな」


腕を組み、満足げに微笑むジンの横で、ツムギはぽてとハルを見ながらにっこりと頷いた。


「うん、最高の出来だね!」


ハルはしばらく、手のひらのマントどめを眺めていたが、ふとツムギを見上げて小さく口を開いた。


「……大事にするね。」


その言葉に、ツムギの胸がじんわりと温かくなる。


ハルはマントをひるがえし、もう一度ぽてと一緒にくるりと回った。


「ぽてぃー!(かっこいい!)」


楽しげな笑い声が、工房の中に響いた。


しばらくの間、工房の中では「ああでもない」「こうでもない」と、マントどめのデザインや機能性について、三人と一匹の熱い議論が交わされていた。


「もしも、これが魔導結晶通信みたいに使えたら面白いのに!」


そんな冗談まじりの話題で大盛り上がりした瞬間、それぞれのマントどめがほんのわずかにキラリと控えめな光を放った。


だが、その微かな輝きに気づいた者は、まだ誰もいなかった。


楽しいおしゃべりと共に出されたお菓子とお茶は、すっかりなくなり、ハルは名残惜しそうにしながらも、再びお礼を言い、工房を後にした。


ツムギはその背中を見送ると、軽く伸びをしてから、再び作業台に向かう。


イリアに渡す大量のアクセサリー作り――まだやることは山積みだった。

ぽての誕生秘話やハルの冒険記など、書きたいと思っているサイドストーリーが沢山あるのになかなか手がつけられません。

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