133. 打合せという名の女子会
今日は“打ち合わせ”という名の女子会の日。
イリア、ナギ、リナ、ツムギの四人は、POTENハウスのリビングに集まり、バルド特製の焼き菓子と淹れたての紅茶を囲んでいた。
テーブルの上には透輝液や属性光源器、色付き粉末などが並べられ、その光景だけでも心が躍る。
話題の中心は、もちろん《透輝の爪飾り》。
「ちょっとしたアクセントにもなるし、水仕事でも剥がれないっていうのがいいわよね」とイリアが指先を眺めながら言えば、
「うちの子たちにも、絶対ウケると思う〜!」とリナが頷く。
男子チームはというと、今日はカムニア町のジンの工房で装備の打ち合わせ中。
普段は忙しいエリアスも珍しく参加しているらしく、どうやら炎属性の新装備に関する話題が盛り上がっているらしい。
(エリアスさんまで……やっぱり、ああいうのは男の子のロマンなのかな)
ツムギは、ふとそんなことを思いながら、お茶を一口。
女子チームならではの賑やかな時間が、今日もまた、ゆっくりと流れていた。
「透輝液って、月影石の粉を加える量で粘度を調整できるんです。だから、爪に塗るには、ちょっととろみがあるくらいがちょうどよくて……」
そう言いながら、ツムギは試作中の瓶をそっと指先で示す。中には淡く光る液体が揺れており、まるで小さな魔法の瓶のようだった。
「そこに、色粉や光を反射する微粒子を混ぜると、バリエーションも増やせます。たとえば季節限定の色を出したり、魔属性ごとのシリーズを作ったりとか……」
「へぇ〜!なんか、聞いてるだけで楽しくなってくる〜」とナギが嬉しそうに声を上げる。
ツムギは頷きながら、手元のメモにさらさらと書き加えた。
「今のところ、指や爪に異常はなく、強度もある程度保たれているので……このまま状態が安定すれば、販売しても問題ないと思います」
「おお〜、いよいよ商品化目前だね……!」
ナギとリナが顔を見合わせて、わくわくしたように笑った。
イリアもにこりと微笑みながら、「今のうちに瓶とラベルの手配、しておこうかしら」と、早速動き出す準備を始めていた。
すると、ツムギがふと表情を引き締めて、手元の瓶を見つめた。
「……ただ、一つ問題があって」
「ん?」とナギが首をかしげる。
「透輝液と月影石を混ぜると、そこからゆっくり硬化が始まっちゃうの。完全に固まるまでには一日くらいかかるんだけど……つまり、完成品としては販売できないってことなの」
「え〜、じゃあ、どうするの?」
ナギの反応に、ツムギは少し困ったように笑った。
「混ぜる前の状態で販売して、お客さんに混ぜてもらうしかないんだけど……そうなると、どういう形が一番使いやすいか、ちゃんと考えないといけなくて」
「なるほど……確かにそれは悩ましいね」とリナがうなずき、
イリアも「安全に、手軽に混ぜてもらえる形……工夫のしどころね」と、頬に指を添えながら静かに思案を始める。
「だから、みんなにも相談したくて。どういう形なら扱いやすいか、一緒に考えてもらえないかな?」
ツムギのその言葉に、テーブルの上にはすぐに試作品やスケッチが並び、打ち合わせという名の楽しい議論が再び始まっていった。
「まず、考えなきゃいけないのはね——」
ツムギは指を折りながら、順に挙げていく。
「1つ目、簡単に計量できること。
2つ目、混ぜる容器は繰り返し使えて、ちゃんと綺麗になること。
3つ目は、もし繰り返し使えない場合でも、使い捨てできるくらい安価であること。
4つ目、初めて使う人にとって、初期費用がなるべくかからないこと……」
言い終えた瞬間、全員が「うーん……」と頭を抱えた。
「たしかに、全部大事だけど……ぜんぶ揃えるのって、なかなか難しいね」とナギ。
「そうやった。試作やと紙コップ使ってたな〜」
リナが思い出したように言いながら、軽く指を立てる。
「計るのも、ツムギが使ってるあの細かいやつやろ? あれ、一般の人にはちょっとハードル高いかもな〜」
「それを一般の人に揃えてもらうってなると……手に取ってもらうまでのハードルが、一気に上がっちゃうわよね」とイリアがぽつりと呟いた。
考えれば考えるほど、課題は多い。
けれど——それでもやっぱり、どこか楽しそうな空気が、女子チームの輪をゆるやかに包んでいた。
「きっちり正確に測らなくても、ある程度の誤差は許されるのかしら?」
イリアがカップを持ち上げながら、ふとした疑問を口にする。
「はい!月影石の量で粘度を調整するだけなので、多少の誤差は大丈夫なんです!」
ツムギが頷きながら返すと、場の空気がふっと明るくなった。
「じゃあさー」
ナギが身を乗り出して、ぽての頭を軽く撫でながら言った。
「お料理作るときに使う、スプーン型の計量器ってあるじゃない? あれなら“大・中・小”って大きさ決まってるし、何より安く手に入るよね!」
「なるほど、それなら最初に揃える道具のハードルも下がりそうやな」
リナがすかさず反応し、テーブルの上のノートに視線を落とす。
「じゃあ、早速やってみようよ!」
ナギが勢いよく立ち上がり、ぱたぱたとキッチンへ駆けていった。
戻ってきたナギの手には、大中小のスプーン型の計量器が握られている。
「ナギ、それ……キッチンの道具、勝手に使って怒られないかな……」
ツムギが不安そうに眉を下げると、
「だいじょーぶ!三セットあったし、あとでちゃんと買い足しとくから!」
ナギはにっこり笑ってウインクしてみせた。
——こうして、POTEN創舎名物の「実験タイム」が、またひとつ幕を開けたのだった。
次回は土曜日23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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