130. 護りの魔回路式イヤーカフ
131話と130話を逆に投稿してしまっていた為、入れ替えを行いました。
POTENハウスでは、そんなにぎやかな日々の中で、いくつもの試作と改良を経て、ついに完成したのが――特製の《護りの魔回路式イヤーカフ》だった。
これは、POTENの仲間のためにツムギが考案した、小さくて強い“お守り”のような魔道具。
受信機は肌身離さずつけられるよう、小さなイヤーカフの形になっており、装飾としても自然に身につけることができる。
本体には軽量化の魔法陣も書き込み、小さなメモ帳一冊分ほどのサイズに収まった。
これならば、鞄に入れるだけでなく、ポケットに入れて持ち運ぶこともでき、
緊急時には、その様々な機能で、持ち主の身を守ってくれる。
魔導陣の仕組みを組み合わせ、発動条件や回数制限を細かく設定。
さらにツムギの創術で、持ち主の魔力波長を読み取って同調し、「自分だけの守り石」として馴染んでいくことだろう。
魔回路には、このアイテムのためにエドが微調整を施してくれた特製の【魔導糸】を使用した。
ハルやリュカの装備品で忙しい中、市販の魔導ワイヤーの扱いに手を焼いていたツムギを見かねて、エドがあっという間に仕上げた一品である。
創舎内でも彼の技術はめきめきと向上しており、その成長ぶりは誰の目にも明らかだった。
そんな姿に背中を押されるように、ツムギもまた「自分も負けていられない」と静かに決意を新たにしていた。
POTEN創舎の技術を総動員して出来上がった、この小さな石に込められたのは、「無事に帰ってきてね」という、たったひとつの願い。
——ぽてがそっと撫でながら「ぽふぅ……(まもってくれるやつ〜)」とうっとりするその表情に、ツムギの胸の奥がじんわりと温かくなる。
(うん、大丈夫。これなら、きっと守れる)
そんなことをツムギが思っていると、玄関のほうから「ただいまー!」という元気な声が響いた。
ハルが、採取から帰ってきたようだ。
「おかえり、ハルくん! ちょうどよかった〜!」
ツムギがぱっと顔を上げ、手元の小箱をそっと持ち上げる。中には、丁寧に収められた小さなイヤーカフが二つ。
「できたんだ、“護りの魔回路式イヤーカフ”。ハルの分と、リュカくんの分もあるの。今度、POTENハウスに来てもらって、一緒に渡そうね!」
「ほんとに? さすがツムギお姉ちゃん!」
ハルは目を輝かせながら箱の中をのぞきこみ、ぱちぱちと瞬きをした。
「……えっと、“魔回路”って、名前からしてすごそうだけど、どんな機能がついてるの?」
「ふふっ、それがね……」
ツムギは、そっとイヤーカフを手に取りながら、その仕組みや機能について簡単に説明を始めた。心拍に反応する仕組みや、防御結界、思考を整える魔法陣のこと——
ハルは「へえ〜!」「すごい!」と何度も感心しながら聞き入り、ときどき「それって本当に発動するの?」「嘘みたいな魔道具だ……!」と目を輝かせた。
リビングでは、ナギが今日の成果をぽてと一緒にまとめていて、キッチンからはバルドが作る夕食の香ばしい匂いが漂いはじめる。ジンも、POTENハウスの様子を見に立ち寄った。
テーブルには、あたたかい紅茶と夕飯前の軽いおやつ。
素材の話に花が咲きながらも、どこかゆったりとした時間が流れていた。
そんなひとときの中で、エリアスがカップを手にふと目を上げる。
「そういえば、ツムギ、随分守り石に集中してたけど……バザールの準備、大丈夫そうか?」
「……えっ」
その一言に、ツムギの顔からさっと血の気が引き、固まった。
(まずい、忘れてた!どうしよう、何も準備してない……!)
頭の中に「バザール準備」という文字が大きく点滅しはじめる。
「……うん、やっぱり延期にしようか。再来月くらいにすれば、他の準備とも無理なく噛み合いそうだし」
苦笑いしながらエリアスが呟くと、同じくくつろいでいたイリアとリナが顔を見合わせる。
「POTENブランドの納品も立て込んでたし、しょうがないわよ……」
「ほんなら、ウチも他の商会に掛け合ってみるわ。納期、もうちょい猶予もらえるように交渉してくる」
「ありがとう……守り石に夢中になってて、すっかり忘れてたよ……」
「ぽふ……(ツムギだもんねぇ)」
ぽてのぽふっとしたひと言に、ナギとハルがぷっと吹き出し、リナも「ほんま、ツムギらしいわ」と肩をすくめて笑った。
お互いに“だよねえ……”と笑い合うその空気には、POTENらしい、あたたかな連帯と信頼が満ちていた。
少し離れたところでは、ジンとエドがハルを囲んで何やら楽しそうに話していた。
「この間預けてもらった、”あのガラクタの魔導鉄”な。調べたらどうやら火属性っぽいんだよ」
「ほんと!? じゃあ、それってリュカにぴったりだよね?!」
ハルが目を輝かせると、エドも嬉しそうに頷いた。
「うん、俺もそう思った。今度、本人とも相談してみようかな」
「うん! 絶対喜ぶと思う!」
ぽてが、ハルの肩の上で「ぽふぽふっ!(炎の出る剣!)」と跳ねる。
そんな、喜びと笑いが入り混じる温かな夕暮れの中、ツムギはそっと、自分の耳元のイヤーカフを触ってみる。
ほっとした気持ちと、胸の奥からふわっと湧き上がる小さな達成感。
ひとつひとつ、形にしていくことは、やっぱり楽しい。
さあ、次は何を作ろうかな?
ツムギの表情には、いつものやわらかな笑みと、未来を見据えた光が浮かんでいた。
次は水曜日の23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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