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127. ティータイムのひらめき

 「さて、次に決めるのは《危険状態の自動通知機能》じゃな」


 「これはのう……冒険者がよく持っていく、生死を判断するための魔法陣の仕組み、あれを流用できんかのう?」


 「たしかに……」

 ツムギが頷く。


 「通常時と、完全な非活性状態の検知は、そのまま使えそうですね。

 問題はその“間”、つまり速すぎるときや遅すぎるとき……どうやって判断し、色に反映させるか、です」


 「ふむ、脈拍がある一定の範囲を超えたら信号を送る、という仕組みにしてしまえばよい。

 基準値以上、あるいは以下で判断すれば、術式も複雑にはならんじゃろ」


 『ただのう、通知に使う“色”をどう表現するかがひとつの課題じゃよ』


 ツムギは少し考え、ふと思い出したように顔を上げた。


 「このあいだ、バルド先生がハルくん、エドさんと一緒に採ってきた“星灯の雫”って、光魔法に反応して発光する素材でしたよね?」


 「おお、あれか! 夜空の中に星を散らしたような輝きのやつじゃな。確かに、あれは使えそうじゃぞ」


 「確か“星灯の雫”は魔導ランプに使われていて、色々な色があったはずなので、魔法陣の書き方によって、反応する光の強さや波長を変えれば、色も表現できるはずです。

 “速すぎる”なら赤、“遅すぎる”なら青、“正常”は緑……そして何もなければ発光しないようにすれば」


 『ふむふむ、それなら魔力の消費も最低限で抑えられるしの。魔力を送る主はメイン機械じゃし、守り石の方は本当に軽く済ませられる』


 さっそく、設計に取りかかる。


 光属性の魔石の外周に星灯の雫を薄く塗り、内側の術式で光の属性と反応をコントロールするよう構成を組む。

 色味がにごったり、反応が遅れたりするたびに微調整が入るが、何度か試行錯誤するうちに、なんとか試作品が完成した。


 ツムギの手元で、半透明の魔石が小さく光る。


 赤。緑。青。そして、すっと光が消える“無”の状態。

 静かながら、明確に“状態”を表す色が浮かび上がる。


 「やっぱり、メインとサブ方式にして正解でしたね。

 持ち運ぶ方は、この魔法陣付きの魔石ひとつでいけそうです!」


 「うむ、仕組みも明快で、実用性も高い。ようやったのう。次は《時間稼ぎの空間保護》をやっつけるか」


 「これはのう、すでにある展開型の魔法陣を刻んだ魔石を三つ用意すれば、仕組みとしては完成するのう」

 バルドがあっさりと言い切り、設計用紙の端にその構図をさらりと描き出す。


 『そうそう。刻む術式も安定しておるし、術者の負担も軽い。昔からある形式じゃからのう』


 「じゃあ、《時間稼ぎの空間保護》はそのままの魔法陣で組み込むとして…… 後の問題は……どうやって全ての要素を兼ね備えた守り石にするか、ですね」


 ツムギが手元のノートを見つめながら、静かに言った。


 「全ての魔法陣をひとつひとつ刻むと、五つの魔石になっちゃいますね。それをそのまま持ち歩くと、紛失や破損のリスクがあります。

 かといって、全ての魔法陣をひとつ一つ、大きめの魔石に刻もうとすると、魔力の流れが干渉して制御が難しくなりそうで……」


 「ひとつの魔法陣に全部まとめるって方法もあるが、それはそれで複雑化して、不具合の原因になりかねんのう」

 バルドが腕を組んで唸る。


 『魔力の流れが重なって、“発動が重複したり、逆に飛ばされたり”することもあるんじゃ。

 安全性を取るなら、きっちり分けた方がいいとは思うが……』


 「だけど、かさばりすぎても持ち歩けないし、そもそも緊急時にどれを使えばいいか迷う可能性もある……」


 3人の間に、静かな沈黙が流れる。

 作れる、けれど、安心して使える形にするには、まだ課題が多かった。


 ぽてが机の下からひょこっと顔を出して、そっとツムギの足に手を添える。


 「ぽふ……(むずかしぽて……)」


 「うーん。簡単に見えて、意外と難しいところに来ちゃいましたね……」


試作を終えた図面を前に、ツムギは少し手を止めた。


 ——条件を、やっぱり整理しないと。


 「身につけていても、小さくて軽く、邪魔にならないこと。

 それでいて、それぞれの効果が“必要な時にきちんと発動すること”……」


 ノートの端に、いくつかの図を描きながら、ぽつぽつと考えをまとめていく。


 「でも、今の仕様だと、魔法陣は全部で五つ必要。

 最低限の大きさで描くとしても……一つの魔石に描けるのは、直径二センチが限界かな」


 手元の素材サンプルを見つめながら、ツムギは眉をひそめる。


 「十字に並べて配置すれば、なんとかなるけど……全体で六センチは超える。

 ギリギリ身につけられるサイズかもしれないけど、重ねたぶん厚みも出るし、なにより——」


 「軽量化のための補助魔法陣も、別に必要になる……」


 図を見ながら、ツムギの手が止まった。


 “うーん……”


 何か、もうひとつ、根本的に変える方法はないだろうか。


ノートの前で、じっと図面を見つめていたツムギの手が止まったまま、しばらく経った。

 視線は泳ぎ、線の隙間に言葉も沈黙も染み込んでいく。


 そのとき、バルドがくるりと立ち上がり、ぽんと手を打った。


 「よし、煮詰まった時は——脳に栄養が一番じゃ。お茶にしよう」


 「え……?」


 ぽかんとしたツムギをよそに、バルドが食卓へと、金属細工の縁が繊細に光る、3段重ねのケーキスタンドを運んでくる。


 一番上には、小さく丸められたハーブ香るミニサンドと、

 花の形を模したカラフルなベジタブルパイ。


 真ん中の段には、手のひらサイズのふんわりスコーンと、

 自家製のベリージャムや濃厚クロテッドクリーム。


 下段には、宝石のように輝く果物ゼリーと、

 まるで絵本から出てきたようなちいさな焼き菓子たちが整然と並んでいた。


 思わず「わぁ……!」と声を漏らしたツムギの隣で、ぽてが「ぽふふふ!(しあわせ〜!)」と舞うようにくるくる回る。


 「昨日のうちに、準備しておいたんじゃ。頭を使う日になると思うてな」


 「さっすがバルドさん〜!」

 別の作業場から、ナギがぱたぱたと入ってきて、にこにこしながらテーブルを覗きこむ。


 (わっ、これ……見た目も可愛くて映えるなぁ……! やっぱり写真を撮れたらいいのにな……)


 ツムギがそんなことを思いながらホクホクしていると、学院から帰ってきたハルも嬉しそうに顔を出した。


 カップに注がれるのは、ほのかに甘くてすっきりした果実の香りのハーブティー。

 紅茶のような深みもあり、飲むたびに、じんわりと身体の疲れがゆるんでいく。


 「ツムギの唸ってる声、こっちの部屋にまで聞こえてたよ〜?」

 ナギがスコーンを割りながら、軽く肩を叩く。


 「え〜!私そんなに唸ってた?」


 軽口を叩きながらしたその笑顔は、さっきまでの緊張とはまるで違っていた。


 気がつけば、テーブルのまわりには笑顔があふれていた。

 ナギがぽてにミニサンドをあげている横では、ハルはゼリーを片手にバルドと何やら話している。


 ——こういう時間、すごく好き。


 ツムギはふっと目を細めた。

 にこにこと笑いあう仲間たちの姿を見つめながら、心の奥で、小さな願いが芽生える。


 この瞬間も、写真におさめたいな……

 いつか、前の世界にあったスマホみたいな機械を作って、たくさん写真を撮ろう。


 そんな、ひそやかな野望が胸に灯ったそのときだった。



 ——ん? スマホ?


 ふと浮かんだその単語に、ツムギは一瞬、手を止めた。


 ……そういえば、スマホって……あんなに小さいのに、どうしてあんなに色んなことができたんだっけ?


 通話、写真、メモ、時計、音楽、ナビ——

 一つの機械の中に、たくさんの機能がぎゅっと詰まっていたあの道具。


 あれって、どういう仕組みだった……?


 ツムギの視線が、ふっと遠くを見つめるように揺れた。

次回は土曜日23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/


先日、はじめてカテゴリー別ランキングに名前を載せていただくことができました。

これもすべて、応援してくださった皆さまのおかげです。心より感謝申し上げます。


まさか名前が載る事があるとは思わず、とても嬉しくて、家で小躍りしてしまいました笑

これからも、ひとつひとつのお話を大切に、丁寧に書いていきたいと思います。


……最近は、初期のお話を大幅に改稿したい衝動に駆られていたりもして。

より良いかたちを模索しながら、これからも物語と向き合っていきます。

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