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【第1章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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181. グレイン工房からの帰宅

 家の扉を開けると、ふわりと温かな匂いが迎えてくれた。


 「ただいまー!」


 元気な声が響いたその瞬間、キッチンの方からバルドが顔を出した。

 隣にはエドも腕を組んで待っている。


 「おかえり。まずは手を洗っておいで。……それと、ちょっと腹も減っとるだろう?

 サンドイッチをこしらえておいたから、よかったら食べるかい」


 テーブルの上には、色とりどりの具材を挟んだサンドイッチがきれいに並んでいた。

 ほんの少し照れたように赤くなったバルドの耳が、優しさを語っている。


 ツムギはぱあっと顔を輝かせた。


 「少しだけグレインさんのところでいただいたんですけど……

  もう、お腹ぺこぺこです! バルド先生、ありがとうございます!」


 ナギもぽても「おいしそー!」と跳ねるように手を洗いに行き、

 三人と一匹は椅子に座ると同時にサンドイッチへ手を伸ばした。


 そんな様子を見ながら、エドとバルドは身を乗り出す。


 「で! どうじゃった? どうだったのだ?」


 エドも胸を高鳴らせながら続けた。


 「宝石工房、すごかったんだろう? 早く聞きたいよ!」


 興味と期待がぎゅっと詰まった二人の眼差しに、

 ツムギたちは思わず頬をゆるませた。


 そこから先は、ほとんど三人が同時に喋りだしたような勢いだった。

 今日の工房での出来事を、興奮のままバルドとエドに報告する。


 透輝液とグレイン工房の技術が驚くほど相性良かったこと、

 ランの工夫やグレインのアイデアに刺激されて次々実験が始まったこと……

 ツムギの声には一日中積み重なったワクワクがにじんでいた。


 「ほう、古きものと新しきものの融合か」

 バルドは腕を組み、ゆっくりと頷いた。

 「ものづくりは、こうでなくては面白くならん。いい日になったんじゃな」


 エドが興味深そうに身を乗り出す。

 「インクルージョン入りの石……とはどういうものなの?」


 その問いに、ナギがすかさず立ち上がった。

 「見せた方が早いよね! えっとね、こういう石!」

 嬉しそうに差し出したのは、海の景色をそのまま閉じ込めたようなルース。

 青と白の粒が波の模様みたいに散り、光を受けるたび表情が変わる。


 「石の中に“不純物”が入ってるものなんだけど、

  削り方や見方によって、むしろそれがすっごい魅力になるの!」

 ナギが説明しながら、宝物を扱うみたいにそれを撫でる。


 続いて、ぽてが得意げに胸を張り、

 キャンディのように色とりどりの粒を抱えたルースを掲げた。

 「ぽてぇ!(これ、かわいい!)」

 瞳の奥でキラキラが跳ねる。


 エドは二つの石を順番にのぞき込み、

 ゆっくりと息を吸った。


 「……これは、本当に綺麗だ」

 驚きと感嘆が、まるで透明な波のように広がった。

 「今までは“混じり物”がある石は価値が低いと思ってたけど……

  見方次第でこんな世界が生まれるなんて。目から鱗だよ」


 ツムギとナギ、ぽては顔を見合わせ、

 自分たちも今日初めて知った感動が、

 エドにも伝わったことが嬉しくて仕方がなかった。


  その勢いのまま、三人はわいわいと盛り上がり始めた。


 「今度はエドも一緒に行こうよ!」

 ナギが無邪気に言うと、


 「うん! 絶対もっと楽しいよね!」

 ツムギの声も弾む。


 その流れを聞いていたバルドが、

 サンドイッチを置いていた手をぴたりと止め、そわそわと片眉を上げた。


 「……わしも行きたい。行ってみたい……」


 そのしゅんとした犬のような声に、ツムギがぱっと笑顔になる。


 「もちろんです、バルド先生! グレインさんとは、すごく相性良さそうでしたよ。

 それに、職業ギルドの講師も工房でしてくださるみたいです」


 バルドの目が、ぱあっと灯りをともしたように輝いた。


 「講師……! それなら、わしも受けに行かねばいかん!

 技術は常に磨いてこそ、じゃからな!」


 気合満々で拳を握るバルドの後ろで、

 ジンとエドがこっそり顔を寄せ合う。


 「……バルド先生が生徒で参加って……緊張しない?」

 「わ、わかる……背筋伸びちゃうよね……」


 小声のささやきに、ぽても「ぽて……(たしかに)」と小さく肩をすくめた。


 そんな和やかな笑いに包まれたリビングに、固定型の魔導通信機が、突然静かな光を放った。


 空気がすっと引き締まり、全員の視線が一斉に光源へ向かう。


 ツムギが、胸の奥がきゅっと縮むのを感じながら、小さくつぶやいた。


 「……ハルくん?」


 期待とも不安ともつかない声。その横でエドが、慌てて両手を前に出す。


 「いやいや、落ち着いて。エリアスさんかもしれないし……

  期待は禁物だよ? 禁物……だけど……もしかしたら……」


 最後の言葉だけ、抑えきれずに声が震えていた。


 ナギはそわそわと指先をいじりながら言った。


 「イリアさんかもよ? グレイン工房のこと気になるだろうし。

 でも……ハルの声、聞きたいよね……!」


 その聞きたいよねの響きが、リビングの空気をさらに切なく揺らす。


 ぽても、じっと光を見つめながら

 「ぽてぇ……(ハル……)」

 と小さく身を縮めた。


 すると――


 バルドが静かに席を立った。


 「……よし。押すぞ」


 深く息をひとつつき、

 まるで“運命に触れる”みたいに慎重に、

 魔道通信機の再生スイッチへ指を伸ばす。


 そして――

 そっと押し込んだ。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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