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028. 家族団欒とジンの奮闘

2月26日1回目の投稿です

それから数日間、気がつけばツムギは、ずっとアクセサリーのことばかり考えていた。


工房の掃除をしながら、ぽてを膝に乗せて糸の束を整理しながら、街を歩きながら。


(お客さんが自由に組み合わせられるアクセサリーって、どんなふうに見えるのかな? 色々なパーツが並んでいて、好きなものを選んで……うーん、でも、それだけじゃ不安かも?)


考え出すと止まらず、仕事の合間にスケッチ帳を開いてしまいそうになるが、ぽてのじと目に見つかって「ぽぺ!」と注意される始末だった。


「ご、ごめんね! ちゃんと今の仕事に集中するよ!」


「ぽぺぺ……(まったくもう)」 


そんなやり取りを繰り返しながらも、ツムギは心のどこかでソワソワしたまま、今日も仕事を終えて家に帰った。


「ただいまー!」


「おかえり、ツムギ!」


ノアの明るい声が、キッチンから響いてきた。部屋の中には、香ばしい焼きたてのパンの匂いと、スープの温かい香りが漂っている。


「お腹すいたでしょ? すぐにご飯にしましょうね」


「うん! お母さん、今日は何のスープ?」


「お野菜たっぷりのポタージュよ。ぽても一緒にどうぞ♪」


ノアが器をぽての前に置くと、ぽては「ぽぺぺ!」と喜んで飛び跳ねた。


食卓には、ふかふかのパンと、温かいスープ、それにハーブの香りが漂うサラダが並んでいる。ツムギは椅子に腰掛け、ホッと息をついた。


「お父さんは?」


「今日は工房にこもってるわね。何か急用の仕事があるみたいよ?」


「ふーん。急用って何の仕事だろ? お店の修理とかかな?」


ツムギが首をかしげながらスープを口に運ぶ。


その隣で、ノアは「ふふ」と小さく笑いながら、自分のスプーンを手に取った。


(ふふ、ジンったら……ツムギには『任せとけ』なんて言ってたけど、毎晩試作しては失敗してるのよね)


ノアの脳裏には、昨夜の工房での光景が浮かんでいた。


――夜遅く、工房の灯りがついているのが見えたノアがこっそり覗きに行くと、またジンが頭を抱えながら、金具の試作品を並べていた。


「……くそっ、また駄目か」


何度もやり直しているので、作業台にはいくつもの試作品が転がっている。


(ふぅ……まったく、ジンったら)


ノアは呆れながらも、彼が本気でツムギのために頑張っているのを知っているから、何も言わずにそっとしている。


(威厳がなくなるからツムギには絶対言わないでくれと言われてるのよね……)


「お父さんも忙しいのね」


ツムギがパンをちぎりながら呟くと、ノアはにこりと微笑んだ。


「ええ、きっと大事な仕事なんでしょうね」


「そっかぁ。お父さん、頑張ってるんだね」


ツムギは素直に頷き、スープを口に運ぶ。ぽても「ぽぺぺ!」と賛同するように頷いていた。


ノアはそんな二人を見て、こっそりと小さくため息をつく。


(ジン、努力が報われるといいわね……)


「ねえ、お母さん」


食事の途中で、ツムギはふと口を開いた。


「もし、お母さんがアクセサリーを選ぶなら、どんなものが欲しい?」


「アクセサリー? うーん……」


ノアはパンをちぎりながら、少し考え込む。


「可愛いものもいいけれど……やっぱり、普段使いしやすいものがいいわね」


「普段使いしやすい?」


「ええ。家事をしていると、手元の飾りって意外と邪魔になっちゃうのよね。でも、シンプルで軽いデザインなら、気軽に身につけられそう」


「なるほど……!」


ツムギはメモを取りながら、真剣に聞き入る。


「それに、ちょっとした“お守り”みたいな効果があれば、もっと嬉しいかもね?」


「お守り?」


「そう。魔力をほんのり安定させるアクセサリーとか、気分が落ち着くものとかね。気軽に身につけられて、安心感があるものがいいわ」


ツムギはハッとした。


(そうか……! 今までデザインや使い方のことばかり考えていたけれど、アクセサリーを“身につける理由”まで考えたことはなかったかも!)


「それとね、私みたいにうっかり汚しちゃう人のために、取り外しやすくて、洋服に合わせやすいものがあったらいいなって思うの」


ノアはくすくすと笑いながら、自分のエプロンの裾を指で摘まんで見せる。


「お母さん、よくお洋服に小麦粉つけちゃうもんね……」


「そうなのよー! でも、さっと付け替えられるアクセサリーなら、お出かけの時だけ気軽に使えて便利でしょ?」


ツムギは目を輝かせた。


「そっか……! たしかに、それなら普段使いしやすくなるかも!」


ぽても「ぽぺっ!」と嬉しそうに頷いている。


「うーん、お母さんのアイデア、すごくいいかも……!」


「ふふ、じゃあ、私が最初のお客さんになっちゃおうかしら?」


ノアが楽しそうに笑うと、ツムギも思わず笑みをこぼした。


「お母さん、そう言ってくれるの嬉しい!アイデアも活かして、もっといろんな人に喜んでもらえるアクセサリーを考えてみる!」


ツムギのやる気が、ますます湧き上がってきた。


ぽても「ぽぺぺ!」と元気よく鳴き、ツムギの膝の上でくるりと回る。


ツムギのやる気に満ちた表情を見ながら、ノアはそっと微笑んだ。

ツムギの図鑑にこのお話の色々な設定を載せています。少しずつ増やしていくので合わせてご覧頂くと面白いかもしれません。

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