021. くじとゲームと不思議な石
2月22日2回目の投稿です
ツムギが賑やかなバザールの中を歩いていると、ふと目に留まったのは色とりどりの輪が並ぶ屋台だった。的となるのは、宙に浮かぶ大小さまざまなリング。魔法の力でゆっくりと回転しながら、まるで意志を持っているかのようにふわふわと揺れている。
「魔法輪投げ……?」
ルールが書かれた看板を見上げると、どうやら魔法を使って輪を投げ、宙に浮かぶ的に通すゲームのようだ。距離が遠かったり、小さな的ほど高得点で、合計点に応じて景品がもらえるらしい。
「ぽぺっ!!」
ぽてがツムギの肩から勢いよく飛び跳ね、屋台の前でくるくる回りながら「やる!やる!」と言わんばかりに前足をふりふりする。
「えっ、ぽて……? いや、私こういうの苦手なんだけど……」
ぽてはツムギの手を前足でぽふぽふと押し、「ぽぺぺー!」と大きく鳴いた。明らかにやる気満々だ。
屋台の店主が、その様子を見てくすくすと笑う。
「お嬢ちゃん、相棒があんなにやりたがってるんだ。試しにやってみたらどうだい? 初回は特別価格でいいよ」
「えええ……」
ツムギはため息をつきつつも、ぽての期待に満ちたキラキラの瞳に負けて、結局コインを払うことにした。
「それじゃあ、お嬢ちゃんの挑戦だ!」
店主がツムギに五つの輪を手渡し、的がゆっくりとした動きで回転し始める。ツムギは輪を片手に構えたが、どうしたものかと眉をひそめた。
「これ、思ったより難しそう……」
目標の的はふわふわと浮いていて、タイミングを見極めないと狙った場所に飛ばない。輪は魔力に反応する仕組みらしく、軽く魔力を込めることで投げる軌道を調整できるらしい。
(魔力を込めるって言っても、そんなに器用に調節できるかな……?)
試しに投げてみるが、最初の一投は大きく外れ、的にすら届かなかった。
「うわ……だめだ……」
「ぽぺぇ……」
ぽてが心配そうに見つめる。ツムギは少し悔しそうに輪を握り直した。
「こういうのはコツがあるはず……」
ぽてが「ぽぺっ!」と大きく鳴くと、前足でツムギの腕をぽんぽんと叩いた。まるで「頑張れ!」と応援しているみたいだ。
「もう……そんなに応援されたら、やるしかないじゃん……!」
ツムギは再び輪を持ち、ゆっくりと狙いを定めた。呼吸を整えて、的の動きを見極め、軽く魔力を込めて──
シュッ!
輪がスムーズな軌道を描き、小さめの的を通り抜けた。
「おお!? 入った!」
店主が驚きの声を上げる。
「やった! ぽて、やったよ!」
「ぽぺぺっ!!」
ぽてが嬉しそうに跳ね回る。
その後、コツを掴んだツムギは次々と輪を投げ、最終的には五投中三つ成功させた。得点はそこそこといったところだが、店主は満足そうに頷く。
「お嬢ちゃん、なかなかやるじゃないか。さて、景品を選びな」
店の奥には色々な景品が並んでいた。ツムギがどれにしようか迷っていると、店主がふと何かを見つけ、棚の上から小さな箱を取り出した。
「これなんかどうだ? ほら、そこのちびっこに似てないか?」
ツムギが箱の中を覗くと、そこにはぽてにそっくりなモチーフのヴィンテージボタンがいくつか入っていた。
「ほんとだ……! ぽて、見て! そっくりじゃない?」
「ぽぺっ!?」
ぽては興味津々でボタンを覗き込むと、くるくる回りながら大喜びした。
「せっかくだし、お揃いの何かを作ろうか!」
「ぽぺぺ!!」
ツムギは笑顔で頷き、ボタンの詰め合わせを景品として受け取った。思わぬ素敵な出会いに、心がぽかぽかと温かくなる。
「ありがとう、おじさん!」
「おう、また挑戦しに来な!」
店主が豪快に笑いながら手を振るのを背に、ツムギは手のひらに乗せたボタンをそっと撫でた。
ぽては満足そうに小さく跳ねたが、次の瞬間、ふわりと浮かびながら、じっと何かを見つめて動かなくなった。
ツムギが不思議に思って視線を追うと、それは隣の屋台──召喚くじの店だった。
「ぽて?」
不思議に思いながら、ツムギもぽての視線を追った。
そこには、大きなポスターが貼られている。
『召喚くじ! 強力な召喚獣が当たるかも!?』
そこには、翼を持つ神獣や、炎をまとった巨大な狼、ツノの生えた神秘的な獣の絵が描かれている。
店頭には、サンプルの召喚石が並んでいて、それぞれがかすかに光を放っていた。
「……ぽて、召喚獣に興味あるの?」
「ぽぺっ……!」
ぽてはいつになく真剣な顔でこくこくと頷く。
「えっ……じゃあ、やってみる?」
ツムギがそう言うと、ぽては「ぽぺぺぺっ!!」と嬉しそうに飛び跳ねた。
すっかりやる気満々になっている。
「いらっしゃい、召喚くじどうだい?」
店主の女性が陽気に声をかける。
テーブルの上には、豪華な景品が並んでいた。
《1等》 召喚獣との絆を深めるアクセサリー
《2等》 召喚獣の成長促進アイテム
《3等》 召喚獣の契約石
《4等》 召喚獣用の装備品
《5等》 召喚獣のエサ(美味しい)
《ハズレ》 効果不明の召喚石
「……えっ? ぽてとの絆を深めるアクセサリー……?」
ツムギは1等の景品を見て、思わず身を乗り出した。
もしこれを手に入れたら、ぽてともっと深く繋がれるかもしれない……!
「これは……ほしい……!」
ツムギの手が震える。
「よし、まずは一回……!」
意気込んでくじを引く。
──カラカラ……コロン!
「5等! 召喚獣のエサね!」
店主が小さな袋を渡してくれると、ぽてがキラキラと目を輝かせた。
「ぽぺっ!!」
「えっ、ぽて、ちょっ……」
──パクッ!
ツムギが止める間もなく、ぽては一瞬でエサを平らげてしまった。
「ぽぺぺ……!(おいしい!)」
ツムギは思わず苦笑する。
「ぽて、そんなに美味しいの?」
「ぽぺ!」
「じゃあ……もう一回!」
──カラカラ……コロン!
「また5等!」
「ぽぺぺ!!」
──パクッ!
……あれ? これ、完全にぽてのおやつタイムになってるのでは……?
「ええい、次こそ1等!」
ツムギは気合いを入れて、さらにくじを引く。
──コロン!
「……ハズレ!」
「うっ……!」
店主が申し訳なさそうに、琥珀色の石を渡してくれる。
「これは……?」
「効果不明の召喚石。何に使うのかはわからないんだよねぇ。でも、綺麗だからコレクションにはなるよ?」
ツムギは石をじっと見つめる。
確かに琥珀色で透き通っていて、とても綺麗だ。
「うーん……まあ、綺麗だし……よし、次!」
──カラカラ……コロン!
「ハズレ!」
「……次!!」
──カラカラ……コロン!
「ハズレ!」
「……もう一回!!」
──カラカラ……コロン!
「ハズレ!」
気づけば、ツムギの手元には、さまざまな大きさの効果不明の召喚石がいくつもも並んでいた。
「…………。」
「……まあ、綺麗だから……」
ツムギは自分を納得させるように頷いた。
「ねえねえ、店主さん、一体何に使うの?」
「さぁ? ただ、たまーに反応する子がいるらしいけどね。でも、どうやったら発動するのかもわかってないし、詳しいことは謎だよ」
「なるほど……」
ツムギはちょっと困ったように召喚石を見つめる。
使い道がわからない石。でも、無駄にはならない……はず。
「……まぁ、ぽてとの絆は、アクセサリーなんかなくても深いしね!」
ツムギはぽてを抱き上げる。
「ぽぺ?」
「だって、ぽてはもう、家族みたいなものでしょ?」
「ぽぺっ!」
ぽては嬉しそうにツムギの頬にすり寄った。
「さて……意外と時間が経っちゃったし、そろそろバザールの奥のほうにも行ってみようか」
ツムギは手元の召喚石を大切にしまいながら、歩き出した。ワクワクが止まらない。
図鑑を書くのに夢中になり、寝坊してしまいました。




