024. ツムギの休日:家族団欒
2月24日1回目の投稿です
ツムギが家の扉を開けると、ふわりと温かな夕食の香りが漂ってきた。
工房の帰り道よりも少し遅めの帰宅。いつもの風景なのに、今日はなんだか特別に感じる。
「ただいまー!」
「おかえり、ツムギ!」
ノアが明るい声で迎え、ジンも椅子に座りながら「おかえり」と笑顔を向ける。
ぽてはツムギのポシェットの中で、小さく寝息を立てながらすやすやと丸まっていた。
ツムギは手を洗い、席につくと、ふとポシェットを撫でる。
楽しかったバザールを思い返しながら、今日は家族にもたくさんお土産を買ってきたことを思い出し、顔がほころんだ。
「そうそう! お父さんとお母さんにお土産を買ってきたんだよ!」
「まあ、ツムギが?」
ノアが驚いたように目を丸くする。
「ふふ、ちゃんと選んできたんだよ! まずは、お父さんにこれ!」
ツムギは包みを取り出し、ジンの前に差し出した。
「工房で使えるオイルセット! 木材にも金属にも使えて、道具の手入れがしやすくなるんだって!」
「おお……これは助かるな」
ジンは興味深そうに手に取り、しっかりと確認する。
「最近、道具の手入れをしなきゃと思ってたところなんだ。ありがとうな、ツムギ」
「えへへ、お父さんなら喜んでくれると思って!」
ツムギが得意げに笑うと、ノアが「私の分もあるの?」とワクワクした様子で聞いてくる。
「もちろん! お母さんにはこれ!」
ツムギは、次の包みを取り出してノアに手渡す。
「汚れがつきにくいエプロン! お料理中にうっかり汚しても、さっと拭くだけで綺麗になるんだって!」
「まあ! そんな便利なエプロンがあるの?」
ノアは驚きながらエプロンを広げ、手触りを確かめる。
「ふふ、これなら小麦粉まみれになっても安心ね……! ありがとう、ツムギ!」
「うん! お母さんにぴったりだと思って選んだんだ!」
ノアが嬉しそうにエプロンを抱きしめるのを見て、ツムギも満足そうに微笑んだ。
その時、ポシェットの中からぽてがひょこっと顔を出した。
「ぽぺ……?」
「ぽて、おはよう。いっぱい歩いたから疲れたでしょ?」
「ぽぺぺ!」
ぽてはまだ少し眠そうに瞬きをした後、ふと何かを思い出したようにポシェットから飛び出し、ツムギの荷物の中を探り始めた。
「ぽて、どうしたの?」
「ぽぺっ!」
ぽては勢いよく小さな包みを取り出し、得意げに広げる。
「……あ、それ!」
ツムギは笑いながら、その包みを開いた。
「ぽてにはこれ! ふわふわの手触りで、ちょっとした防寒にもなるマント! それに、静電気を防ぐ加工もされてるから、ぽてのふわふわな毛並みにも安心!」
「ぽぺっ!? ぽぺぺー!!」
ぽては目を輝かせながら、マントをぺたぺたと触り、嬉しそうにくるくると回った。
「そんなに気に入ったの? ふふ、じゃあ着てみようか」
ツムギがそっとぽてにマントをかけると、ぽては誇らしげに胸を張り、「ぽぺん!」と自慢げに鳴いた。
「……ふふっ、似合うわねぇ、ぽてちゃん」
ノアがにこにこと微笑み、ジンも「おお、いいじゃないか」と頷く。
「えっへん、って感じ?」
ツムギはくすくすと笑いながら、ぽての頭をそっと撫でた。
買ってきた箸置きを並べ、夕飯を食べながら、ツムギはバザールでの出来事を家族に話した。
ハルと会ったこと、美味しいものを食べたこと、ものづくり横丁でたくさんの職人と出会ったこと。
魔道裁縫セットや謎の召喚石、ぽてにそっくりなボタンのこと、ガラスの雲のブローチや、ヴィンテージアイテムが全部欲しくなってしまったことなど…
「それでね、お父さん、お母さん。私、ものづくり横丁にいつか出店してみたいなって思ったの!」
ツムギの言葉に、ノアとジンは顔を見合わせる。
「ツムギがこうなったら、もう止められないなぁ」
ジンが苦笑しながらそう言うと、ノアも頷いた。
「お母さんも楽しみだわ! どんなお店になるのかしら!」
家族の優しい言葉に、ツムギは胸がいっぱいになる。
食後、ツムギはハルのポシェットの話も伝えた。
「……それで、ポシェットのお守りが相結して、ハルくんだけの特別なポシェットになったの」
ジンとノアは驚きつつも、「それはすごいことだな」と感心していた。
「ハルくんにとって、大切なものだったんだねぇ」
ノアがしみじみと呟く。
「うん。これからどうなるかは分からないけど、ハルくんが大切に使ってくれるなら、それだけで嬉しいな」
夜も更け、ノアが温かいハーブティーを入れてくれた。
「ほら、ツムギ。今日はいっぱい歩いたんだから、少し休んでね」
「うん、ありがとう、お母さん」
ツムギはカップを手に取り、一口飲む。優しい香りが広がり、心がほっと温まる。
膝の上では、ぽてがマントをすっぽりとまとい、幸せそうに目を細めている。
「ぽぺ……」
小さな寝息が聞こえだした。ツムギがそっと覗き込むと、ぽてはマントに包まれたまま、満足そうに丸まっていた。
ツムギはぽてのふわふわな毛並みを撫でながら、眠くなっていくのを感じた。
(明日は何を作ろうかな……)
そう思いながら、ツムギはふわふわとした気持ちのまま、ベッドに入り眠りに落ちていった。
次回から新しいお話が始まります!