表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/136

133. 打合せという名の女子会

 今日は“打ち合わせ”という名の女子会の日。


 イリア、ナギ、リナ、ツムギの四人は、POTENハウスのリビングに集まり、バルド特製の焼き菓子と淹れたての紅茶を囲んでいた。

 テーブルの上には透輝液や属性光源器、色付き粉末などが並べられ、その光景だけでも心が躍る。


 話題の中心は、もちろん《透輝の爪飾り》。


 「ちょっとしたアクセントにもなるし、水仕事でも剥がれないっていうのがいいわよね」とイリアが指先を眺めながら言えば、

 「うちの子たちにも、絶対ウケると思う〜!」とリナが頷く。


 男子チームはというと、今日はカムニア町のジンの工房で装備の打ち合わせ中。

 普段は忙しいエリアスも珍しく参加しているらしく、どうやら炎属性の新装備に関する話題が盛り上がっているらしい。

 (エリアスさんまで……やっぱり、ああいうのは男の子のロマンなのかな)


 ツムギは、ふとそんなことを思いながら、お茶を一口。

 女子チームならではの賑やかな時間が、今日もまた、ゆっくりと流れていた。


 「透輝液って、月影石の粉を加える量で粘度を調整できるんです。だから、爪に塗るには、ちょっととろみがあるくらいがちょうどよくて……」


 そう言いながら、ツムギは試作中の瓶をそっと指先で示す。中には淡く光る液体が揺れており、まるで小さな魔法の瓶のようだった。


 「そこに、色粉や光を反射する微粒子を混ぜると、バリエーションも増やせます。たとえば季節限定の色を出したり、魔属性ごとのシリーズを作ったりとか……」


 「へぇ〜!なんか、聞いてるだけで楽しくなってくる〜」とナギが嬉しそうに声を上げる。


 ツムギは頷きながら、手元のメモにさらさらと書き加えた。


 「今のところ、指や爪に異常はなく、強度もある程度保たれているので……このまま状態が安定すれば、販売しても問題ないと思います」


 「おお〜、いよいよ商品化目前だね……!」


 ナギとリナが顔を見合わせて、わくわくしたように笑った。

 イリアもにこりと微笑みながら、「今のうちに瓶とラベルの手配、しておこうかしら」と、早速動き出す準備を始めていた。


 すると、ツムギがふと表情を引き締めて、手元の瓶を見つめた。


 「……ただ、一つ問題があって」


 「ん?」とナギが首をかしげる。


 「透輝液と月影石を混ぜると、そこからゆっくり硬化が始まっちゃうの。完全に固まるまでには一日くらいかかるんだけど……つまり、完成品としては販売できないってことなの」


 「え〜、じゃあ、どうするの?」


 ナギの反応に、ツムギは少し困ったように笑った。


 「混ぜる前の状態で販売して、お客さんに混ぜてもらうしかないんだけど……そうなると、どういう形が一番使いやすいか、ちゃんと考えないといけなくて」


 「なるほど……確かにそれは悩ましいね」とリナがうなずき、

 イリアも「安全に、手軽に混ぜてもらえる形……工夫のしどころね」と、頬に指を添えながら静かに思案を始める。


 「だから、みんなにも相談したくて。どういう形なら扱いやすいか、一緒に考えてもらえないかな?」


 ツムギのその言葉に、テーブルの上にはすぐに試作品やスケッチが並び、打ち合わせという名の楽しい議論が再び始まっていった。


 「まず、考えなきゃいけないのはね——」


 ツムギは指を折りながら、順に挙げていく。


 「1つ目、簡単に計量できること。

 2つ目、混ぜる容器は繰り返し使えて、ちゃんと綺麗になること。

 3つ目は、もし繰り返し使えない場合でも、使い捨てできるくらい安価であること。

 4つ目、初めて使う人にとって、初期費用がなるべくかからないこと……」


 言い終えた瞬間、全員が「うーん……」と頭を抱えた。


 「たしかに、全部大事だけど……ぜんぶ揃えるのって、なかなか難しいね」とナギ。


 「そうやった。試作やと紙コップ使ってたな〜」

 リナが思い出したように言いながら、軽く指を立てる。

 「計るのも、ツムギが使ってるあの細かいやつやろ? あれ、一般の人にはちょっとハードル高いかもな〜」


 「それを一般の人に揃えてもらうってなると……手に取ってもらうまでのハードルが、一気に上がっちゃうわよね」とイリアがぽつりと呟いた。


 考えれば考えるほど、課題は多い。

 けれど——それでもやっぱり、どこか楽しそうな空気が、女子チームの輪をゆるやかに包んでいた。


 「きっちり正確に測らなくても、ある程度の誤差は許されるのかしら?」

 イリアがカップを持ち上げながら、ふとした疑問を口にする。


 「はい!月影石の量で粘度を調整するだけなので、多少の誤差は大丈夫なんです!」

 ツムギが頷きながら返すと、場の空気がふっと明るくなった。


 「じゃあさー」

 ナギが身を乗り出して、ぽての頭を軽く撫でながら言った。

 「お料理作るときに使う、スプーン型の計量器ってあるじゃない? あれなら“大・中・小”って大きさ決まってるし、何より安く手に入るよね!」


 「なるほど、それなら最初に揃える道具のハードルも下がりそうやな」

 リナがすかさず反応し、テーブルの上のノートに視線を落とす。


 「じゃあ、早速やってみようよ!」

 ナギが勢いよく立ち上がり、ぱたぱたとキッチンへ駆けていった。


 戻ってきたナギの手には、大中小のスプーン型の計量器が握られている。


 「ナギ、それ……キッチンの道具、勝手に使って怒られないかな……」

 ツムギが不安そうに眉を下げると、


 「だいじょーぶ!三セットあったし、あとでちゃんと買い足しとくから!」

 ナギはにっこり笑ってウインクしてみせた。


 ——こうして、POTEN創舎名物の「実験タイム」が、またひとつ幕を開けたのだった。

次回は土曜日23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ