031. 終わらない試作、ジンの受難
2月27日2回目の投稿です
朝の1回目の投稿少し遅れてしまって申し訳ありませんでした。
ツムギは整理した素材を眺めながら、ふぅっと息を吐いた。
(さて……ここからが本番だね)
金具、宝石、リボン、装飾パーツ――それぞれ魅力的な素材が揃っている。だけど、ただ組み合わせるだけじゃダメ。
「どうやって新しい価値を生み出すか」
それが創術屋としての腕の見せ所だ。
ツムギはスケッチ帳を開き、改めてアイデアを描き始める。
「石のサイズはバラバラだけど、いくつか同じ大きさに揃えて、アタッチメントに合うようにすれば……組み合わせが無限大で、世界に一つだけの特別なアクセサリーになるかも!」
「ぽぺぺ!(いいね!)」
ぽてが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。
(そういえば、前世で海外のコインから指輪を作ったことがあったな……さっきのエンブレムパーツを応用して指輪にして、お父さんの作るアタッチメントと組み合わせれば……!)
ツムギの手が止まらない。次々と頭の中にアイデアが浮かび、スケッチ帳に描き込んでいく。
ページがどんどん埋まっていき、気づけばテーブルには何枚ものデザイン画が広がっていた。
「ぽぺ……(そろそろ休憩しないと、また倒れるよ!)」
ぽてが心配そうにツムギの肩をつつく。
「え? あ……そっか、もうこんなに時間が経ってたんだ」
窓の外を見ると、陽がだいぶ傾いている。夢中になりすぎて、時間を忘れてしまっていたらしい。
「でも、なんだか手応えを感じるよ! ぽても、手伝ってくれてありがとう!」
「ぽぺっ!(えっへん!)」
ぽてが自慢げに胸(?)を張る。
ツムギはスケッチ帳を閉じ、整理した素材をそっと片付けた。
(よし、ここまででアクセサリーの輪郭が見えてきた……! あとはお父さんのアタッチメントと組み合わせて、形にするだけ!)
「よし、ひとまず今日のところはここで区切りをつけて、お父さんにアタッチメントの相談をしてみよう!」
ツムギはスケッチ帳を抱え、工房の奥へと向かった。
そこには、ジンが大きな作業台の前で腕を組み、なにやら考え込んでいる姿があった。
「お父さん、ちょっと相談があるんだけど!」
ツムギが声をかけると、ジンはゆっくりと顔を上げる。
「おう、どうした?」
「アタッチメントの仕組みなんだけど……」
ツムギがスケッチ帳を開こうとすると、ジンはニヤリと笑って作業台の隅を指さした。
「……おう、もう作ってるぞ」
「えっ?」
ツムギが驚いて視線を向けると、そこにはいくつもの試作品が並んでいた。小さな金具のパーツや、石をはめるための細工が施された金属の台座――どれも細かく精巧に作られている。
「す、すごい……!!」
ツムギは目を輝かせながら、ひとつ手に取ってじっと観察する。
「お父さん、いつの間にこんなに……!」
「まあな。ちょっと考えてみたら、こんな感じに仕上がったってわけだ」
ジンは涼しい顔で言いながら、腕を組んでみせる。
「ぽぺ……(ふーん?)」
ぽてがじと目でジンを見上げる。
「ぽぺぺ!(夜な夜な苦労してたくせに!)」
「……」
ツムギがぽての言葉を聞いて、ジンの顔をじっと見つめる。
「お父さん……ぽてが、夜な夜な苦労してたって……」
「ち、違うぞ!?」
ジンが少し焦ったように言うが、耳がほんのり赤くなっている。
「ぽぺぺぺ!(毎晩遅くまで試作しては『くそっ、またダメか!』って言ってた!)」
「お父さん……!!」
ツムギの尊敬の眼差しが、さらに増した。
「そ、そんな大したことじゃねぇよ……!」
ジンは咳払いをして誤魔化すが、なんとなく誇らしげにも見える。
「でも、本当にすごいよ! 私が考えたアタッチメントのアイデアが、こうやって形になってるの、すごく嬉しい!」
ツムギは試作品を手のひらに乗せ、嬉しそうに笑った。
「ふふ、お父さん、本当にありがとう!」
「お、おう……!」
ジンは照れくさそうに頭をかく。
「まぁ、まだ改良の余地はあるがな」
「うん! そこを一緒に考えたいんだ!」
ツムギの言葉に、ジンはしっかりと頷いた。
ツムギがスケッチ帳を広げ、アタッチメントの構想を練り始めると、ジンは腕を組んで興味深そうに覗き込んだ。
「なるほどな。付け替えできるアクセサリーってのは面白い。だが、サイズはどうするんだ? でかすぎると邪魔になるし、小さすぎると加工が大変だろ」
「それはね、大・中・小のスリーサイズに分けようと思ってるの!」
ツムギはそう言って、スケッチ帳のページをめくりながら説明を続ける。
「まず、一番大きいサイズは直径5センチ。これはブローチやマント止め、ヘアアクセ、ネックレス、バッグチャームなんかに使えるよ!」
「ふむ、確かにこのくらいのサイズなら、装飾としてもしっかり映えるな」
「でしょ!? それで、中サイズは2センチくらい。これは指輪やイヤリング、ネックレス、ブローチ、万年筆やペンの飾りにもできるの!」
「万年筆の飾りか。なるほど、細かいところにこだわりたい人にはいいかもしれんな」
ジンが顎に手を当てて感心していると、ツムギはさらに続けた。
「そして、一番小さいサイズは1センチくらい! これは指輪やイヤリング、ネックレスにもぴったりだし、万年筆のキャップとかにも付けられる!」
「なるほどな……最初から形を決めておけば、応用も効きやすいわけか」
ジンが納得したように頷いたところで、ふと疑問を口にする。
「けどよ、ツムギ。石のサイズはバラバラだろ? どうやって統一するんだ?」
「それはね……こうやって揃えるの!」
ツムギはにこっと笑って、スケッチ帳にさっと図を描く。
「まず、石やパーツを小さい円の中に並べて、その形で固めるの! 例えば、大小バラバラの石やビーズを組み合わせて、丸い枠の中にぴったりおさまるようにするの!」
「おぉ……!」
「そうすれば、一人一人オリジナルのデザインなのに、付け替えもしやすくて便利でしょ!」
ジンは目を見開き、驚いたようにスケッチを見つめる。
「……すげえな、ツムギ。その発想は思いつかなかった」
「えへへっ!」
「確かに、これなら規格を統一しつつ、個性も出せる。商売としても面白いぞ」
ジンは感心したように腕を組んで頷いた。
「ぽぺっ! ぽぺぺ!(すごい! ぽてもほしい!)」
ぽてが興奮してツムギの肩に飛び乗り、ちいさな前足(?)をパタパタさせる。
「え、ぽても?」
「ぽぺっ!(ぽてのマント止めもつくって!)」
「えぇ!? ぽて、マント止め使うの……?」
「ぽぺ!(オシャレ!)」
「……まぁ、ぽて専用の小さいやつなら作れるかも」
「ぽぺぺ!(やった!)」
ぽてが嬉しそうに跳ねると、ジンがクスクスと笑った。
「ったく、お前らは本当に楽しそうだな」
「だって楽しいもん!」
ツムギは笑いながら、改めてジンの方を向いた。
「お父さん、まずはこの三種類のアタッチメントを作るための金具をお願いしてもいい?」
「ああ、もちろんだ」
ジンは腕をポンと叩き、頼もしく頷く。
「せっかくのアイデアだ、しっかり形にしてやるよ」
ツムギは嬉しそうに頷き、スケッチ帳を開き直す。
「ありがとう!よーし、それじゃあ次は、どんな種類の土台を作るか説明するね!」
ぽてが「ぽぺっ!」と元気よく鳴き、ツムギの膝の上でくるりと回る。
ジンは「ふぅ、これで一段落か……」と息をつこうとした瞬間、ツムギの宣言が耳に入る。
「……は?」
思わず聞き返しそうになるのを、ギリギリで飲み込む。
(アタッチメントの話が終わったかと思ったら、次は土台……マジか……マジか……!!)
じわじわと込み上げる動揺を押し隠しながら、ツムギのスケッチ帳をちらりと見る。
すでにページの上には、いくつもの土台のアイデアが描かれていた。
(……こいつ、すでに考えてたな!? しかも、わりとしっかり……!!)
ツムギはそんなジンの心の動揺には気づかず、楽しそうにスケッチ帳をめくる。
「えっとね、お父さん、土台はシンプルなものから少し凝ったものまで色々あって――」
(いやいやいやいや待て待て待て! さっきのアタッチメントだってなかなか手間がかかりそうだったのに、まさか次の案件がすぐに来るとは……!)
ジンは心の中でひそかに天を仰ぐ。
(さすがツムギ、さすが我が娘……創術屋としての熱意は素晴らしい……! だが!! 俺の仕事量が、確実に増えていくのが見えるぞ!!!)
一抹の不安を抱えながらも、職人の意地が邪魔をして「ちょっと待て」とは言えない。
「……まぁ、まずは話を聞いてみるか」
(頼む……頼むから、今度こそ簡単に作れそうな金具でありますように……!!)
ぽてが「ぽぺっ!」と元気よく鳴き、ツムギの膝の上でくるりと回る。
だが、その願いが叶うことはなく――後々、土台の設計もなかなかに難しいものになると判明するのだった。
先日★をつけて下さった方がいて、すっごく嬉しかったので、今日は3話投稿します。
まだ見てくれているかわかりませんが、ここでお礼を言わせて下さい。本当にありがとうございました。
夜の10時までにもう1話投稿予定です。