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135. 弾型液のお皿とイリアのアイデア

 ぱっと顔を上げたツムギが、思いついたばかりのひらめきで声を弾ませる。その目には、次の試作へ向けた光が、もうしっかりと灯っていた。


 「弾型液だんこうえきで、お皿を作ってみるのはどうかな?」


 ナギが「おお〜!」と声を上げる。

 「なるほど! 透輝液の型取るとき、いつもツムギ、あの弾型液のモールド使ってるもんね。あれなら形も柔らかいし、加工しやすいし!」


 「そうね……」と、イリアがティーカップを置きながら、しなやかに続ける。

 「弾型液で作ったら、残った液もそのまま固められるし、表面がつるっとしてるから、乾いたあとでも綺麗に剥がせそう。何度も使えるわね」


 「そうなんです!」

 ツムギは嬉しそうに頷きながら、手元のスケッチ帳にさっと線を走らせる。


 「しかも、絵の具のパレットみたいに小さな窪みをさっきのサイズで作っておけば、晶樹液と月影石の粉を、それぞれお皿の上で測って、そのまま混ぜることもできるんじゃないかと思って」


 「それ、めっちゃええやん!」

 リナがスプーンを握ったまま勢いよく頷く。

 「初めて使う人にもわかりやすいし、お皿ひとつで完結できるなら、めっちゃ親切やで〜!」


 三人の前のめりな熱に、ぽてが「ぽふぅ〜!(まるいおさら!)」と嬉しそうにくるくる回る。


その愛らしい様子に、テーブルを囲む空気がさらに和らぐ。


 そんな中、イリアがティーカップを静かに置き、落ち着いた声で言葉を添えた。


 「お試ししてみたいだけの人には、透輝液セットだけを買ってもらって、自分の家にあるスプーンで軽量すればいいわよね。お皿や筆は別売りにして……欲しい人だけが選べるようにすれば、負担も少なくて親切だと思うわ」


 その提案に「なるほど〜」と声を上げたのは、すかさずリナだった。


 「それならさ、イリアさん! 初心者セットとか作ったらどうやろ?」


 目を輝かせながら、リナは両手をぱっと広げて想像をふくらませる。


 「基本の色と、お皿と筆がセットになっててさ! たとえば、鉱石とか魔石を細か〜く砕いたキラキラを選んで入れたり……季節限定で“春色セット”とか“月夜の煌めきセット”とか作ったら、絶対楽しいって!」


 「わ〜っ、それいい〜!」とナギも即座に乗ってきた。

 「ギフトにできる可愛い箱とか用意して、バザールにも並べたい〜! 飾るだけでも楽しそうだよ!」


 「うん……それ、すごくいいと思う」

 ツムギは微笑みながら、みんなの言葉を丁寧にスケッチ帳にメモしていく。

 「“あるもので始められる”と、“可愛いから手に取りたくなる”を両立できたら、本当に嬉しいな」


 その言葉に、ふわりと温かい空気が広がり、ぽてが「ぽふぅ〜!(はつばい!)」とぴょんと跳ねる。


 「それじゃ、販売までに必要なことを整理しておきましょうか」


 イリアが手帳を開き、さらさらと走り書きしていく。


 ——作り方を書いた説明書を作る

 ——弾型液のプレートを作る

 ——晶樹液のバリエーションを用意する

 ——パッケージの設計


 「まずは、バザールでPOTEN創舎の新製品として発売。その後は……そうね、“POTEN高級ライン”は、少し特別な形で展開してもいいかもしれないわ」

 「貴族や富裕層向けには、液体そのものではなく、“技術”を提供する。たとえば、透輝の爪飾りを“施術”するという形で——ね」


 理知的な瞳がきらりと光る。ツムギもリナも、思わず背筋を伸ばして聞き入っていた。


 (すごい……イリアさん、すごすぎる)


 前世の日本にも、ネイリストという職業があった。指先を飾る専門の技術者で、流行の中心にいた。センスと腕のある人はインフルエンサーのように人気を集め、自分のブランドを持つ人も多かった。


 私は、いつも自分で塗っていたから、サロンに通ったことはなかったけれど——

 セルフで楽しむ人と、プロに施してもらう人。そのどちらにも価値がある世界。


 (この発想、私は前世で見てきたはずなのに……)

 (イリアさんは、あの世界を知らないのに。なのにこんな風にたどり着くなんて……)


 「イリアさん、それめっちゃいい!」


 ナギが身を乗り出すように声をあげる。目がきらきらと輝いていた。


 「富裕層って、自分でやりたがらないイメージあったけど……“施術してもらう”って形にしたら、逆に飛びつくと思う!」

 

 言いながら、彼女はくるりと手のひらを返すように動かして、想像の中の“お嬢様たち”を思い浮かべているようだった。


 「サロンみたいに、誰かに施してもらう時間が“特別なひととき”になって——

 貴族たちの社交場にもなりそうじゃない?」


 そう言ってナギは笑い、ふとイリアの方に視線を向ける。


 「ほら、イリアさん、よく言ってるじゃん。“情報は力”って」


 その言葉に、イリアはくすっと笑ってティーカップを傾けた。


 「ええ、そのとおり。施術中のちょっとした会話が、何よりの“耳”になることもあるのよ」


 その一言に、ツムギは小さく息をのんだ。


 (……私は、不器用な人でも気軽に“爪飾り”を楽しめたらいいな、って思ってただけだったのに)


 技術の使い方だけじゃない。その先にある人の動き、繋がり、情報——

 ナギもイリアさんも、もう一歩先をちゃんと見ていた。


 ただ綺麗にするだけじゃない。

 その空間をどう使うかまで見据えている。


 (イリアさんとリナって……やっぱり、すごい)


 ツムギは改めて尊敬の気持ちを胸に抱きながら、そっと顔を上げた。


 「イリアさん、本当にすごいです。その発想力って……いったいどこから来てるんですか?」


 ふいに真っ直ぐ向けられたその問いに、イリアは少しだけ目を見開き——

 ふふっと、意味ありげに微笑んだ。

次回は土曜日23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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