014. ポシェットの修繕 01
2月19日3回目の投稿です。
ツムギは作業台にポシェットの布を広げ、改めてじっくりと状態を確認した。洗ったことで布の質感がわかりやすくなり、傷んだ部分がよりはっきりと見える。
「この辺り、だいぶ薄くなってるな……」
指先で軽く押すと、ほんの少し柔らかくなっていて、力を加えれば破れてしまいそうだった。特に、ハルがよく物を入れていたであろう部分は摩耗が進んでいる。
「なるべくそのまま使いたいけど、補強しないと長く使えないし……」
ツムギはぽてと顔を見合わせる。
「ぽぺ?」
「うーん、ここは補強布を足して縫い直すのが一番いいかな。元の布と違和感が出ないように、似た色の生地を使おう」
ツムギは工房の生地棚を開き、色と質感が似た布を探す。しばらくして、やや厚めの補強用の布を手に取った。
「これなら馴染みそう。よし、これでやってみよう!」
まずは傷んだ部分の下処理をする。糸がほつれている箇所は、余分な糸を慎重に取り除き、ほつれが進まないように端を止めておく。
「ぽて、ちょっと押さえてて」
「ぽぺ!」
ぽてがふわふわと飛び、ツムギが指示した場所にちょこんと乗る。ツムギはその間に、補強布をポシェットの内側に当て、ずれないように仮留めした。
「さて、ここからが本番……」
針に丈夫な糸を通し、慎重に縫い始める。布と布がしっかり馴染むように、細かい針目でひと針ひと針、丁寧に縫い進めていく。
「……こうしてると、なんだかお母さんのことを思い出すなぁ」
ツムギの母・ノアも、昔から衣類の修繕をしてくれていた。ツムギが服を破いて帰ってくるたびに、「はいはい、じゃあお母さんがきれいに繕ってあげましょうね」と言いながら、楽しそうに針を動かしていた。
(……私も、お母さんみたいに、誰かの大切なものを直せる人になれるかな)
そんなことを考えながら縫い進めていくと、次第に布と布がしっかりと一体になっていく。
「うん、いい感じ!」
縫い目が馴染んでいるか確認し、軽く引っ張って強度をチェックする。しっかりと縫い付けられた補強布は、元の布と変わらないくらいに馴染んでいた。
「これなら大丈夫そう!」
ぽてが縫い終わった布を軽くつつき、「ぽぺ!」と満足そうに鳴く。
「よし、これで布の修繕は完了! 次は……紐の付け根の補強だね!」
ツムギは満足そうに針と糸を片付け、次の作業に取り掛かる準備を始めた。
ツムギはポシェットの紐の付け根を改めて確認した。長年使われたことで布がすり減り、ほとんど強度がない状態になっている。もしこのまま使い続ければ、いつか重いものを入れたときに簡単に千切れてしまいそうだった。
「これは……補強しないとすぐに切れちゃいそう」
ツムギは思案しながら、先ほど見つけた冒険者用の縫い目のことを思い出した。
「そうだ、ハルくんのお父さんも使っていた仕掛け縫い……あの縫い方を使ってみたら、もっと丈夫になるんじゃないかな?」
ぽてがツムギの肩の上で「ぽぺ?」と小さく鳴く。
「うん、初めて試すけど、きっといい練習になると思う!」
ツムギは工房の端にある道具棚から、しっかりとした厚めの補強布を取り出した。色味はポシェットの布に合わせ、できるだけ自然に馴染むものを選ぶ。
「これを土台にして、強度を持たせよう」
補強布を適当な大きさにカットし、紐の付け根にぴったりと当てる。そして、どんなふうに縫い付けるかを頭の中でシミュレーションする。
「ええっと……確か、あの縫い方は……」
ツムギはメモしておいた冒険者向けの補強縫いのスケッチを取り出し、それをじっくりと見つめた。
(通常の縫い方とは違って、力がかかるほど締まる構造になってるんだよね……これなら、簡単にほつれることはなさそう!)
ツムギは針に丈夫な糸を通し、慎重に針目を進めた。
まず、補強布の四隅をしっかり固定するように仮縫いし、その後、二重に編み込むようなステッチを施していく。この方法なら、縫い糸自体に負担を分散させることができ、引っ張られたときに糸が切れにくくなる。
「……これが、冒険者たちが使う縫い方……!」
ツムギは息を詰めながら、ひと針ひと針丁寧に進めていく。普段の縫い方とは違い、少し複雑な構造になっているため、ミスをしないよう慎重に作業を進めた。
「こうして、最後にここを引っ張ると……」
ツムギがゆっくりと糸を引くと、縫い目がぎゅっと締まり、布と布が強固に繋がった。手で引っ張っても全く緩まない。
「おお……すごい! 縫い目が一つの模様みたいになってる!」
ツムギが感動しながら仕上がりを確認していると、ぽてがちょんちょんと縫い目を突っついた。
「うん、私も初めてやったけど、これなら絶対にすぐには壊れないよ!」
ぽては納得したように「ぽぺぺ~」と満足そうに頷いた。
「よし! これで紐の付け根の補強は完了!」
ツムギは縫い終えた部分をもう一度しっかり確認しながら、次の工程へと進む準備を始めた。
「次は……錆びた金具の交換だね!」
ぽてが「ぽぺ!」と元気よく跳ね、ツムギの作業を応援するようにくるくると回る。
ツムギはポシェットの金具部分を改めて確認した。長年の使用で錆びつき、動きが鈍くなっている。開閉するたびに引っかかり、少し力を入れないと動かない状態だった。
「うーん、やっぱりこれはもう交換するしかないね」
ぽてが興味津々に金具をつつき、「ぽぺ?」と首をかしげる。
「そうだね、もし無理に使い続けたら、ハルくんが怪我しちゃうかもしれないし、新しいものに替えたほうがいいね」
ツムギは工具箱から小さなペンチを取り出し、慎重に古い金具を外していく。金具の周りの布が傷まないように、少しずつ力を加えながらゆっくりと取り外した。
「よし、取れた!」
外れた金具は、錆びが進んでいて、ところどころ変形している。ツムギはそれを見つめ、少し考え込んだ。
「……新しい金具にするのはいいけど、せっかくだから、ハルくんがもっと使いやすいように工夫してみようかな」
ぽてが「ぽぺ?」とツムギの顔を覗き込む。
「例えば、片手でも簡単に開閉できる形とか、力を入れなくてもパチンと留まる仕組みにするとか……」
ツムギは作業台の引き出しから、いくつかの留め具の候補を取り出した。
・シンプルな丸いボタン型の金具:基本的なボタン式で、強い力をかけると外れるシンプルな仕組み。
・魔導吸着石:魔力を帯びた小さな石で、特定の物質と引き合う性質を持つ。一定の力をかけると離れるため、開閉に適している。
・フック式でしっかり固定できるタイプ:冒険者向けの頑丈なフック留め。しっかり閉じるが、開けるのには少しコツがいる。
「どれがいいかな……?」
ツムギはしばらく考え、魔導吸着石を試してみることにした。
この石は魔力を持ち、一定範囲内にある同じ種類の石と引き合う性質がある。磁石のような働きをするため、留め具として使うにはぴったりだ。
力を込めれば自然に外れるため、ポシェットの開閉にはちょうどいいはず。
「ぽて、ちょっと試してみて」
「ぽぺ!」
ツムギは小さく加工した魔導吸着石をポシェットの布に仮留めし、ぽてに軽く押してもらう。
すると、ぱちんという軽い音とともに、魔導吸着石が布と密着した。
「おお、ちゃんとくっついた!」
ぽてが興味津々に鼻先でつつくと、石は軽く揺れるだけで簡単には外れない。
「適度な力で引っ張ると外れるけど、衝撃では外れにくいから……ハルくんも使いやすいはず!」
ツムギは満足げに頷き、魔導吸着石をポシェットの留め具としてしっかり固定する作業に入った。
小さな布の袋を作り、魔導吸着石を収めて縫い付けることで、開閉時の衝撃を和らげつつ、ポシェットのデザインにも馴染ませる。
最後に仕上げの調整をし、開閉の動作を確認すると、ちょうどいい力加減でぱちんと留まり、軽く引くと外れるようになった。
「うん、これならハルくんも簡単に開け閉めできる!」
ぽても嬉しそうに跳ねながら、新しい留め具をつつく。
「よし! これで金具の交換も完了!」
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