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137. 嗜好品と日用品

申し訳ありません。昨日曜日を勘違いしてしまい、投稿し忘れました……

 やわらかな空気の中で、ツムギがふと、カップを置いて口を開く。


 「……あの、価格のことなんですけど」

 ちょっとだけ迷うように言葉を選びながら、ツムギは続けた。

 「できれば、“ノーマルの透輝液爪飾りセット”は、医療用の意味合いも込めて……なるべく安価にしたくて。それに、薬屋さんとか、日用品を扱ってるお店に置けたらって思ってるんです」

 「おしゃれな爪飾り、というよりも、傷を保護する薬として……そうしたら、必要な人に届く気がして……」


 その想いのこもった言葉に、テーブルの向こうでリナがうんうんと頷きながら腕を組んだ。


 「なるほどなあ……確かに、農業やってる人とか、工房で手を使う職人さんとかって、爪、ボロボロなこと多いもんなぁ」

 「でも、そういう人たちほど、“爪飾り”って名前やと、自分には必要ないものだと思って、手に取ってもらえへんかもしれへん」


 リナは、少しだけ目を細めて、ツムギのほうを見つめた。

 「ツムギは……怪我して、それでも働かなあかん人とか、治したくても治せへん人に、ちゃんと届いてほしいって思ってるんやろ?」


 その問いかけに、ツムギは少し驚いたように目を見開き、それから、ゆっくりと小さく頷いた。


 「……はい。繰り返してしまう怪我は、ポーションが効きにくくなるし、だからそのままにしてる人って、きっとたくさんいると思うんです」

 「だから、そういう方には“飾る”じゃなくて、保護するって意味で……そうしたら、もっと届けられる気がして」


 ぽてがツムギの膝の上で「ぽふぅ……(まもるやつ〜)」と小さく呟き、その場の空気をそっとやさしく包んだ。


 「それならさ、名前も薬っぽくしたほうがいいよね!」

 ナギがぱっと顔を上げて、勢いよく言った。

 「“透輝の爪飾り”も可愛いけど、保護目的で売るなら、もっと効きそうな名前がいいかも!」


 「せやな。薬屋さんに並べるなら、“爪ガード”とか“割れん爪”とか、単純で伝わりやすいやつのほうが手に取ってもらいやすいかもしれへんな」

 リナが腕を組みながら、実用的な視点でうなずいた。


 「“再生保護膜”とか、“透輝シールド”みたいな響きもいいんじゃない?」

 イリアは紅茶をひと口飲みながら、静かに提案を重ねる。どこか薬品名のような響きに、思わずツムギは「なるほど……」と呟いてしまった。


 「ぽふっ!(かっこいいー!)」

 ぽてが、かっこ良さげな響きにぱっと反応し、場の空気が一気に和んだ。


 「そんな感じの響きなら……『爪補強コート』とかどうかな?」

 ナギがぽんっと手を打ちながら提案すると、「おっ、それええやん」とリナがすかさず頷く。


 「使い切りの少量パックも作ってさ、薬包紙に月影石の粉を包んで、晶樹液はちっちゃい瓶に詰めるの。装飾なしでいいなら、かなり安価になるんとちゃう? それこそ、ご飯一回分くらいで」


 「それなら……誰にでも手に取ってもらえそうだよね!」

 ツムギがぱっと顔を輝かせる。「すごく良い案……ありがとう、ナギ!」


 「そうだ、晶樹液って綺麗に仕上げるためにちゃんと検品するじゃない? でもちょっと埃が混じったり、ほんのり色がついちゃったりして、商品にはできないけど問題なく使えるの、いっぱい溜まってるでしょ? 試作用とかプライベート用に使ってるけど……あれ、使っちゃえばいいんじゃない?」


 ナギの目がきらきらと光る。「溜めとく場所もなくなるし、原価も抑えられて、めっちゃお得!」


 「お守り袋のときも、ハギレで安く仕上げてたもんな……」

 リナが思い出したように笑って、ぽんと膝を打った。「ほんまそれええわ、さすがナギ!」


 「ふふ、いいアイデアね。資源も活かせて、価格も抑えられる……それに、“もったいない精神”も悪くないわ」

 イリアも静かに頷き、ティーカップを傾ける。


 「それにこの方法なら、“お得”という魅力だけじゃなくて、もうひとつ利点があるわ」

 「“飾りとしての基準”は満たしていない選外品でも、“爪を守る”という目的なら十分に機能する。明確に用途を分けて提示すれば、品質を正直に伝えながら、商品の価値を下げずにすむわね」


むしろ、“通常は弾かれてしまう選外品を、医療補助品として特別価格で提供”とすれば、きちんとした理由づけもお得感も出せるし……お守り袋のときのように、“大事に使い切る”というPOTENらしさも伝わると思うわ」


 「ぽて〜!(ぜんぶつかう!)」

 ぽてがくるくると回りながら、誰よりもうれしそうに飛び跳ねた。


 「ほんなら、そんな感じで進めていこか」


 手帳を閉じながらリナが軽やかに立ち上がる。


 「イリアさんにはサロン開店の準備、お願いしてもええ?」

 「ええ、もちろん。物件と家具、サロンの人員の選定楽しみだわ」


 「うちは薬屋や日用品店で、置いてもらえそうなとこ探して声かけてみるわ。あとは……エリアスに話しとかなな。また頭抱えそうやけど、時間見つけてきっちり通す!」


 「じゃあ私は 、商品パッケージ含めた試作品、ナギと一緒にがんばります!」


 「おっけー!頑張ろうツムギ!私達のPOTEN魂、見せようね!」


 チームそれぞれの役割が自然に決まり、誰もが誇らしげに頷いた。


 ——失敗してもいい、その一歩一歩が、きっと“誰かの日常”を、ほんの少し楽しく、やさしくしてくれるはずだから。

次回は土曜日23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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