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023. ぽてのマントと胸に秘めた思い

2月23日2回目の投稿です

しばらく歩くと、バザールの中でもひときわ温かみのある雰囲気を醸し出している場所に出た。商店が立ち並ぶ通りの一角を、手作りの品々がずらりと埋め尽くしている。


「わぁ……」


思わず感嘆の声が漏れる。大通りの喧騒とは違い、ここにはじっくりと物を見て楽しむ人々が多い。テントや木製の屋台には、個性豊かな品々が並んでいた。


ここは ものづくり横丁 ――この国で活躍する職人や手仕事を愛する人々が集まる、特別なバザールの一角。普段は個人の工房や店舗でしか見られないような一点物が、こうして一堂に会するのは珍しく、多くの人で賑わっていた。


編み物、革細工、木工品、陶器、ガラス細工、織物、魔道具の装飾品……。どの店も、それぞれの職人が心を込めて作った一点物ばかりだ。


手前にあった小さな屋台では、陶器のカップや皿が美しく並べられている。どれも手作りらしく、同じ形のものは一つもない。カップの持ち手には葉っぱのモチーフがついていたり、丸みのある優しいデザインになっていたりして、どれも可愛らしい。


ツムギは、ものづくり横丁の賑わいにすっかり心を奪われていた。


「うわぁ……見てるだけで楽しいなぁ」


ぽてを腕に抱えながら、店先を一つずつ覗き込んでいく。


革細工の店では、丁寧に作られた財布やベルトが並び、職人が手際よく刻印を施している様子が見られた。

ガラス工芸の店では、光に透ける綺麗なアクセサリーや、幻想的なオブジェがきらめいている。

陶芸の店では、手作りならではの風合いを持つ器が並び、見るだけでも心が温まる。


「わぁ……このブローチ、すごく綺麗」


ツムギの視線が吸い寄せられたのは、小さなガラス細工の店。陽の光を受けて、透明なガラスのブローチがきらきらと輝いている。


「この色合い、空の雲みたい……」


手に取ったブローチを光にかざすと、ぽても一緒になって覗き込んだ。琥珀色の瞳を輝かせたぽてが「ぽぺぺ!」と鳴く。


「うん、私もこれがいいと思う」


ぽての小さな相槌に嬉しくなりながら、ツムギはブローチを手に取った。他にも気になるものがあったので、ゆっくり店内を見て回ることにする。


次に目を引いたのは、陶器の箸置き。


「わぁ、これなら家族みんなでお揃いにできそう」


ツムギは、それぞれのイメージに合うものを探し始めた。


ジンには、木目の温かみを活かした丸いデザイン。ノアには、優しい花の模様が彫られたもの。自分用には、ちょっと変わった小さな鳥の形。そしてぽてには……


「ぽて、これどう?」


ツムギが取り出したのは、小さな毛糸玉の形をした箸置き。


「ぽぺっ……?」


ぽてはじっと見つめた後、「ぽぺぇ……」と少し複雑そうな表情をした。


「あはは、ごめんね。でも可愛いよ?」


ツムギはくすくすと笑いながら、家族の分と一緒に買うことにした。


他にも気になるものはたくさんあったが、買いすぎないように気をつけながら歩いていく。


そんな時、ふと視線の先に、柔らかな布製品を扱う店を見つけた。マントやショールが風に揺れ、心地よさそうな生地の感触が遠目からでも伝わってくる。


「……あれ?」


ぽてが、その店の方へとぐいぐい引っ張るように動き出す。


「ぽて、どうしたの?」


「ぽぺ!」


何かに興味を惹かれた様子のぽて。ツムギは不思議に思いながら、その店へと足を向けた。


ツムギはぽてを腕に抱えたまま、ふわりと揺れる布製品が並ぶ店の前で足を止めた。

マントやショール、エプロンなどが風に揺れ、心地よさそうな生地の感触が遠目からでも伝わってくる。


「お母さんへのプレゼント、ここで探してみようかな」


優しい肌触りの布が好きなノアには、こういう布製品がぴったりだろう。

ツムギが店先のショールを触っていると、奥からにこやかな笑顔の女性が声をかけてきた。


「いらっしゃいませ。お探しのものはあるかしら?」


「母へのプレゼントを探していて……できれば、汚れに強いエプロンがあるといいなって思ってるんです」


店主の女性は「なるほどね」と頷き、奥の棚から数点のエプロンを取り出して並べた。


「それなら、こちらのエプロンはどうかしら? 生地に魔道加工を施していて、軽い汚れなら撥水するし、油汚れも落ちやすいのよ」


ツムギが手に取ってみると、しっかりとした布地なのに手触りが柔らかく、優しい風合いをしていた。見た目も素敵で、ノアが好みそうな淡い色合いの刺繍が施されている。


「わぁ、すごく素敵です……!」


「洗濯もしやすいから、普段使いにぴったりよ」


「これにします!」


ツムギは満足げに頷き、エプロンを購入することに決めた。


包んでもらっている間、ふと横を見ると、ぽてがじーっとマントのコーナーを見つめている。


「ぽぺ……!」


その視線は真剣そのもので、今にも手を伸ばしそうな勢いだ。


「ぽて、もしかしてマントが気になるの?」


「ぽぺっ!!」


ツムギが笑いながらぽての視線を追うと、そこには小さなマントがいくつか並べられていた。


店主もぽての様子を見て、くすっと微笑む。


「この子用のマントを探してるの?」


「えっと、ぽてが着られるサイズがあれば……」


店主は「ちょっと待ってね」と言い、奥からさらに小さめのマントを取り出してくれた。


「これならぴったりかもしれないわ」


ツムギが手に取ると、その布はふんわりと軽く、それでいてしっかりとした厚みがあった。


「この生地、『静紡布せいぼうふ』っていうんだけど、軽くて暖かく、少しだけ静電気を防ぐ効果があるの」


「へぇ……!」


「ぽぺぺっ!!」


ぽてが興奮したようにマントに飛びつき、そのままくるくると回る。


「気に入ったの?」


「ぽぺ!!」


「ふふっ、それならこれにしようか」


ツムギは嬉しそうに微笑みながら、ぽてのマントも購入することにした。


「お母さんのエプロンとぽてのマント、どっちも素敵なものが見つかったね」


「ぽぺっ!」


店主がマントを包みながら、「この子、すごく気に入ってくれたみたいね」と微笑む。


「はい、ありがとうございます!」


ツムギは丁寧にお礼を言い、エプロンとマントを抱えて店を後にした。


ぽては満足げにマントの包みを撫でながら、「ぽぺぺ!」と嬉しそうに跳ねる。


ツムギはその様子を微笑ましく見つめながら、ふと空を見上げた。

王城の高い塔が夕焼けに染まり、バザールの喧騒も少しずつ穏やかになり始めている。


「楽しかったね、ぽて」


「ぽぺぺ!」


ぽてはツムギの腕の中で小さく跳ねながら、まるで「大満足!」と言うように鳴いた。


「美味しいものもたくさん食べたし、可愛いものもいっぱい見たし……お母さんとお父さんへのおみやげもバッチリだしね」


「ぽぺ!」


「でも……」


ツムギはものづくり横丁の方を振り返った。あの温かな光景が、まだ鮮やかに心に残っている。


職人たちが自分の手で生み出した作品を並べ、訪れる人たちがそれを手に取る。そこには、作り手の想いがこもっていて、ただの“物”ではなく、何かを伝える力を持っていた。


「私も、あそこで自分の作品を並べてみたいな……」


ふと口をついて出た言葉に、自分で驚く。今までは、お父さんの工房で作ることが楽しくて、それで十分だと思っていたのに――。


ぽてがじっとツムギを見上げる。


「ぽぺ?」


「うん。今までは、自分の作ったものを誰かに見てもらうなんて考えたこともなかった。でも……」


ツムギは小さく息を吸い、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「私が作ったものを、誰かに届けたい。誰かの手に渡って、大切にしてもらえたら……もっと嬉しいなって思ったの」


「ぽぺぺ……!」


ぽてが目を輝かせながら、小さく跳ねる。ツムギの心の中に芽生えた想いを感じ取ったのかもしれない。


「ものづくり横丁に出店するには、きっと色々準備がいるけど……よし、いつか挑戦してみよう!」


ツムギが決意を込めて微笑むと、ぽても「ぽぺぺ!」と元気よく鳴いた。


そうして二人は、ゆっくりと駅へ向かって歩き出す。


駅に着くと、魔道改札の前には帰宅する人々が集まっていた。ツムギも魔道カードをかざし、ぽてを抱えながら列に並ぶ。


ほどなくして、ふわりと光るホログラムのレールの上を、魔道列車が滑るように入ってきた。


「さあ、帰ろうか」


ツムギはぽてを抱き直し、扉が開くと同時に列車に乗り込む。


座席に腰を下ろし、心地よく揺れる車窓の外に目を向けると、遠くに見える王城が、すっかり夜の帳に包まれようとしていた。


「今日も、すごくいい一日だったなぁ……」


ぽてはツムギの膝の上で小さく丸くなり、満足げに「ぽぺ……」と小さく鳴いた。


ツムギはぽての頭をそっと撫でながら、自分の中に芽生えた新しい目標をかみしめる。


「私もいつか、ものづくり横丁に並べるくらいの作品を作れるようにならなきゃね」


列車は静かに走り出し、ツムギとぽてを乗せて、穏やかな夜へと溶け込んでいった。


バザール編も今回でラスト!

小話を1話はさみますが、明日からは新しい依頼がツムギに舞い込みます。

とても気に入っているお話なので、読んで下さる方がいたら嬉しいなと思ってます。

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