039. 秘密の試作とマントどめ
3月2日2回目の投稿です
工房の奥。
ジンは金属片をじっくりと眺めながら、作業台の上に並んだ試作品の山を見やる。
(……ようやく、ここまで来たか)
思えば、このアタッチメントが完成するまで、何度試作を繰り返しただろうか。ツムギの「お客様それぞれの『特別』を作れるようにしたい」という言葉を聞いたとき、思わず「面白いな」と感心した。
だが、その裏では――
(いや、ほんとに難題だったぞ、ツムギ……!)
装飾品の付け替えを簡単にしつつ、強度を保ち、繊細なデザインを損なわない。単純な留め具じゃダメだし、複雑にしすぎると扱いにくい。軽くすれば耐久性が落ちるし、強度を増せば開閉が固くなる。
(……って、こんなこと考えながら何回作り直したっけな)
ちらりと作業台の端を見れば、試作品の残骸が小さな山を築いている。ツムギには「こんなのを考えてみたんだが」と、涼しい顔で試作品を見せたが、その裏でどれだけ苦労したかは口が裂けても言えない。
(まぁ……ツムギが喜んでくれたなら、それでいいんだけどな)
ふっと笑みをこぼしながら、手元のパーツを組み上げる。
カチリ。
差し込み式の固定部分が、心地よい音を立てて収まった。ゆっくり回転させると、ロックがしっかりとかかる。開閉のスムーズさも問題ない。
ジンは試作品を軽くひねって固定を確認し、わざと少し力を込めて引っ張ってみる。外れない。だが、ロックを解除すると――
カチッ。
スムーズにパーツが外れた。
(……よし)
満足げに頷きながら、指で金属部分を軽く弾く。澄んだ音が工房に響く。
「おぉ、今回はいい感じに仕上がったな」
ぽてが工房の隅からじーっと見つめていることに気づき、ジンは片眉を上げた。
「おい、そんな目で見るなよ。今回は一発でうまくいったんだぞ」
ぽて:「ぽてぃ……(ほんとに?)」
「ほんとだよ。……まぁ、多少の試行錯誤はあったけどな」
ジンは手元の試作品の山をそっと隠しながら、静かに咳払いをする。
すると、工房の入り口から軽やかな足音が響く。
「お父さん、アタッチメントできた?」
ツムギが、完成したマントどめのパーツを手に持ち、嬉しそうに駆け寄ってくる。その隣で、ぽてがぴょんぴょん跳ねながらついてくる。
ジンは、何事もなかったかのように試作品を持ち上げ、ツムギの前に差し出した。
「ほらよ。こんな感じにしてみた」
ツムギはアタッチメントを両手で受け取り、じっくりと観察する。
「……すごい! ぴったりだし、思った以上に軽い!」
ぽて:「ぽてぃ!(すごーい!)」
ツムギは早速、透輝液で作ったマントどめのパーツをアタッチメントにはめ込む。カチリ、と音がして、パーツがしっかり固定される。軽く引っ張っても外れず、でもロックを解除すれば簡単に付け替えられる。
「わぁ……! すごく使いやすい!」
ジンはその様子を見ながら、わざとぶっきらぼうに言う。
「まぁ、このくらいは作れねぇとな」
ぽて:「ぽてぃ……(すっごい苦労してたくせに)」
ジン:「……ぽて、お前、何か言ったか?」
ぽて:「ぽてっ!(なにも!)」
ツムギはそんな二人のやりとりをくすくす笑いながら、三つあるお揃いのマントどめをぽてと並べて見つめる。
「これで、みんなお揃いだね!」
ぽて:「ぽてぃ!」
ジンはふっと息をつきながら、作業台の試作品の山をこっそり片付ける。
(……ま、こんなもんだろ)
ツムギが笑ってくれるなら、それでいい。
静かに、満足げに頷いた。
ツムギは作業台の上に並べた三つのマントどめを見つめ、思わず頬が緩んだ。
どれも同じデザイン。
でも、詰め込まれた想いは、一つひとつが特別だった。
透輝液に、桃色の石とぽてのボタン、琥珀色の召喚石、ハルを思って入れた風紡草の小さな葉、ツムギの思い出のリボンやビーズが美しく閉じ込められている。
光を受けると、それらがまるで魔法のようにきらめき、ゆるやかに溶け合う。
「うわぁ……すっごく綺麗!」
ツムギがうっとりとつぶやくと、ぽても興奮したように飛び跳ねる。
「ぽてぃ!ぽてぃ!(ぴかぴか!すごい!)」
ジンは腕を組みながら、完成品をじっと眺める。
「ふん、やるじゃねぇか」
ツムギは満面の笑みで頷いた。
「ね! ちゃんとイメージ通りになったよ!」
「……まあ、イメージ通りって言うか、それ以上に凝ってたけどな」
ジンはちらりとぽてを見た。
「ぽてぃ?」
「お前、最初はどのボタンにするかでツムギと真剣勝負してただろ」
ぽて:「ぽてぃー!(たいせつ!!)」
ツムギはくすっと笑う。
「だって、お揃いだけど、それぞれの大切なものを詰め込みたかったんだもん」
そう。
このマントどめは、三人が一緒に選び、考え、作ったもの。ただのお揃いじゃなく、みんなの「大切」を詰め込んだ特別なアクセサリーだった。
「ぽてぃー!(つけたい!)」
ぽてが、バザールで買った静紡布のマントをふわっと広げる。
ツムギは微笑みながら、ぽて用のパーツをアタッチメントを装着し、マントどめをしっかりと取り付けた。
カチリ。
「……よし、完成!」
ぽてはくるりと回り、マントをひるがえす。
「ぽてぃ~!!(かっこいいー!!)」
ツムギも自分のマントにつけてみると、パーツはしっかりと留まっていて、外れることはなさそうだ。ロックを解除すればもちろん簡単に外せる。
「うん、いい感じ!」
ジンは満足げに頷いた。
「まぁ、これなら使いやすいだろうな」
「よし! じゃあ、ハル君にも早く渡さなきゃね!」
ツムギが嬉しそうにマントどめを撫でると、ぽてもぴょんと跳ねた。
「ぽてぃ!」
「これで、みんなお揃いだね」
透き通ったマントどめの中で、ぽてのボタンがやさしく輝いている。
ツムギはそれを大事そうに見つめ、心の中でそっとつぶやいた。
(これはいろんな形のサイズ展開があっても面白しろそう…)
ジンはそんなツムギの様子を見て、作業台の試作品をそっと片付けながら、静かに呟く。
「……ま、またなにか思いついたようだな」
ツムギの創術と、ジンの職人技が生み出したアタッチメント。
父と共同で作れたことがなんだか嬉しいツムギは、もう一度、手の中のマントどめを愛おしそうに撫でた。
タイトルが分かりにくいので直したいなとずっと思っていたので、少しずつ変更中です!また、ツムギの図鑑も少し加筆しました。