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【第1章完結】異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜  作者: 花村しずく
2-04透輝の爪飾り

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154. バルド製ライトの魔法陣

 そのとき、作業台の端に置かれていた魔導裁縫箱の蓋が、かすかに光を帯びる。

 やがて淡い輝きが線となり、ゆっくりと文字が浮かび上がった。


 《おやおや、そんな楽しそうなことに、私を忘れないでおくれ》


 ぽてが「ぽふっ?」と首を傾げると、ツムギはクスリと笑みをこぼす。


 「もちろんです、先生。今日もよろしくお願いしますね」


 文字は消え、代わりに蓋の表面が軽く揺れた。まるで満足そうに頷いているかのようだった。


  「ふむ、ではわしの用意した魔法陣を見てもらおうかな」


 バルドが懐から小さな紙を取り出し、机の上に広げる。その口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。


 「こぢんまりと書いておいたんじゃ。これを光の魔石に重ねれば、とりあえずの試作品にはなるはずじゃ。……魔導裁縫箱先生はツムギがいないと口をきけぬからのう。反応が楽しみでな」


 「わぁ、ありがとうございます! じゃあ、早速やってみましょう!」


 ツムギは嬉しそうに紙を受け取り、机に並んでいた薄くスライスされた光魔石のひとつを手に取る。慎重にその上へ魔法陣を重ねた瞬間、すうっと石が光を帯び、ふわりと柔らかな光が工房に広がった。


 「すごい……!」ツムギの目がぱっと輝く。「バルド先生! これ、とってもいいです!」


 その隣でナギも身を乗り出して光を確かめる。


 「すごいなぁ。普通のライトの光って、一直線に突き刺さるみたいに強いじゃない。でもこれは……ほら、まるで霧を通したみたいに広がって、顔が柔らかく見える。肌が明るく映えて、きれいに見えそう!」


 ぽてが「ぽふぅ……!」とまぶしそうに目を細める。


 その光景を見届けるように、魔導裁縫箱の蓋に文字が浮かんだ。


 《これはまた……見事な調整だね。ライトの魔法でここまで柔らかな光を出すとは、至難の業だよ。さすがだねえ》


 「……そうじゃろう?」


 バルドは鼻髭を揺らしながら胸を張る。ほんのり頬を赤らめ、子どものように得意げな笑顔を浮かべていた。


 「……実はのう、これはライトの魔法を使っておらんのじゃ」

 バルドはゆっくりと顎髭を撫でながら、ツムギたちを見回す。その目はいつになく誇らしげだ。

 「えっ、そうなんですか?」ツムギが思わず身を乗り出す。


 「うむ。これは光魔石そのものの力を、極々細く……まるで糸を紡ぐように、淡く淡く出力させるタイプの魔法陣じゃ。だから“光を走らせる”のではなく、“光をそっとにじませる”形になる」

 バルドは指先で光の広がりをなぞるように示しながら、得意そうに説明を続けた。


 ナギは目を丸くして、光を浴びながら頷いた。

 「なるほど……だから眩しくないんだ。ほんのり照らすみたいで、見ていて落ち着くんだ!」


 ぽては小さな手をぱたぱたさせながら「ぽふぅ〜……」とうっとりしている。


 魔導裁縫箱の蓋にも新たな文字が浮かび上がった。

 《確かに、これは光魔石にしかできない技術だね。だが、制約があるからこそ得られる味わい深さがある。……温かみ、というのはまさにその通りだ》


 「そうじゃ、そうじゃ」

 バルドは満足げに頷き、さらに胸を張る。


 「つける魔石は光の魔石に限定されてしまうのが難点じゃが……その代わり、こうして“ほんのり光って温かみのある仕上がり”になる。わしとしては、そこが一番の狙いじゃった」


 ツムギは光に照らされた自分の手のひらをキラキラと見つめ、ふわりと笑った。


 「……バルド先生らしい発想で、さすがです。実用的で、それでいて優しいです」


  ツムギは感動を隠せないまま、両手を差し出し、柔らかな光を浴び続けていた。掌に乗せた光魔石がふわりと淡く光り、その温かさが心にまで染み込んでいくようだった。ツムギは夢中で、何度も角度を変えて光の揺らぎを見つめていた。


 その様子を横で眺めていたナギが、ふと吹き出す。


 「ツムギー! 上から魔石じーっと覗き込んでるからさ、下から光が当たって……なんかお化けみたいになってるよ!」


 「えっ!?」ツムギは慌てて顔を上げる。頬が赤くなり、恥ずかしそうに唇を尖らせた。

 「やだもう、ナギったら……バルド先生の魔法陣がすごすぎて、じっくり見てただけなのにー!」


 そう言いながらもツムギははっと気づいたように目を瞬かせ、改めてバルドに向き直った。


 「……バルド先生。この光るタイプの魔法陣魔石って、用途を考えると……ネックレスになりますよね?」


 「うむ、そうじゃのう」

 バルドは鼻髭を揺らしながら顎に手を当てた。


 「顔に光が当たる位置にないと意味がないからな。マントどめやネックレスに下げるのが一番じゃろう。ほかに考えられるのは……子どもの遊ぶおもちゃに仕込んで光る剣にするとか、夜道を歩く時に杖や荷物の先につけて足元を照らすとか、そういう使い道もあるじゃろうな。じゃが実用性を考えると、やはり首元で光る“ネックレス型”が一番使いやすい」


 「なるほど……」ツムギは自分の手元を見下ろしながら、言葉を漏らした。


 「でも……ネックレスにすると下から光が当たることになりますよね。ってことは……今の私みたいに……」


 彼女の頬に、再び下からの光が照らされる。思わず真剣な表情になったが、その顔がまた“お化け”じみて見えてしまい、ナギが笑いながらすぐに食いついた。


 「確かにそのままじゃ、顔ライトとしてはあんまり役立たないかも! 光の位置、もうちょっと上げないとだよね」


 ナギは首に手を当てて、吊るす位置をあれこれ想像している。その明るい声に、ツムギも「そうだよね……」と苦笑を返した。

ツムギの物語は水曜日と土曜日、ハルの物語は月曜日と金曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です

⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ 異世界で手仕事職人はじめました! 〜創術屋ツムギのスローライフ〜

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