120. ハルの装備とツムギの思い
その流れに乗るように、エドが手を挙げた。
「僕とジンさんは、ナギとツムギから頼まれてるギミックの制作を進めながら、ちょっと時間を取って、ハルの装備強化にも取り組みたいと思ってるんだ」
「今考えてるのはね、状態異常を防いだり回復できたりするアイテムとか、ダメージを軽減できるような防具。それから……ハルは風魔法が得意だから、それを活かせる武器を作ってあげたいと思ってるんだ。できれば、敵に近づかずに戦えるような。弓矢みたいな遠距離攻撃の武器がいいかなって、ジンさんとも話しててさ」
「それから……できれば、あのとき一緒に素材を運んでくれたリュカくんにも協力してもらいたい。魔石のお礼も兼ねて、実地での試用——いわば“テスト運用”ってやつだな。やっぱり、実際に使う人の意見を聞きながら調整していくのが一番だから。戦い方や癖に合わせて、ちゃんと馴染む装備にしていきたいんだ」
ジンは腕を組み、ハルに視線を向ける。
「ハル。POTENハウスでも、俺の工房でもかまわない。どちらかでいいから、装備の調整に付き合ってもらえるか?」
呼ばれたハルは、ぱっと立ち上がってびしっと背筋を伸ばす。
「もちろん! ジンさんとエドさんの装備なら、絶対に最強だし! リュカもきっと喜ぶと思う! 装備が揃ったら、もっと奥の素材も集めに行けそうだよ!」
「ハル、それについてはだな……もう少し後でもいいんじゃぞ?」
バルドが紅茶にミルクを入れながら、ゆるりとした声で言った。
「装備の完成もまだじゃし、焦ることはない。まずは今行けるところから確実に、じゃな」
「そうそう! ハル、危ないところには行っちゃダメだよ?」
ナギも手帳を閉じながら、心配そうに目を細める。
「ちゃんと準備してからじゃないと、ツムギが泣くからね?」
ナギの一言に、周囲から小さな笑いがこぼれる。
そんな様子を微笑ましく見ながら、エリアスが最後の紅茶を飲み干し、軽く手を叩いた。
「では、今月の定例会議はここまで。あとは各自、それぞれの作業に移ろう」
皆が椅子を引き、少しずつ動き出す中、エリアスは立ち上がり、そばにいたハルに声をかけた。
「ハル、ちょっといいかい? 装備強化にあわせて、ポーション類も揃えておいた方がいいと思ってね。どんな薬が必要かわからないし、一緒に薬屋を回ろう」
「うん、行く行く! ちょうど補充したいと思ってたんだ!」
ハルは元気よく返事をして、エリアスと一緒に玄関へ向かっていく。
ざわめいていたリビングが、少しずつ静けさを取り戻していく。
それぞれが自分の持ち場へ向かい、作業の準備を始める中——ツムギは、テーブルに残っていたバルドの隣に腰を下ろした。
「……バルド先生。私、“みんなを守れるような強力な魔法陣を作る”って、さっき言ってしまいましたけど……本当にできるか、ちょっと不安で」
ぽつりとこぼした言葉に、バルドは驚いたように眉を上げ、それから穏やかに笑った。
「そんなに不安にならんでも、大丈夫じゃ。ツムギが“守りたい”と思うものを、守れるような魔法陣をわしと一緒に少しずつ作ればいい。」
バルドはゆっくりと、机の上に置かれたノートへ目を向ける。
「魔法陣というのはの。計算をして、それに伴った図を書けば良いと思われがちだが、結局、“言葉の本質”と、“自分の望み”をきちんと理解することから始まる。
ツムギにとって、“守り”とは、何じゃろうな。——それを考えることから、始めてみたらいいんじゃないか?」
ツムギは目を瞬き、そっと手元のノートを開いた。
ツムギはノートにゆっくりと文字を走らせた。
「守りとは?」
——私にとって、守りって何だろう。
一見、簡単な問いのようでいて、掘り下げていくと、答えがすぐには見つからないことに気づかされる。
誰かを包むように守るのか。
それとも、何かを遮るように守るのか。
その“何か”とは——魔物?災い?それとも、不安や孤独?
守る形にも、意味にも、たくさんの種類がある。
そして、誰を、何を、どうやって守るのか……それは、私自身が決めていかなくてはいけない。
ノートの余白に、ツムギはもう一度、そっと書き加えた。
「わたしが、守りたいもの。」
その文字のそばに、小さなぽてが顔をのぞかせる。
ぽて「ぽふ?」
【いっしょに、考えよう?】
ページをめくる音が、未来への扉のように静かに響いた。
次回は土曜日の23時時ごろまでに1話投稿します。
申し訳ありません。ストックがほぼ尽きてしまった為、
本日より、水曜日と土曜日の週2回の投稿に切り替えさせて頂きます
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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