119. 新商品の打合せ
紅茶をひと口含んだイリアが、やわらかな笑みを浮かべながら視線を上げた。
「この間の会議でも少し話したけれど……あの宝石型の魔法陣パーツと、コレクションケースの方、進捗はどうかしら?」
その言葉にツムギは、ぱっと顔を上げ、手元のノートを開きながら口を開いた。
「はい。魔法陣のパーツですが……バルド先生と相談して、守りの魔法陣だけじゃなくて、たとえば、光がふんわり灯るライト効果や、そよ風みたいな風を起こす魔法陣もいいかなって思っています。ライト効果があると、肌が綺麗に見えるので、気分が上がるんじゃないかな?とか……そういうのも、喜ばれるんじゃないかなって」
ツムギは、ページの端に描かれた簡易スケッチを指先で押さえながら続けた。
「まだ魔法陣自体は作っていないんですけど、まずはそのあたりを優先して、パーツに合わせた形にしていこうと……」
テーブルに並べられた試作品に視線を向け、少しだけ顔を綻ばせる。
「この魔法陣を使って、バザール用の商品も作っていくつもりです。そちらは庶民の方でも手が届くように、価格を抑えて、宝石型ではなくスライス型の守り石で考えています」
そこまで話して、ツムギはふと目を伏せ、少しだけ声を落とした。
「それと……POTENのメンバー全員と、ハルくんの友人のリュカくんに、特別な守り石を作れたらなって思ってて。なるべく強い守りの魔法陣を、手書きで刻むつもりです。魔石のお礼の気持ちも込めて……」
ノートを胸元に抱えながら、周囲を見渡す。
「……で、これは私個人の提案なんですが、せっかくなら、今回発見した“未発現魔導結晶”を使えたらって思ってるんです。もちろん、危ないならやめます。でも、もし使っても大丈夫なら——みんなを、もっとちゃんと守れる気がして」
一瞬、場に静けさが落ちた。その中で、イリアが紅茶をひと口含み、ぱちんと軽くまばたきをしてから微笑んだ。
「ライトの効果、すごくいいわね。むしろ、今まで誰も気づかなかったのが不思議なくらいよ。これは……売れるわ」
しみじみと感心したように呟いたあと、彼女はツムギの目をまっすぐ見つめながら、静かに問いかける。
「そして、メンバーとリュカくんへの守り石……もし内々で渡すだけなら、問題ないんじゃないかしら。みんなは、どう思う?」
「リュカ、ツムギお姉ちゃんの作ったもの、すっごく欲しがってたよ!」
ハルがすぐに手を挙げて、嬉しそうに続けた。
「それに、ちゃんと口止めしたら、ぜっっったい誰にも言わない! あいつ、そういうとこ律儀だから!」
「ふふ、それなら安心だね」
ナギがくすっと笑いながら頷くと、バルドも腕を組みなおして言葉を添えた。
「本来は危うい素材じゃが、目的は“仲間を守る”ことじゃ。内々であれば、問題なかろう。わしも異論はないぞ」
「うん、それならいいんちゃう?」
リナが軽く肩をすくめながら続ける。
「秘密はちゃんと守れる子なんやろ? なら、ツムギが作ってあげたいって思うなら、ええと思うで。守るためのもんなんやし」
最後に、エリアスが淡く笑って付け加えた。
「私たちは、情報を秘匿しながら道を選ぶだけの準備がある。ツムギ、君が“守りたい”と思ったなら、それに応えるのが創舎の仲間というものだ」
ツムギは、小さく息を呑み、それから、ぽての丸い体をそっと見下ろした。
「ぽへ……(よかったね、ツムギ)」
ツムギは微笑み、力強く頷いた。
「じゃあ次は私!」
元気よく手を挙げたナギが、テーブルの脇に置いていた大きめの布包みをさっと取り出した。
「コレクションケース、実はもうできてまーす!」
包みをほどくと、中から現れたのは、温かみのある木製のボックス。蓋にはアタッチメントが装着できる構造が施されており、中は美しく区切られた空間が広がっていた。
「エドとジンに相談して、仕切りを動かせるようにしたんだ。んで、仕切りの大きさに合わせて、大・中・小の上質な生地でカバーをかけたミストスライムウールのクッションも用意したよ。これ、追加で購入できるようにすれば、自分好みにカスタムできるし、毎月のPOTENコレクション発表に合わせて限定カラーとか出せば、継続的に売れるんじゃないかなーって!」
イリアとリナが、顔を見合わせて「……すごい」と同時に声を上げる。
「ナギ、それ、ほんとにいいわ。商売人じゃないのに、コレクター心理までわかってる……!」
「クッションで世界観つくれるんもええなぁ。完全に“集めたくなる仕掛け”になってるやん」
ナギは嬉しそうに胸を張った。
「えっへん! 一応ホビーナの看板娘ですから〜!」
そして少し照れたように笑いながら、ぽつりと本音をこぼす。
「……私も、毎月ツムギと合作したかったんだよね。これなら、毎月“どんなテーマにする?”って一緒に相談できるでしょ?」
「もー、ナギったら……!」
ツムギは顔をほころばせながらも、くすぐったそうに笑っていた。
「それとね、バザールでも《守り石》入りのお守り袋を販売しようと思ってて!」
ナギがぱっと顔を上げる。
「前に断念した“ぽて型”も復活させたいし、大人も使いやすいように革素材のものも作るつもり。もちろん、パッチワークタイプも定番で並べるよ!」
その言葉に、イリアがすぐに反応する。
「それ、絶対に売れるわ。あのお守り袋、話題になっていたもの。あのとき手に入らなかった人たちが、こぞって買いに来るんじゃないかしら」
「うん。販売して欲しいっていう要望もけっこう来てたしな」
リナも頷きながらメモを取る。
エリアスも、手元の資料に目を落としながら静かに言った。
「……即完売の可能性が高いね。数量や価格は、しっかり調整しておこう」
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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