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【第1章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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174. ハルのランプ

 「……ツ、ツムギ……?」

 ナギの震える声が、沈黙を破る。


 ツムギは蒼ざめた顔で、魔導基盤のボードを見つめたまま、唇を震わせた。

 「どうしよう……どうしよう……」


 次の瞬間、全員の視線が一斉にボードへと向かう。

 そこには――確かに、ハルの名を示す灯りだけが消えていた。


 誰もが息を呑み、時間が止まったように動けなくなる。


 最初に口を開いたのは、バルドだった。

 「……あ、あわてるでない。ハルは強い子じゃ。きっと……通信の届かぬ区域に入っただけかもしれん」

 動揺を押し隠すように言うその声に、かすかな希望が混じっていた。


 「……師匠」

 ジンが低く言葉を継ぐ。

 「リュカの灯りは、まだ灯ったままです」


 その言葉に、場の空気が一瞬張り詰める。

 「ってことは、ハルだけが……?」

 リナが眉をひそめ、て口を開いた。

 「いや、もしかしたらやけど――戦いの最中で、魔導通信機が壊れたんかもしれへん」


 ナギが不安そうに振り返る。

 「ってことは、激しい戦いをしてるってこと……?」


 エリアスがテーブルを握りしめるように立ち上がった。

 「……連絡を取る手段はないのか?」


 すぐにエドが答える。

 「ハルは“忘れ谷”に向かうって言ってた。……バルドさん、明日にでも行ってみよう。何か手がかりがあるかもしれない」


 バルドは深く頷いた。

 「うむ。準備を整え、日の出と共に出発じゃ」


 ツムギは両手を胸の前で握りしめ、うわずった声を漏らした。

 「わ、私は……私も行きます……! 待ってなんていられない……!」


 ジンがすぐにそばに寄り、落ち着いた声で言う。

 「ツムギ、焦るな。ハルには俺たちの装備がある。お前の作った“護りのイヤーカフ”も着けてる。

 ――大丈夫だ。あいつは、そう簡単にやられたりしない」


 ツムギは唇を噛み、涙をこらえるように頷いた。


 その時だった。

 テーブルの上で、ぽてがくるりと一回転した。

 「ぽてぇ~!(ハルはげんきー!)」


 その明るい声に、皆がぽかんとした顔で振り向く。


 「……ぽて、今なんて?」

 ナギが聞き返すと、ぽては胸を張ってもう一度。

 「ぽてぇ!(げんき!)」


 ジンが思わず吹き出すように笑った。

 「ほらな。ぽてが言うんだ、間違いねぇ」


 「ほんまや、ぽての予感はよく当たるしな」

 リナも少し肩の力を抜いて笑い、

 「なぁぽて、ハル今どこおるん?」と冗談めかして尋ねる。


 ぽては首をかしげ、「ぽて?」と一声鳴くと、

 小さな前足で自分の目をぽん、ぽん、と叩いた。


 ぽてはそのまま、ジンとツムギの周りをくるくると回りながら、嬉しそうに鳴いた。

 「ぽてぇ! ぽてぽて!(ここ、ここにいる!)」


 その瞳の奥に、ほんの一瞬、淡い光が灯ったように見えた。


 ツムギは目を瞬かせ、ぽてを見つめる。

 「……ぽて、なに言ってるの? でも……生きてるってこと、なんだよね?」


 ぽては「ぽてっ」と短く鳴いて、こくこくと小さくうなずいた。

 その動きはまるで、“まちがいないよ”と伝えるように力強く。


 ツムギは胸に手を当て、ほっと笑みをこぼした。

 ぽては満足そうにもう一度「ぽてぇ」と鳴き、ふわりとツムギの肩に飛び乗った。


 ――そして翌朝。


 ツムギが目を覚まし、リビングに降りると、真っ先に魔導基盤ボードへと目を向けた。

 そこには、昨夜消えていたはずのハルのランプが、静かに、けれど確かに緑の光を灯していた。


 「……ついてる……!」

 ツムギの声に、みんなが顔を見合わせ、安堵の笑みを浮かべる。


 「やっぱり、ぽての言った通りだったな」

 ジンがつぶやき、リナが「ほんま、ぽてのカンは侮れんわ」と笑った。

 ナギも胸をなでおろしながら、「もうハルったら心配かけないでよね」と小さくつぶやいた。


 ぽてはツムギの肩の上で満足げに丸まり、「ぽてぇ(ね?)」と鼻を鳴らした。

 その声に、みんなの頬が少しゆるむ。


 その後、念のためとエドとバルドが“忘れ谷”へ確認に向かい、無事に戻ってきた。

 ツムギはその報告を聞きながら、あの日の不安が少しずつ和らいでいくのを感じていた。


 「谷は静かじゃったよ。魔力の乱れも、戦闘の痕跡もなし。まるで、何事も起きなかったようじゃ」

 バルドはそう言って、いつものように穏やかに笑った。


 「エリアスとも調べてみたけど、やっぱりハル達の情報はまだないみたいだ」

 エドの言葉に、ツムギはうなずいた。


 もし、ハルの通信が途絶えた原因が“届かない場所”にあるのなら、

 届くようにすればいい。


 そう考えたツムギとバルドは、魔導通信機の改良に取りかかることにした。

 護りのイヤーカフがダンジョンの奥でも作動しているのなら、

 きっと仕組みを応用すれば、通信だって可能なはず――そう信じて。


 「そもそもダンジョンで通信が通じない理由はどこにあるんじゃろうな……」

 そう言うバルドに、ツムギは頷き、ノートを手に取る。


 机の上に広がる図面の横で、ぽては陽だまりの中、気持ちよさそうに丸くなっていた。

 「ぽてぇ~……(ハルはげんき~)」


 そののんきな寝息を聞きながら、ツムギは小さく笑った。

 ――きっと、大丈夫。

 ぽてのその安心した顔が、そう告げている気がした。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

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