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124. 守るとは

「……私、自分が“守らなきゃ”って思いすぎて……

 “守ること”そのものが、重たくなってたのかもしれない」


 ぽつりと、ツムギがつぶやいた。


 「相手のことを想ってるつもりだったけど……気づかないうちに、私の“正しさ”を押しつけてたのかも……」


 ぽてが「ぽふ……」と小さく鳴いて、ふんわりと尻尾を揺らす。


 ぽつりとこぼれたツムギの言葉に、ノアがそっと微笑んだ。


 「ねえ、ツムギ」


 あたたかな紅茶の湯気越しに、ノアの声がやさしく響く。


 「“守ろう”とすることは、何も悪いことじゃないわ。

 それは、誰かを大切に思っている証なんだから」


 ツムギは、目を上げた。ノアのまなざしは、まっすぐで、でも決して押しつけがましくない。


 「でもね——」

 「その人が“ありのまま”でいられるように、そっと支えて、

 その人自身を信じて、見守って……

 やがて、自分の意思で選んでいけるように、静かに“余白”を差し出すこと。

 それも、“守る”ってことじゃないかしら?」


 静かに、けれど芯のあるその言葉が、ツムギの胸にすっと染みこんでいった。


 ノアは、にっこりと笑って言った。


 「……そんな魔法陣が、作れるといいわね」


 ツムギは小さく瞬きをし、ゆっくりと息を吸って、吐いた。


 ——そっか。

 “ありのままでいられるように見守ること”……そんな守り方もあるんだ。


 それは、ただの強さじゃなくて、信じることの形。

 そう思ったら、胸の中の霧が少しだけ晴れていく気がした。


 「……うん!」


 ツムギは、ぱっと顔を上げて立ち上がる。


 「じゃあ、早速考えてみる!」


 テーブルの端に置いていた研究ノートを取り出し、パタンと開く。

 

 今なら良いアイデアが出せるかもしれない。


 「“全てから守る”じゃなくて、“ありのままでいられる守り”……うん、考えてみる」


 ツムギがそう言ってペンを握ると、ジンが湯呑みを持ち上げながら、にっと笑った。


 「おっ、いいな。それなら俺もちょっと出してみようか?」


 「ありがとう!もちろん、大歓迎!」


 ノアも新しいお茶をいれながら、「アイデア出しなら得意よ〜」とにっこり笑って加わる。


 「まずね、落ち着けるって大事だと思うの。危ないときほど、パニックになりがちじゃない?」


 「それなら、“感情を安定させる穏やかな加護”なんてどうだ?」

 ジンが言うと、ぽてが「ぽふ!(たいせつ!)」と跳ねた。


 「うん……緊張や恐怖に飲まれないで、自分の判断ができるようにする。これは絶対必要!書いておくね」


 カリカリとペンが走る音と、ぽてのちいさなくるくる音が部屋に心地よく響く。


 「それから、危険を知らせたり、いつでも相談できるようにするのも大事よね」

 ノアが言うと、ジンも頷く。


 「誰かに話せる、つながれる……孤立を防ぐってやつだな」

 「命が危なくなった時の感知とか……即時に知らせる仕組みも入れたいね」


 「あと、一度立ち止まって考えられる空間も必要だと思うの。休んでもいい場所」

 「お、いいね。“展開型の保護結界”にすれば、足止めにもなるし、守りにも使えるな」


 ぽてが、ノートの上でふよふよしながら「ぽふ〜……(おやすみもだいじ〜)」とごろんと寝そべる。


 「ふふっ……ぽても賛成だって」


 ツムギの手元のページには、次第にやわらかく、あたたかな言葉が並んでいく。


 「最後に……“自分を責めすぎないように”っていうのも、私自身がよくやっちゃうから。

 失敗しても、自分の価値を忘れないために……少しの癒しみたいな魔法、できないかな」


 「過去の楽しかった事とか成功を思い出せるとか?」


 その言葉に、ツムギの心にふっと一枚の風景が浮かんだ。


 ——前世のスマホの中の画像のように、何気ない日常の中で、大切な瞬間を一枚の画像として写し出したいな。

 笑顔、風景、色、音の気配さえも思い出せるような、不完全だけど温かい記録をとっておけたら。


 ツムギは目を細め、ゆっくりと頷いた。


 「楽しかったことをそっと保存しておいて……必要なときに写し出せる魔法、できたらいいな」


 “思い出の写真をとっておけたら……”


 心の中だけで呟いた言葉に、ぽてがぴょこんと顔をのぞかせる。


 「ぽふぽふ!(ツムギはすごい!)」


 そんなふうに、夜は更けていく。


 魔法陣そのものは後でバルドと魔導裁縫箱先生に相談すればいい——

 その魔法陣に描かれる“芯”は、今、確かに形を得ようとしていた。


 *****


ツムギの研究ノート【メモ】


 ⚫︎感情を安定させる穏やかな加護


 緊張や恐怖に飲み込まれず、自分の判断ができるようにする


 ⚫︎いつでも相談できる仕組みの確保


 どんな空間にいても孤立を防ぐための通信系の補助や仲間に危険な状態を知らせる仕組み


 ⚫︎時間稼ぎの空間保護


 敵と遭遇した時に時間稼ぎになる展開型バリア


 ⚫︎思い出を保存しておく事のできる機能


 楽しかった思い出を保存し映し出せるような投影要素


 *****


 その後も、どんな魔法陣の組み方がよさそうか、参考になる術式の文献はどこにあったかなど、あれこれ話が尽きなかった。

 久しぶりに帰ったツムギを囲んで、ジンもノアも、ぽても嬉しそうに語り合い、笑い合い——夜遅くまで、研究ノートの周りには穏やかな灯りが絶えなかった。

次回は水曜日23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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