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【第1章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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184/184

184. 過去と今を繋ぐ糸

 「よし、まずは風呂だ。旅の冷えは湯で流すのがいちばんじゃよ」


 「行ってきます」

 「お借りします」


 三人が廊下を抜け、浴場の戸を静かに閉める音がする。ほどなく湯のはねる音と、白い蒸気の気配が家の奥から立ちのぼった。


 リビングには、ハルの無事を確認し安心したPOTENの面々が腰を落ち着けていた。

 バルドは皆の顔を一巡り見て、ゆっくりと口を開く。


 「さて――三人が戻るまで、わしの知っとることを先に話しておこうかの。

 ……こないだツムギと組んだ“ライト”の魔法陣、覚えとるじゃろ。あれの元となった陣式は、実はカイルとわしが前に協力して組んだ型なんじゃ……」


 エリアスが、思わず椅子の背から身を起こした。

 「……ということは。商標登録の際、“連名で”と仰っていたご友人――あれは、カイルさんのことだったのですね?」


 バルドは目を細め、ゆっくりと頷く。

 「わしも今しがた繋がったばかりだが、結果としてはそうなるな。そもそも基になった魔法陣は三年ほど前、カイルが“子のために”帰還石へ組み込みたいと言うておった。……その“子”がハルで、さらに言えば、わしと組んだ陣でハルが無事戻れた、とも話しておったわ」


 テーブルの端で、ツムギが小さく息を呑む。指先が、自分の膝の上でそっと組まれる。

 「……私にも、ひとつ。不思議なことがあって」

 みんなの視線が、やわらかく集まる。

 「三年くらい前かな。いまの“ぽて”の目に使っている素材を、とある子がくれたの。お礼に、私から“コウテイくん”っていう手作りのポーチを渡したんだよね」


 言葉を選ぶように、ツムギは一拍おいて微笑む――が、すぐに困った顔になる。

 「……それが、さっき。どう見ても“生きてる”としか思えないコウテイくんが、久しぶりって……わたしに、話しかけてきて」


 ぽてがぽふり、とツムギの肩口で瞬きをし、琥珀色の瞳をきらりと揺らす。

 「ねえ、みんな。あの子って、やっぱり“生きてた”よね? それに……どうしてハルくんが持ってるのかな。出発のときは、持ってなかったはずだよね?」


 エドが真剣な面持ちで頷き、ナギも記憶をたぐるように視線を巡らせる。

 リナは腕を組み、低く「うん、見間違いちゃう」と短く添える。

 ジンは顎に手を当てて小さく息を吐いた。

 ――誰もが「うん」と頷いた。確かに、見た。確かに、聞いた。


 エリアスはループタイの留め具を指先でそっと整え、静かに微笑んだ。

 「帰還石、ライトの陣式、そしてコウテイくん……三つの線が、ひとつの環に綺麗に繋がり始めているように思えます」


 エドがおもむろに手を挙げた。

 「えっと……思ったんだけど、ぽての目ってさ、特別な琥珀色の晶樹液の塊、みたいに見えなくもない?」


 視線が一斉に、ちょこんと座るぽてへ集まる。

 「ぽて?」

 琥珀色の瞳が瞬き、淡い光がちろりと揺れた。


 ツムギが小さく息をのむ。

 「……たしかに、ほぼ一緒だよね。しかも、この目に変えてから――ぽて、意思を持ちはじめた気がする」

 ツムギは眉根を寄せ、指先でそっと唇に触れた。

 「でも、晶樹液を見つけたのはつい最近。三年前に、ハルくんが持ってたはず……ないんだよね。時系列が合わない」


 リナが腕を組み、いたずらっぽく目尻を上げる。

 「ほな――ハル、タイムリープしたんちゃう? そっちの方が話、早いで」


 イリアは顎に手を当て、静かに頷いた。

 「確かに、その推測なら辻褄が合うわ。ダンジョンが“過去へ接続する性質”を持っていた、と考えれば……」


 ナギが両手をぶんぶん振って、場の緊張をほぐすように笑う。

 「まっさかあ!……って言いたいけど、最近の私たち、わりと何でも起きるからなあ……」


 ぽては「ぽてぇ」と短く鳴き、ツムギの膝にぴょんと飛び乗った。

 琥珀の光が、答えを急かすでも否定するでもなく、ただ静かに、部屋の空気の奥を揺らしていた。


 バルドが鼻の頭を指でつつき、ゆっくりと言葉を選んだ。


 「……わしも、どうにも顔が思い出せんのじゃがな。カイルに出会ったころ、わしは“魔法陣好きの少年”を探しておってのう」


 皆の視線が自然とバルドへ集まる。


 「ちょうど――ハルくらいの背丈で、話し方も、どことなく似ておった。魔法陣を自分でつくっておって、切実そうじゃったから、出来上がったのか、悩んでおるのなら力になれたらと、探し回ったんじゃが……結局、会うことは叶わなんだ」


 そこで一度、言葉が途切れる。


 「今思えば、あれも……ハルだったのかもしれん、とな」


 ツムギは小さく息をのむ。

 エドは膝の上で拳を握りしめ、エリアスは静かに目を伏せて思考の糸をたどる。

 ぽての琥珀の瞳が、ふっと細く揺れた。


 バルドは湯気の立つ台所の方へ一瞬視線をやり、穏やかに言葉を継いだ。

 「三人が戻ったら、順に確かめていこう。――今夜は、長い“報告会”になるかもしれんの」

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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