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【第1章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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177. グレインの悩み

申し訳ありません。

水曜日に間違えてハルの物語を更新してしまったので、本日はツムギの物語を更新させて頂きます。

又、土曜日もいつも通りツムギの物語を更新します

 グレインは腕を組み、少し顎髭を撫でてから言った。


 「それがよ……インクルージョン入りの石ってのはな、

 この中の“世界”を壊さねぇよう丁寧に研磨してやらなきゃなんねぇ」


 言いながら、掌の石をひょいと掲げて見せる。


 「そうするとよ、形がどうしてもこんな感じでバラバラになっちまう。

 既製の枠にはめようってもサイズも形も合わねぇ。

 結局、一つ一つ“枠”を手作りするしかねぇんだよ。

 要するに全部オーダーメイドよ。貴族様ならともかく、庶民にゃ手が出ねぇ」


 そこまで言うと、ランが肩を揺らして笑った。

 「ほら〜、また言ってるよ師匠。“枠に合わせるか、枠を合わせるかしかねぇのかよ〜!”って、工房で一番よく聞く文句だよ」


 「だってよ!」

 グレインは豪快に笑い声をあげた。

 「こんな綺麗な世界、閉じ込めとくなんてもったいねぇだろ?

 身につけて外に出してやるほうが、石だって喜ぶってもんよ! ガハハッ!」


 そして、急に真面目な顔で付け加える。

 「しかもよ……枠の方が石より高くつくなんてこともザラでな。

 まったく、ほんと悩みどころだぜ」


 ツムギとナギは、再びグレインお気に入りの宝箱へ視線を戻す。

 箱の中には、光を吸い込みながら淡く放つ、小さな宇宙のような石たちが並んでいた。


 ツムギは思わずため息をこぼす。

 「……こんなに綺麗なんですもんね。

 アクセサリーにして身につけたい気持ち、すごくわかります。

 “自分だけの石”って、つけてるだけでうれしくなりますし」


 「わかるわかる!」

 ナギが勢いよく頷いた。

 「見てるだけでテンション上がっちゃうもんねー!」


 石の輝きが反射して、工房の壁に小さな虹が揺れた。

 その虹色の揺らぎが、胸の中のワクワクまで照らすようだった。


 その後もしばらく、ツムギたちは棚の前や作業机のそばにしゃがみ込み、

 「あ、この石かわいい!」「これ好きな色!」と、宝探しのように賑やかに盛り上がっていた。


 すると、ランがパッと立ち上がる。

 「そうだ、私の宝物も見せますね!」

 そう言って自分の机の奥から、手のひらサイズの木箱を抱えて戻ってきた。


 箱を開けると、小さな宝石の世界がぱあっと広がった。

 キラキラ、ころころ、淡く光る粒――まるで小さな惑星を集めたみたいだ。


 「わぁ……!」

 ツムギとナギがそろって声を漏らし、ぽても目をまん丸にしてのぞき込む。


 ランはその中から、ひとつの石をそっとつまみ上げた。


 「これ、私のお気に入りなんです。

 裏から見ても、表から見ても可愛いんですよ」


 手のひらに乗せられたのは、丸くてつるんとした小さな石。

 乳白色の中に、色とりどりの粒がふわりと散らされていて――

 表側は夕日のようにあたたかく、裏側は星空のように涼やかだった。


 「……可愛い! キャンディみたいですね」

 ツムギが思わず声を弾ませると、ナギも満面の笑みでうんうんと頷く。


 ランはほんのり照れたように笑った。

 「でも、この子を枠にはめちゃうと、片側しか見えなくなっちゃうから……

 もったいなくて、このまま宝箱に入れてるんです」


 ぽては「ぽてぇ……!」とキラキラした目で石を凝視している。

 つられてツムギも、その丸い石を両手でそっと包み込むように覗き込んだ。


 ――そうか。

 金属の枠で留めると、どうしても裏側が隠れちゃうんだ。


 ツムギは胸の奥で小さくつぶやく。

 (もし、“両面”をそのまま見せたかったら私だったら……?)


 そっと考えた瞬間、

 脳裏にふわっとひとつの“形”が浮かび上がった。


 ――あ。

 (これ、もしかして……いけるかもしれない)


 ひらめきが胸の奥で小さく弾けた瞬間、

 ツムギはもう次の行動に移っていた。


 思わず顔を上げ、勢いのまま声がこぼれる。


 「グレインさん、ランさん……ちょっと、いいですか?」


 呼ばれた二人は、驚いたように同時に顔を向けた。


 その横で――

 ナギとぽてがちらりと視線を交わし、

 “来た来た、ツムギのモード突入”とでも言いたげに、

 口に出さないまま頬をゆるめ合う。

 言葉がなくても通じ合う、そんな表情だった。


 作業台の前に立ったツムギは、少し照れながらも真剣な声で言う。


 「もしかしたら、思ってるものと違うかもしれないんですけど……

 手の届く価格帯で、簡単に“枠”を作れる方法、あるかもしれません」


 そう言って、ツムギはバッグをがさごそ探り、

 ノートと――晶樹液しょうじゅえき月影石つきかげいしの粉の瓶を取り出した。


 グレインとランは、その取り合わせに思わず目を丸くする。


 「おお? なんだなんだ……?」

 グレインは瓶と粉とツムギを交互に見て、

 次第に口端をにやりとゆがめた。

 「こりゃあ、なんか面白ぇことが始まりそうじゃねぇか」


 ランも頬をほんのり赤くしながら勢いよく頷く。


 ツムギは胸の前で両手を握りしめた。

 「はい。試してみたいことがあって……!」


 工房の天窓からの光が、晶樹液の瓶に反射してきらりと光る。

 その小さな輝きが合図のように――

 三人の胸に、新しい挑戦の灯がともる。


 こうして、

 グレイン工房での“石の枠づくり”をめぐる試行錯誤が、静かに幕を開けたのだった。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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