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022. 魔導裁縫セットと父へのお土産

2月23日1回目の投稿です

ツムギはバザールの賑わいの中を歩きながら、ふと立ち止まった。

「お父さんへのお土産、何がいいかな……?」


ジンは物を大切にする人だ。

何か実用的なもののほうが喜ぶだろうか。それとも、ちょっとした贈り物のほうが嬉しいだろうか。


「ぽぺ?」

ツムギの肩に乗っていたぽてが、小首をかしげる。


「うーん、作業に使える道具とかもいいけど、お父さんって結構シンプルなものを好むからなぁ……」


そんなことを考えながら歩いていると、ふと目に入ったのは、小さな露店。

アンティーク調の小物が並び、店主の手には輝くボタンの詰まったガラス瓶があった。


(……あれ、すごく素敵!)


ツムギの目が輝く。


「こんにちは!」

「お嬢ちゃん、お目が高いねぇ。ここにあるのは全部、昔の職人が手作りした一点物だよ」


店主の言葉を聞くまでもなく、ツムギは並んでいるボタンやカボションの美しさに心を奪われていた。

手描きの模様が施されたガラスボタン、金属細工が繊細に施された装飾ボタン、布を包み込むように作られた温かみのあるくるみボタン……どれも見ているだけで心が躍る。


「これ……すごく可愛い……!」


ぽても目をキラキラさせながら「ぽぺ!」と鳴いた。


「だろう? このボタンなんかは、もう作れる職人がほとんどいないから、かなり珍しいよ」

「ええっ、それはすごい!」


気づけば、ツムギは次々と手に取り、夢中になって選び始めていた。


(これで何を作ろう……いや、作る予定はまだないけど……! でもこのデザインはなかなか出会えないし、手元に置いておきたい……!)


そうして、気づけばボタンの小袋がいくつか。

さらにカボションのセットまで手に取っていた。


「……あれ、お父さんのお土産を探してたんじゃ……?」


手にした戦利品を見て、ツムギは一瞬固まった。


「ぽぺ?」


「えっと……まぁ、これはこれで……!」


前世でもヴィンテージの手芸用品を見つけるとつい買いすぎてしまっていたツムギ。

その癖は転生しても変わっていなかったらしい。


(いいの! 可愛いし、ぽてとお揃いの何か作ればいいし! ……うん、そうしよう!)


意を決して(?)、ツムギは購入を決めた。


「お嬢ちゃん、いい買い物したね! それじゃ、袋に詰めるよ」

「ありがとうございます!」


ツムギは袋いっぱいになったボタンを抱えながら、改めて辺りを見回した。

「……さて、お父さんのお土産はどうしよう?」


ぽては「ぽぺ……」と、少し呆れたように鳴く。


「いや、ほら、ボタンは私のだから……ちゃんとお父さんのものも探さないと!」


気を取り直してバザールを歩き出す。

ジンが喜びそうなもの……作業に役立つ道具? それとも、お茶の時間に使えるお菓子?


そんなことを考えながら歩いていると、ふと、ある屋台の前で足が止まった。


並んでいるのは、古びた裁縫道具。

錆びついた裁ちばさみ、木製の糸巻き、くたびれた針刺し──そして、ぽつんと置かれた一つの箱。


(……あれ?)


ツムギはその箱に強く惹かれた。

金属製の小さな箱で、表面には細かい彫刻が施されている。もともとは豪華な装飾があったらしいが、長い年月を経て、すっかりくすんでしまっている。

しかし、どこか不思議な温かみを感じた。


「ねぇ、この箱、何が入ってるんですか?」


屋台の店主が顔を上げ、ツムギの視線を追う。


「ああ、それか……古い魔道裁縫セットさ」

「魔道裁縫セット……?」


「中には、昔の職人が使ってた魔法を織り込むための裁縫道具が入ってる。まぁ、今はこんなに錆びちまってるから、もう使い物にならないかもしれないがね」


店主は少し寂しそうに笑った。


「これは、うちの婆さんが使ってたものなんだ。婆さんは昔、王都の仕立て屋で働いていてな……魔道具の加工もうまくて、貴族や冒険者からの依頼もよく受けてた。でも、婆さんが亡くなってからは、誰も手入れできなくなっちまって……気づいたら、こんな状態になってた」


ツムギは箱をそっと手に取った。

少し錆びているものの、どこか懐かしい温かみを感じる。


(……なんとなく、わかる気がする)


使い込まれた道具には、その持ち主の想いが宿る。

ツムギが今まで触れてきた、父の工房にある道具たちと同じだ。


「これ、もし私が手入れできたら……使ってもいいですか?」


ツムギがそっと聞くと、店主は目を丸くした。


「……お嬢ちゃん、裁縫をやるのか?」

「はい! ものづくりが好きで……」


「そうか……」


店主はしばらく箱を見つめ、それからふっと笑った。


「なら、持っていきな。婆さんの道具も、誰かに使ってもらえたら喜ぶだろうさ」

「えっ、でも……!」


「いいんだよ。どうせ売り物になるようなもんじゃないしな」


ツムギは箱を抱きしめた。

ここに眠る裁縫道具たちは、長い間使われずにいた。けれど、また誰かの手で息を吹き返せるのなら、それはきっと幸せなことだ。


「……ありがとうございます! 大切にします!」


ぽてが箱の上にちょこんと乗り、「ぽぺ!」と嬉しそうに鳴いた。


(今はまだ直せないかもしれない。でも、時間をかけて必ず──)


ツムギはそっと箱の蓋を撫でた。


ありがとう!最後の部分を、ぽてがじと目でツムギを見つめる感じに直してみるね!


「さて、お父さんのお土産……」


そう言いかけて、ツムギは固まった。


「……あれ? なんでまた自分のもの増えてるの……?」


ぽてがツムギをじとーっと見つめる。


「ぽぺぺ……(また、やったね)」


「いや、これは違うの! ちゃんと考えて買ったわけじゃなくて……その……気づいたら手に持ってたっていうか……!」


必死に弁解するツムギに、ぽてのじと目はますます鋭くなる。


「ぽぺぺぺ……(言い訳にしか聞こえない……)」


「うぅ……。と、とにかく! 今度こそお父さんのお土産を探すの!」


ツムギは急いで歩き出したが、ぽての視線はまだじとーっとしたままだった。


「ぽぺ……(絶対また脱線する)」


「し、しないよ! ちゃんとお父さんのお土産を探すんだから!」


そう宣言したツムギだったが、バザールの魅力は強力だった。

美しいガラス細工が並ぶ店先を見つけると、思わず足を止めてしまう。


「わぁ……きれい……!」


透明なガラスの中に、小さな気泡が幻想的に浮かぶペンダント。

隣には、七色に輝くガラスの小瓶や、繊細な細工が施されたイヤリングが並んでいる。


(これ、すっごく素敵……!)


ツムギの手が伸びかけた、その瞬間。


「ぽぺっ!!(こらーーーっ!)」


ぽてがびよーんと跳び上がり、ツムギの袖をぷるぷると引っ張る。


「あっ、ごめん……! つい……!」


「ぽぺぺぺっ!(また寄り道しようとした!)」


「ち、違うの! ちょっと見るだけ! ほら、お土産を探すついでに……」


「ぽーぺ。(そう言って、さっきボタンをいっぱい買ってた)」


「うっ……」


痛いところを突かれ、ツムギはバツの悪そうに視線を逸らした。


「……お父さんのお土産……探そうか……」


「ぽぺぺ。(最初からそうしよう)」


ぽてのじと目がさらに鋭くなった気がする。

ツムギは仕方なくガラス細工の店を後にし、気を取り直して再び歩き出した。


しかし――。


「おおっ! これ、手触り最高……!」


今度は、ふわふわの毛糸が並ぶお店を発見してしまう。

ツムギの手は、思わずもこもこの毛糸玉へと伸び――。


「ぽぺっ!!(まだだ!)」


「わっ!?」


ぽての強烈な抗議によって、ツムギは再び正気に戻された。


「ご、ごめん! ほんとに今度こそ……!」


ぽては大きく息を吸い込むと、ツムギの顔をじっと見つめながら、一言。


「ぽぺぺっ。(お父さんのお土産を探しに行くんだよね?)」


「い、行きます……!」


「ぽぺっ。(なら、レッツゴー)」


ぽてに手を引かれるようにしながら、ツムギはバザールの通りを進んだ。


(お父さんのお土産……何がいいかな?)


革職人の父・ジンは、道具を大切に扱う人だ。

ツムギも小さいころから、その姿を見て育ってきた。


(そういえば、お父さんの革用のオイル、そろそろなくなってたかも……)


思い出した瞬間、ちょうど目の前に「職人向けの手入れ用品」の屋台が見えた。

木製のブラシや革磨き用のクロス、様々なオイルが並んでいる。


「ここ、よさそう!」


ツムギは興味津々で屋台に近づいた。

木の棚に並ぶ瓶や道具が、どれもピカピカに磨かれている。店主は渋い革のエプロンをつけた年配の男性で、手際よく道具にオイルを塗っているところだった。

ぽても興味津々で鼻をひくひくさせる。


「ぽぺっ!(いい匂い!)」


「ほんと? どれどれ……」


ツムギもオイルの瓶を手に取って軽く香りを嗅いでみる。

優しい木の香り、ほのかに甘い革の香り、スッキリとした金属の香り……。どれも心地よく、ジンが工房で使っている姿が目に浮かぶようだった。


「お嬢ちゃん、職人さんへの贈り物かい?」


店主がにこりと笑いながら声をかけてきた。


「はい! 父が工房をやっているので、何か役立つものをと思って」


「それなら、こいつがいいんじゃないか?」


店主が指差したのは、木工用、革製品用、金属用の三種類のオイルがセットになったものだった。

小さな瓶に分けられ、使いやすいスポイト付き。ラベルには「バザール限定」の文字が入っている。


「職人なら道具の手入れは欠かせないからな。これなら木も革も金属もバランスよくカバーできる」


ツムギは頷きながら、瓶を光にかざしてみた。

透明度の高いオイルがキラキラと輝いている。これなら、ジンも喜んでくれるに違いない。


「お父さん、最近道具の手入れしてたし、これならちょうどいいかも!」


ツムギが決意したように頷くと、ぽてが満足そうに「ぽぺぺっ!」と跳ねた。


「じゃあ、これください!」


「おっ、ありがとう! 良い買い物だな!」


店主が手際よくオイルセットを包んでくれる。


ツムギは受け取りながら、少し誇らしげな気持ちになった。

ちゃんとジンのことを考えて選んだお土産。渡したら、きっと喜んでくれるだろう。


「よし、これでお土産はバッチリ!」

今日は22時までにもう1話投稿予定です。

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