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027. ツムギの暴走とジンの苦悩

2月25日2回目の投稿です

イリアが工房を後にして、工房の扉が静かに閉まる。


その瞬間、ツムギはずっと抑えていた気持ちが一気に溢れ出し、ぽてをぎゅっと抱きしめた。


「ぽて!! ついに私、本格的な仕事を受けたよー!!」


「ぽぺっ!?」


いきなりのハグに驚きながらも、ぽてはツムギの興奮した顔をじっと見つめる。


「すごいね!! だって、ヴィンテージのアクセサリーをリメイクして、新しい形に生まれ変わらせるんだよ!? どんなふうに作ろう? どんなデザインにしよう? お店に並ぶのってどんな感じなんだろう!?」


ツムギはぽてを抱えたまま、くるくると回る。目を輝かせ、次々にアイデアが湧いてくるのを抑えきれない。


「ぽぺぇ……(また暴走してる……)」


ぽては若干呆れたように、ツムギの腕の中でもぞもぞと動いた。けれど、ツムギの楽しそうな様子につられたのか、ぽても次第にうずうずし始める。


「ぽぺ! ぽぺぺ!!(やるぞー!)」


「だよね!? ぽても一緒に考えようね!」


ツムギは作業台の前に駆け寄り、早速スケッチ帳を取り出した。


「よーし、まずはどんなデザインにするかアイデアをまとめよう!」


そう意気込んだものの、ワクワクしすぎて、なかなかペンが進まない。


「あぁ~!! でもどうしよう、楽しみすぎて何から考えたらいいかわからない!!」


「ぽぺっ……(落ち着けー)」


ぽてはツムギの手元にちょこんと座り、冷静に見守る。


そんな様子を、カウンター越しで道具を片付けていたジンがくすくすと笑いながら眺めていた。


「おいおい、そんなに浮かれてると、すぐに息切れするぞ?」


「む、むむ……そうかもしれない……!」


ツムギはハッとして、一度深呼吸をする。


「はぁ……よし。まずは、お父さんと一緒にどんな金具を作れるか相談しよう!」


「うん、それがいいな」


ジンは頷きながら、工具を片付け終えた手を軽く叩いた。


「お前の作るデザイン次第で、俺がどう加工するかも変わる。まずは大まかにアイデアを出してみな」


「うん! そうする!」


ツムギは気合を入れて、再びスケッチ帳を開く。


「さて、アタッチメントの仕組みを考えなきゃ……どうやって石をはめたり外したりできるようにしよう……?」


ぽてがツムギの肩にちょこんと乗り、「ぽぺ?」と覗き込む。


「んー……そういえば……」


ツムギはペンをくるくる回しながら、ふと前世の記憶を辿った。


(スマートウォッチのベルトを交換する仕組みとか、スマホのケースみたいに簡単に取り替えられたらいいのに……あれ? もしかして、それを応用すれば……?)


ツムギの手が素早く動き始める。スケッチ帳に描かれるのは、細かい金具の構造と、取り替え可能なアクセサリーの仕組み。


「……こんな感じかな?」


自信はあったが、実際に作るとなると難しそうだ。ツムギはできあがったスケッチを持って、ジンのもとへ駆け寄った。


「お父さん! これ、どう思う?」


ジンはツムギが描いた図をじっと見つめる。


「ほう……なるほどな」


さらりと頷きながら、図面を指でなぞる。


「石をはめる部分に細工をして、カチッと固定できる仕組みか。……ほぉ、これは面白いな」


「でしょ!? これなら、お客さんが簡単に石を付け替えられるし、アクセサリーの幅も広がると思うんだ!」


ツムギは目を輝かせるが、ジンは内心焦っていた。


(こ、これは……思ったよりも複雑な仕組みじゃないか……!?)


表面上は冷静に見えるように、ジンは軽く顎をさすりながら言う。


「まぁ、試作してみないことにはなんとも言えんな。やってみるか」


「えっ!? お父さん、作れるの!? すごい!!」


ツムギが尊敬の眼差しでジンを見上げる。


「おお、まぁな」


(引き受けちまった以上、今さら無理とは言えねぇ……!)


ジンは内心、うっすら冷や汗をかきながらも、涼しい顔で頷く。


「お父さん、かっこいい!!」


ツムギが嬉しそうに言うと、ジンは「当然だろ?」と肩をすくめてみせる。


ぽても「ぽぺぺ!」と同意するように跳ねた。


「じゃあ、お父さんに任せた!」


ツムギは満面の笑みでスケッチをジンに手渡す。


「お、おう……(言っちまったからには、何とかするしかねぇ……!)」


こうしてジンの挑戦が始まった――。


そんなジンの焦りをよそに、ツムギは、部屋の作業台に向かいながらワクワクと胸を弾ませていた。


「どんな素材が来るのかな……!」


ぽてを机の隅にちょこんと座らせると、ツムギはさっそく手持ちの素材を広げ始めた。


宝石やビーズ、細かい金具やリボン、小さな魔石のかけら。バザールで手に入れたヴィンテージボタンもいくつか並べてみる。


「うーん、これは……この石と合わせたら可愛いかも? いや、こっちのリボンもいいな……!」


考えれば考えるほどアイデアが湧き出てきて、スケッチ帳に次々と組み合わせを描き込んでいく。


そのうちに机の上は、あっという間に素材で埋め尽くされてしまった。


「ぽぺぇ……」


ぽてがじと目でツムギを見つめる。


「え、なに?」


「ぽぺっ!」(机の上、ぐっちゃぐちゃ!)


「そ、そんなことないよ! ちゃんと整理しながらやってる……つもり!」


ツムギは慌てて周囲を見渡した。


スケッチ帳の上にビーズが散らばり、布の端切れが広がり、あちこちに糸の束が転がっている。


「……あれ?」


「ぽぺっ。(ほらみろ!)」


「……ちょっと整理しようか」


渋々ながらも片付けに取り掛かるツムギを見て、ぽては満足げに腕(?)を組む。


それでも、ツムギの頭の中はもうアクセサリーのことでいっぱいだった。


工房でジンの手伝いをしながらも、つい手を止めて考え込んでしまう。


(たとえば、あのヴィンテージボタンと魔石を組み合わせて……いや、マント止めの方がいいかな? でもお守りとして使うなら……)


「おーい、ツムギー?」


「えっ、はい!」


ジンの呼びかけで我に返ると、手に持っていた布の端が斜めに切れてしまっていた。


「あっ……」


「おいおい、何やってんだ?」


「ご、ごめんなさい! ちょっと考え事を……」


「お前なぁ、気持ちはわかるが、今はこっちの仕事に集中しろ」


「はい……!」


(ダメダメ! 仕事は仕事!)


ツムギは気を引き締めて作業に戻る。


……が、しばらくするとまた手を止め、ぼんやりとアクセサリーのことを考えてしまう。


「うーん……」


「ツムギ」


「はっ!」


ジンのじと目に気づき、ツムギは慌てて布を整え直す。


ぽても腕を組みながら「ぽぺぺっ(まったくもう!)」と小さくため息をついた。


そんなツムギが創術屋としての仕事に想いを巡らせる一方で――。


工房の奥では、ジンが密かにアタッチメントの試作と失敗を繰り返していた。


「……くそっ、これも駄目か」


夜な夜な設計を見直し、金属加工を試みるが、思ったような仕上がりにならない。


(まさか、こんなに難しいとはな……!)


ツムギには絶対に「無理だ」なんて言いたくない。言った以上は、完成させなければならない。


(あいつが「お父さんすごい!」って言ってくれるんだからな……!)


意地と職人魂をかけた戦いは、夜な夜な続くのであった――。

今日はちょっと早い時間帯の夜の投稿です。

朝と夜に1度ずつ更新しています。朝も夜も10時までの投稿が目標です!

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