表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/132

131. リュカとイヤーカフ

 今日は、リュカに《護りの魔回路式イヤーカフ》を渡す特別な日。


 ツムギは、午前中にエリアスと一緒に別件の打ち合わせに出ていたため、少し遅れてPOTENハウスに到着した。


 その間、ハル、リュカ、エド、ジンの男子チームとナギは、先に集まって装備の打ち合わせをしていたらしい。


 「いや〜、なんかね、炎の剣がどうとか、属性つきの弓矢がどうとか……」

 テーブルについたツムギに、ナギがちょっと呆れたように笑いながら報告してくれた。

 「正直、カッコいいのかどうか、よくわかんなかったけど……男子組がすっごい目キラキラさせてて、なんかおもしろかったよ〜」


 その話を聞いていたぽてが、ツムギの肩からぴょんと飛び降りて、ハルの膝の上にちょこんと移動する。

 そして、リュカとハルの会話に目を輝かせながら、思いきりうんうんと頷きはじめた。


 「……ぽては、完全に“そっち側”だねぇ」


 ツムギが苦笑すると、場のあちこちから「わかる〜」「ぽふぽふしながらキラキラしてるよね!」と笑いが起こった。


 ひとしきり笑いが落ち着いた頃、ツムギはそっと膝の上の小箱を開いた。

 中には、丁寧に仕上げられたイヤーカフが一つ。どこか心を落ち着かせるような不思議な佇まいを持っていた。


 「リュカくん、これ……このあいだ話してた“護りの魔回路式イヤーカフ”、できたんだ」


 ツムギが、そっとそれを手に取って差し出す。

 リュカは一瞬きょとんとしたが、すぐに目を見開き、ゆっくりと手を伸ばした。


 「……これが、守り石……」


 「うん。ちょっとこの形からは守り石とは思えないよね。これは“受け石”って呼んでるんだけど、小さくても本体の魔回路とつながっててね。

普段はポケットや鞄に入れて持ち運ぶ“本体”が、命令文の魔法陣やいろんな機能を管理してて、このイヤーカフがその信号を受け取ってくれるの」


 ツムギの説明に、リュカはまじまじとイヤーカフを見つめた。

 繊細な装飾の中に宿る、小さな魔法たちの気配を感じ取ったのか、ふっと頬を緩める。


 「……ありがとうございます。すごく……嬉しいです」


 そばで聞いていたハルが、「それ、すごいでしょ? 俺も同じのもらったんだ!」と誇らしげに笑い、ぽてが「ぽふー!(まもりのやつ!)」とリュカの肩に乗ろうとぴょんと跳ねる。


 「似合うと思うよ。耳につけてみる?」

 ナギがにこにこしながら促すと、リュカは少し照れくさそうに頷き、静かにイヤーカフを耳に装着した。


 ぱちり、と小さな音がして、魔導の気配がふっとなじむ。


 「……なんか、ちょっと安心するかも」

 リュカが小さく呟いたその声に、場の空気がふわりとやわらかくなった。


 「ねぇねぇ、リュカくん、見て見て!」

 ナギがぱっと立ち上がり、POTENハウスの壁際を指さす。

 「ほら、あそこ。壁についてるあの装置、今のリュカくんの状態を送ってくれてるんだよ〜!」


 指差した先には、淡く光る半透明の結晶板——《星灯の雫》を素材に使った信号受信装置が取り付けられていた。

 その表面には、緑色の光がいくつか、穏やかにまたたいている。


 「これ、全部が緑ってことは……今はぜんぶ正常、ってことなんだ」


 「へぇ……」

 リュカが目を丸くして、じっと見つめる。


 「もしね、すっごく心拍が上がりすぎたり、逆に弱くなったりすると、色が赤とか青に変わるの。

 連絡が取れなくても、どこかで倒れてても、これを見れば“今どうなってるか”がわかるようになってるんだって」


 ナギの言葉に、ハルが「それって、すごく便利だよね」と頷き、

 ぽても「ぽふぅ……(ぴかぴかのあんぜんしんごう〜)」とご機嫌に跳ねていた。


 みんなの視線が、装着したイヤーカフと、緑色に光る受信装置に集まる中——

 ツムギはそっと、リュカの方へ顔を向けて微笑んだ。


 「これからもね、使ってみて『ここを変えたいな』とか、『もっとこうだったら便利かも』って思うことがあったら、どんどん教えてほしいの。

 必要に応じて、どんどん使いやすく改良していくつもりだから……楽しみにしててね!」


 その声には、自信と優しさ、そしてものづくりへの真っ直ぐな想いがにじんでいた。


 「はい……よろしくお願いします」

 リュカもまた、少しだけ口元を緩めながら、しっかりと頷いた。


 雑談の流れで、ふとジンがカップを置きながらリュカに声をかけた。


 「そういえば、最近はどうだ? 調子は」


 少し驚いたように目を瞬かせたリュカだったが、すぐに柔らかく微笑んで答える。


 「学院が早く終わった日や休みの日は、依頼を受けたり、講習に出たりして……少しずつ、冒険者としての活動にも慣れてきました」


 「おお、それは頼もしいのう」


 バルドがにっこりと目を細め、リュカもそれに軽く頭を下げた。


 「ただ……最近、パーティーに誘われることが増えてきてしまって……」

 「へえ、人気者だ〜!」とナギがからかうように笑うと、リュカは少し照れたように頬をかいた。


 「嬉しいんですけど、時々ちょっと強引な人もいて……。断るのがうまくできなくて、どうしようかと。贅沢な悩みなんですけどね……」


 「あるある〜! 誘ってくれるのは嬉しいけど、なんか断りづらい時ってあるよね」とハルも頷いていた。


 そんな和やかな会話の輪の中、リュカの言葉に場が一瞬ふわりと揺れた。


 ツムギやナギ、ハルはそのまま「それって大変だね」「断る練習しよっか」などと和やかに声をかけていたが——


 その様子を見ていたリナとエリアス、ジン、バルドの四人は、そっと目配せを交わした。


 (……やっぱり、来てるか)

 (思っていたスピードより、ちょっと早いな。気をつけた方がよさそうだ)

 (この間の話、現実味を帯びてきたな)


 視線が交錯しただけで、伝わる意思があった。


 少し離れた場所で立っていたリナが、声を落としてエリアスに小さく呟く。


 「……この雰囲気、ほっとくとロクなことにならんかも。イリアさんの読み、当たってたんやない?」


 「前の情報よりしつこくなってるみたいだな……念の為調べておこう」


 声は小さく、口調はごく自然だが、その眼差しは鋭く、すでに次の一手を見据えていた。


 ハルやリュカには気づかれぬように。

 子どもたちの穏やかな時間を壊さぬように。

 経営陣と大人たちは、水面下で静かに動き始めていた。


次は水曜日の23時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ