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【第1章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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178. 透輝液と宝石の枠

 ツムギは、机の上にそっと瓶を並べながら口を開く。


 「まず……これが“透輝液とうきえき”を作るための材料なんです。

 透輝液は、光属性の光を当てると固まります。

 それに、光を当てなくても――一日くらいで自然に固まります」


 そう言ってツムギは、バッグから一つのパーツを取り出した。

 手のひらサイズの透明な楕円――

 光を受けるたび、内部がきらりと揺らめく。


 「固まると、こんな感じになります。

 見た目はガラスみたいですけど……落としても割れないんですよ」


 グレインとランの目が一斉に丸くなった。 


 「おお……透輝液って聞いたことはあったが、こんなに透き通るもんなのか!」

 「本当だ……すごい透明度……!」


 二人が感嘆する中、ランが不思議そうに首を傾げる。

 「でも、透輝液って液体ですよね? 枠にどう使うんですか?」


 ツムギは嬉しそうに微笑み、瓶を軽く持ち上げた。


 「実は、あまり知られていないんですが……

 透輝液は“月影石つきかげいしの粉の量”で粘度を調整できるんです」


 そう説明すると、晶樹液しょうじゅえきの瓶に月影石の粉を、

 普段よりすこし多めにさらさらと混ぜていく。


 木べらでゆっくり練り合わせると――

 とろん、としていた液が、次第に粘土のような手触りに変わっていく。


 ランが思わず息を呑む。

 「えっ……固まりかけてる!?」


 「いえ、光を当てるまでは固まらないんですよ」

 ツムギは柔らかくなった透輝粘土を手に取り、

 そのまま、ころりとした楕円へと形を整えていく。


 「こんなふうに自由に形を作ることができて……」


 そう言うと、ツムギは小さな属性ライトを取り出した。

 手のひらサイズの光魔石ライト――光属性の魔法が宿っている。


 楕円の透輝粘土にそっと光を当てる。


 ぽうっと、淡い光が満ちる。


 数秒後。

 ツムギは手の中のそれを持ち上げた。


 「……こうして光を当ててあげると、固まってくれます」


 にっこりと微笑みながら、ツムギは二人に向けて差し出した。


 ランは目を輝かせ、グレインは腕組みしたまま思わず前のめりになる。


 工房の空気が、一瞬で新しい可能性の予感で満ちていった。


 グレインは腕を組み、しばし出来上がった透明の楕円を眺めていたが――

 やがて、にやりと笑った。


 「……ということはだな。

 つまり“簡単に枠を作り出せる”ってことだよな?」


 力強い声に、ツムギはぱっと顔を輝かせた。


 「はい! そういうことです!

 うまく枠を作れば、石を“両面”から見られるようにできるはずなんです。

 外れないようにする細工は必要ですけど……」


 その言葉を聞いたランは、勢いよく手を挙げた。


 「そこは師匠の腕の見せ所ですね!!」


 「おうともよ!」

 グレインは嬉しそうに鼻を鳴らし、道具箱を引き寄せた。


 こうして――

 インクルージョン入りの宝石を“どうすれば一番美しく、両面から楽しめるか”。

 職人四人と一匹による、小さな試行錯誤が静かに始まった。


 研磨済みのインクルージョン入りの石が、次々と作業台のうえに並べられる。

 光を透かし、きらきらと内包物が輝くたび、まるでそこに小さな宇宙が広がるようだった。


 グレインは腕を組み、じっと石と枠を見比べる。


 「普通の枠は“爪”で留めるが……そうすると裏が見えなくなるからな。

  だが、透輝液を使うなら――適度にカーブをつけて石を包んでやれば、両面使える枠が作れそうだぞ」


 ランの瞳がぱっと明るくなる。


 「師匠! この石、硬度が低すぎて日常使いは難しいって言ってましたけど……

  薄く透輝液の膜を作って保護したら、傷つかずに済むんじゃないですか?」


 「ほう……そりゃあ面白ぇ。試してみる価値はあるな」


 グレインはニヤリと笑い、石を手に取った。


 ツムギは時折アドバイスを挟みながら、

 「うん、それなら相性が良さそうです」と楽しげに頷く。

 ぽては宝石の光にすっかり夢中で、石の前をうろうろと行ったり来たりしていた。


 すると、ナギが急にぱっと顔を上げた。


 「そうだよね、宝石によっては傷がつきやすいもんね。

  だったら――あれの出番か!」


 そう言うや否や、ナギはカバンから針と糸、そして生地を取り出し、

 その場で何かを縫い始めた。


 「ナギ、それは……?」

 「できてからのお楽しみ!」


 工房はあっという間にカオスな様相を呈し始めた。

 枠の試作、透輝液の調合、石の保護膜の実験、

 そしてナギの謎の縫い物――。


 だが誰一人として困っている様子はなかった。

 それぞれが心から楽しそうに、

 新しい可能性に向かって手を動かしている。


 ――こうして、宝石工房での “枠づくり大作戦” は、ますます熱を帯びていくのだった。

 気づけば見学の予定時間などとうに過ぎ、

 誰も時計の存在すら思い出せないほど、作業台の上の“宝石の小世界”に没頭していた。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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