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015. ポシェットの修繕02

2月20日1回目の投稿です

ツムギは深呼吸をして、次の工程へと意識を向けた。


「次は……いよいよ、ポケットの改良だね!」


ハルのための特別なポケット。

ツムギの心は、次の作業に向けてワクワクと高鳴っていた。


ツムギは作業台の上にハルのポシェットを広げ、じっくりと考え込んでいた。


「ハルくんは拾い集めた大切なものをたくさん入れてるから、整理しやすくするのが大事だよね。でも、どうやってポケットを追加しようかな……」


ぽてが「ぽぺぺ?」と首をかしげる。


「直接ポシェットにポケットを縫い付けると、生地を傷めちゃうかもしれないし、取り外しもできないから不便かも。うーん……」


ツムギはしばらく考えた後、試しにポシェットの中に小さな布製のポケットを入れてみた。しかし、物を入れるとポシェットの形が崩れ、使い勝手が悪くなってしまう。


「これじゃダメだね……」


ぽても「ぽぺぇ……」と残念そうに鳴く。


ツムギは頭を抱えたが、ふと前世の記憶がよみがえった。


(そうだ、前の世界ではバッグの中に整理用のポーチを入れてたっけ……)


「そうか!ポシェットに直接ポケットをつけるんじゃなくて、取り外し可能なバッグインバッグを作ればいいんだ!」


ツムギは興奮してぽてを抱き上げ、くるくると回った。


「ぽぺっ!?」


「ごめんごめん、でもいいアイデアが浮かんだんだ!」


ツムギはすぐにメモ帳を開き、新たな設計を考え始めた。


「バッグインバッグなら、ポシェットを傷めずに整理できるし、取り外して洗うこともできる。これならハルくんも喜んでくれるはず!」


ぽても元気よく「ぽぺぺ!」と鳴いた。


ツムギは作業台の上に並べた素材を見つめ、バッグインバッグの組み立てに取り掛かった。

まずは、柔らかいものを入れるポケットを作るために、ミストスライムウールを使う。


「でも、これは普通に縫えないんだったよね……」


ツムギは手のひらでそっとミストスライムウールを撫でる。

通常の布とは違い、スライム由来の特殊な繊維が含まれているため、熱圧着でしか接着できない。


「じゃあ、まずは熱圧着の準備からだね」


ツムギは専用の圧着道具を取り出し、温度の調整を始めた。

温度が低すぎると接着が甘くなり、高すぎると繊維が変質してしまう。慎重に設定を決め、ミストスライムウールと補強用の布を重ねて圧着していく。


「うまくくっつくかな……」


ぽてがツムギの肩から覗き込み、「ぽぺ……?」と不安げに鳴いた。

ツムギは道具を慎重に動かしながら、ゆっくりと熱を加えていく。


ジュウ……


少しずつ布が密着し、完全に一体化していく。


「うん、いい感じ!」


ツムギはそっと端を引っ張って強度を確かめた。無理に力を入れても剥がれることなく、しっかりとしたクッション性を保っている。


「これなら、ハルくんの拾った繊細なものも優しく守れるね」


ぽてが「ぽぺぺ!」と嬉しそうに跳ねた。


「さて、次は軽量化した獣甲布を使った丈夫なポケットだね」


ツムギは、精錬屋で加工してもらった獣甲布を手に取った。

防具にも使われるほどの強度を誇るこの布は、軽量化の精錬を施したことで、重すぎず扱いやすくなっている。


「これなら、鋭いものを入れても破れないはず!」


ツムギは専用の針と糸を使い、慎重にポケットの形を作っていく。

鋭いものを入れても破れにくいように、内側にはさらに補強布を重ねる工夫をした。


「うーん、やっぱり硬めの布だから、縫うのにはちょっと力がいるな……」


額の汗を拭いながら、ツムギは針を進めた。ぽても心配そうにツムギの手元を覗き込んでいる。


「でも、これで頑丈なポケットができるはず!」


ツムギは一針ずつ丁寧に縫い進め、ついに獣甲布のポケットが完成した。


最後に、風紡草を使った布を内張りにして、軽量化と消臭効果を加える。

ツムギは、手のひらに風紡草の布を乗せてみた。


「これ、風魔法の影響を受けてるんだよね……軽くなる効果もあるのかな?」


ツムギは生地をそっと縫い付けながら、ポケットの内側に馴染ませていく。

縫い目を最小限にし、できるだけ布の特性を損なわないように注意した。


さらに、消臭効果のある布を使ったポケットも用意した。

風紡草の力を利用したこの布は、空気の流れを整え、臭いを分解する性質を持っている。


「これなら、ハルくんが色んなものを拾っても、ポシェットの中が臭くなることはないね!」


ぽてがくるりと回って、完成したパーツを興味深そうに眺める。


「ぽぺぺ……!」


「うん、いい感じになってきたね!」


こうしてツムギは、一つひとつのパーツを完成させながら、バッグインバッグの形を作り上げていった。

細かい調整をしながら、それぞれのポケットが使いやすい形になるように、丁寧に縫い合わせる。


「よし……!ポケットの部分は完成!」


ツムギは作業台の上に、完成したバッグインバッグを広げてじっくりと確認した。

ポケットの配置はハルの使い方に合わせて調整し、軽量化した獣甲布や風紡草の効果で、丈夫さと扱いやすさを両立させた作りになっている。


「よし、いよいよポシェットにセットしてみよう!」


ぽてが興味津々でバッグインバッグの上にちょこんと座る。


「ぽぺっ?」


「ふふ、気に入った? でも、まだ完成じゃないんだよ」


ツムギはハルのポシェットを手に取り、慎重に中を開く。

綺麗に洗って乾かした生地は、使い込まれた柔らかさがあり、ハルがどれだけこのポシェットを大事にしてきたかが伝わってくる。


「……大事に使ってたんだなぁ」


ツムギはそっと微笑みながら、バッグインバッグをポシェットの中に滑り込ませた。

ぴったりと収まり、もともとこのポシェットの一部だったかのように馴染んでいる。


「おぉ、いい感じ! ちゃんと整理しやすいし、取り外しもできる!」


ツムギは軽くポシェットを持ち上げ、動かしてみる。

バッグインバッグの縁には、魔導吸着石が仕込まれており、ポシェットの内側と自然に引き合うようになっているため、ズレることもない。


「これなら、ポシェットを傾けたり走ったりしても、中の仕切りがぐちゃぐちゃにならないね」


ぽてがバッグインバッグの隙間にちょこんと鼻先を突っ込み、すんすんと匂いを嗅いでいる。


「ぽぺぺっ!」


「ふふっ、ぽてもチェックしてくれてるの?」


バッグインバッグには、消臭効果のある布を使ったポケットも仕込んであるため、草や花の香りがほんのり残る程度で、不快な匂いがこもることはない。


「ポケットの大きさもちょうどいいし、これならハルくんも使いやすいはず!」


ツムギは満足げに頷きながら、ポシェットを撫でた。

残すは最終チェックと細かな仕上げ作業だけ。


「あともう少し、頑張ろうね、ぽて!」


「ぽぺ!」


ツムギは、ポシェットを持ち上げて軽く揺らしてみた。

バッグインバッグがズレることもなく、ポケットの中身もしっかりと整理されている。

中に詰めた布の端切れが崩れたりしないか確認しながら、いくつかのポケットを開けたり閉じたりして使い心地を確かめる。


「うん、動かしても問題なし! これならハルくんも安心して使えるね」


ぽてがポシェットのそばで跳ねながら、「ぽぺ!」と元気よく鳴いた。

ツムギは微笑みながら、ポシェットの表面を撫で、糸のほつれや縫い目に問題がないかじっくりと確認する。


「……よし、仕上げに入ろう!」


ポシェットの端の処理を丁寧にしながら、余分な糸を一本ずつカットしていく。

長年使われていた布だからこそ、少しのゆるみも見逃さずに手を入れるのがツムギのやり方だ。


「これで、見た目も綺麗になったね」


最終仕上げとして、ポシェットの留め具となる魔導吸着石の調整をする。

一度しっかりと固定したものの、もう一度開閉の感触を確かめて、ハルの力でも問題なく使えるかをテストする。


ツムギはポシェットの蓋を軽く押し込んだ。


「……ピタッ」


吸い寄せられるように留まり、少し力を入れればスムーズに開く。

逆さにしても勝手に開かないようになっている。


「うん、これならハルくんでも無理なく使えるね!」


ぽてもじっとポシェットを見つめ、ぴょんと跳ねた。


「ぽぺぺ!」


ツムギは最後にポシェット全体を撫でながら、**相結そうゆい**の気配を探る。

長年ハルとともに過ごしてきたポシェットは、今も静かにその思いを宿しているように感じる。


「……お待たせ、ハルくんのポシェット、ついに完成だよ」


ツムギは満足げに微笑み、そっとポシェットを作業台に置いた。


こうして、ハルの大切なポシェットは、より使いやすく、丈夫に、そして彼のこれからを支えていくものとして生まれ変わったのだった。

第一話ハルとツムギの物語いよいよ終盤です

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