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【第1章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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180. グレインのアイデア

 グレインは腕を軽く回し、作業台に肘をつきながらにやりと笑った。

 「そうだな……例えばだが」


 彼は近くの研磨機にコツンと指を当てる。


 「透輝液は固まったあとでも“研磨してリペア”ができるだろ?

 金属じゃ削りすぎたら終わりだが、こいつは多少ならやり直しが利く。

 古くなって細かい傷がついたら、磨き直してよ……その上から薄く透輝液を塗り直せば、“新品みてぇ”に蘇るだろうな。

 枠にミル打ちみてぇな細かい装飾も入れられるし……」


 そこまで言って、今度は机に並ぶ色粉へ視線を滑らせた。


 「色も自由につけられる。金属に比べりゃ、デザインの幅はケタ違いに広がるな」


 ツムギは目を輝かせながら頷く。

 ランも横で“そうそう!”と小さく拳を握りしめている。


 グレインはふっと息をつき、今度は天井の光を見上げた。


 「……後は、だな。金属っぽい質感も出せるようになるといいよな。

 いずれ、金細工みたいな重厚さまでいけりゃあ最高なんだが……」


 そう言うと、彼は楽しそうに歯を見せて笑った。


 「まあ、これはじっくり研究するしかねぇな。職人の腕の見せどころってやつだ」


 その言葉に、工房の空気は再びぽっと温かく彩られた。

 ツムギは、きらめく石たちを見つめながらふと、前世の記憶”を思い出す。


 ——ミラーパウダー。

 レジンに金属みたいな光沢や質感を出すための、極細の金属粉や、粉末状の貝殻を表面に擦り付ける技法。

 そんな思いが浮いつき、ツムギは何気ない調子で口を開いた。


 「……いっそのこと、パウダー状にした金属を擦り付けてみる、とか?」


 ぽてが「ぽて?」と首をかしげる。

 だが、グレインの反応は予想以上に食いつきが良かった。


 「おお、それは面白ぇな!」

 目を輝かせ、作業台に手をつく。

 「透輝液に混ぜるか、固まったあとに擦り付けるか……紙みてぇに薄く伸ばして貼るってのもアリだな。

  どれが一番“金属っぽく”仕上がるか、今度まとめて実験してみるか!」


 ランも身を乗り出し、

 「師匠、それ絶対楽しいやつですね!」

 と頬を緩める。


 ツムギは嬉しそうに笑いながら、二人が次の実験計画を語り合うのを聞いていた。

 工房には、石と光の香りのような、少しワクワクする空気が満ちていた。


 そのとき、ナギがぽん、と手を打った。


 「ねえねえ、グレインさんとランさんさ。

 二人とも、今度はじまる職人ギルドの講習に参加してもらったらいいんじゃない?」


 朗らかな提案に、ツムギもぱっと顔を明るくした。


 「それ、すっごくいい!」


 ランは目を瞬かせ、

 「こうしゅう……会?」

 と聞き返す。


 ツムギは勢いよく頷き、今日カロリーヌと話し合って決まった“技術講習システム”について、二人に一通りかいつまんで説明した。


 二人は真剣に耳を傾け、話が終わるころには、グレインが大きく腕を組んだまま笑った。


 「……そりゃあ、いい仕組みだな!

 ぜひ参加したい。職人が技術を守りながら育てられるってのは、理想の形だ」


 ツムギは胸が高鳴るのを感じながら身を乗り出した。


 「それなら――

 グレインさんとランさんも、講師として“宝石の基礎”を教えてみませんか?」


 驚いたようにランが瞳を丸くする。


 ツムギはゆっくりと言葉を続けた。


 「今日あらためて感じたんです。

 一つの技術を極めるのも素晴らしいけど、

 他の分野の知識が加わると、もっと本職の幅が広がるって。


 もちろん、秘匿すべき技術はそのままで大丈夫です。基礎だけを教える形で……どうでしょう?」


 グレインはしばらく無言で顎ひげを撫でていたが、やがて柔らかく笑った。


 「……確かに、技術の継承ってのは大事だ。

 それに“教える”ってのは、自分の腕を鍛え直す一番の近道でもあるからな」


 そう言ってから、隣のランの肩を軽く小突いた。


 「なあラン。お前、やってみたらどうだ?

 俺も支えるが……講師のメイン、お前が務めてみろ」


 ランの瞳が一瞬で輝きを増した。


 「わ、私が……講師……!

 や、やりたい! やります、師匠!!」


 その声に、工房の光がふわっと揺れて応えたようだった。

 ぽては「ぽてぽてぇ!」と小さく跳ね、ナギも満面の笑顔で拍手する。


 ツムギは胸の奥が温かくなるのを感じながら、

 きっとこの先、素敵な“宝石職人の未来”が広がる――そう思わずにはいられなかった。


 その後も工房の中では、笑い声が絶えなかった。


 磨きのコツ、透輝液と原石の相性、

 それぞれが“最初の一本”を手にした日の思い出話――

 時にはグレインが豪快に実演し、

 ランが「師匠、それ言ってましたよね!」と突っ込みながらフォローし、

 ぽては目をきらきらさせながら石の回りをぐるぐる回る。


 ナギは、棚に並ぶ原石コレクションを前にしてすっかり目がハートになり、

 ツムギも静かに頷きながら、吸い込むように宝石の世界へ入り込んでいた。


 そして帰り際、三人と一匹は思いがけない“お土産”を受け取ることになる。


 ランが、

 「これは練習用にどうぞ!」

 と言って渡してくれたのは、磨きやすい小さな原石の袋。

 グレインは恥ずかしそうに頭をかきながら、

 「気に入ったやつ、一つずつ持ってけ。」

 とお気に入りのコレクションからルースを選ばせてくれた。


 ぽても自分の胸に宝石を抱えるようにぎゅっと挟み、

 「ぽてー!」

 と満足げな声をあげる。


 一方、POTEN側もツムギが持参していた透輝液の小瓶や色粉を、

 「ぜひ実験に使ってください」

 と手渡すと、グレインもランも目を輝かせて感謝を伝えてくれた。


 最後には工房の真ん中で円を描くように集まり、

 「次はもっと面白い案を持ち寄ろう!」

 「定期的に作戦会議、絶対だぞ!」

 と未来の約束を交わし合う。


 朝早く訪れた工房を、出る頃にはすでに夕暮れが染めはじめていた。

 だというのに、不思議なほど心も身体も軽く、疲れはどこにも残っていなかった。


 ナギが、橙色の光に照らされながら弾む声で言う。


 「ツムギ、今日楽しかったね! アイデア、湯水みたいに湧いてくるよね。早く形にしたいなぁ!」


 ぽても腕の中の原石をぎゅっと抱えて、

 「ぽてー!」

 とご満悦の声。


 ツムギも頬をほころばせながら、

 「うん……絶対、いいもの作ろうね」

 と夕空を見上げた。


 今日一日で得た刺激と学びと、あの温かい時間。

 グレイン工房で生まれた小さな火種は、確かにツムギの胸の奥で燃えはじめていた。


 こうして三人と一匹は、

 未来へ繋がる思いつきを胸いっぱいに抱えながら、

 夕暮れの街をPOTENハウスへと歩いて帰っていったのだった。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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