128. 夢の魔導盤設計中!
——スマホ。あれには、たくさんのアプリが入っていて、それぞれが別々の働きをしていた。
けれど、バラバラに動いていたわけじゃない。全部が、どこかで一つに管理されていた。
(たしか……あれを制御していたのは、“オペレーションシステム”……だったはず)
言葉には出さず、心の中だけで静かに呟く。
(通知で“OSアップデートがあります”とか、よく出てきてた……だから間違いない。
それなら、“OS”の役割は、魔法陣で置き換えられるかもしれない)
思考がつながっていく。
(そして……スマホの“心臓部”は、“基盤”。
チップとチップをつなぎ、情報や命令を送ったり、電力の流れを管理したりする、大事な土台部分)
魔力の流れと術式の接続を思い浮かべる。
基盤とは、まさに“仕組みをつなぐための土台”。
(つまり——スマホの基盤のような仕組みを作って、
そこに個々の魔法陣を“接続”させる構造にすれば……)
ツムギは急いでノートを引き寄せ、ペンを走らせながら考えをまとめる。
(大きめの基盤型魔導具をひとつ作って、それをバッグや腰袋の中に入れておく。
そこに、“必要な魔法陣”を全部繋げて、
小さい命令受信用の魔石——“端末側”だけを身につければ……)
——小さくて、軽くて、必要な時に必要な命令だけが飛んでくる。
(そうか……これなら、“全部を持ち歩かなくていい”……!)
ツムギの指先が止まり、ぱっと顔が明るくなる。
ふわりと揺れた指の軌跡の先に、
“守りの魔法具”の新しい形が、少しずつ姿を現し始めていた。
「ツムギ! ツムギーー!」
思考の深みに沈んでいたツムギの耳に、ふわっと弾けるような声が届いた。
「……えっ? あっ、ごめん、わたし、なんか考えてて……!」
慌てて顔を上げると、ナギがスコーンを片手ににやにやしながら覗き込んでいた。
「も〜ツムギったら、目がらんらんとして、口元がにやけてたよ〜?
ねぇ、何かいいこと思いついたんでしょう?」
「えへへ、そうなの!」
ぱあっと顔を輝かせるツムギに、ナギが「きたきた〜」とでも言いたげに隣の椅子に腰を下ろす。
その様子を見て、バルドとハルも「何の話じゃ?」と飲みかけのハーブティーを片手に静かに寄ってくる。
「……さっき、ふと、いろんな魔法の仕組みを一つにまとめられたらって思って。
それをつなげて動かす“構造”を考えてたの。複数の魔法陣を繋げて、命令だけを受け渡す仕組み……」
ツムギはノートをめくり、新しいページに簡単な図を描きながら続けた。
「まず、土台は“魔法陣に影響を受けない素材”で作れば、魔力の暴走や干渉を防げる。
そこに各機能の魔法陣を組み込んで、小さな“受け石”に必要な命令だけを飛ばすの!」
「おお?……なんかすごそうな事だけはわかる……!」
ナギが分かったような、わからないような表情で頷いている横でハルが「ふむふむ……」と真剣に聞いている。
バルドは腕を組んで、「素材の選定が鍵になりそうじゃな」とうなずいていた。
「たとえばじゃが……“魔封じの板”というのがあるじゃろ」
バルドがぽつりと口を開いた。
「あっ……それ、ありましたね!」
ツムギの目が輝く。
「魔力を完全に通さない特殊な板で、箱状にして危険な魔道具を封じたり、
干渉を避けたい魔石を仕切るために使われるって……文献で見たことがあります!」
『うんうん、それなら土台として、魔法陣の干渉を遮断するのにぴったりかもしれんのう』
「そうそう〜、あれってね、粉にして布や皮に練り込んだ生地もあるよー!」
ナギが思い出したように声を上げる。
「防具に使われてて、魔法のダメージを減らす効果があるらしいの。
でも……自分の魔力も通らなくなるから、けっこう使い所が難しいんだって!」
「なるほど……それなら、ぴったりかも!それを台として、魔力が繋がるように魔石同士を繋げて、メインの魔石に命令文の魔法陣を組み込めば……」
ツムギは頭の中で、基板を思い浮かべながら、ノートを開き、図面の余白に設計案を描き足していく。
「ふむ。やってみる価値はあるのう。確か魔封じの板は在庫があったはずじゃ」
とバルドは席を立ち、魔封じの板を探しに素材部屋へと入って行った。
残ったツムギは、考えを整理しながら設計を進めていく。
ツムギの研究ノート【構成メモ】
◎ メイン魔石に刻む命令文
・心拍数を受け取り、POTENハウスへ送信
・キーワードで展開型バリアを発動(×3)
・キーワードで思考安定魔法を発動
→ それぞれの魔石を魔封じの板の上で繋ぎ、発動制御する
◎ 魔石同士を繋ぐ素材
→ 魔導伝導率の良い“ワイヤー”のようなものを選定
「うーん……魔導伝導率の高い素材って、あったかな……」
ツムギが首をかしげたそのとき、ぱっとナギが手を上げた。
「あるある!ワイヤーっぽいの、ちゃんとあるよ!」
「えっ、本当?」
「うん!魔封じの生地とは逆で、魔導伝導率の高い素材を練り込んだ“魔導布”ってのがあってね、
その中でも“防具編み用”のは、すっごく丈夫なんだよ〜。金属並みに強いのに、糸状で使いやすいの!」
「それ……ぴったりかも……!」
「名前はたしか“魔導ワイヤー”って呼ばれてたかな?確か素材棚の右奥に置いてあった気がする〜!取ってくるね!」
ナギは勢いよく立ち上がり、ぽての頭を軽く撫でてから、素材室へと駆けていった。
「ぽふー!(たのしそー!)」
図面の上には、少しずつ現実味を帯びてきた“守り石の新しいかたち”。
思い描いた夢が、今ここで少しずつ形になろうとしていた。
次回は水曜日23時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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⚫︎ハルの素材収集冒険記・序章 出会いの工房
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