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118. 据え置き型の魔導通信機

 作業場に、緊張の静けさが満ちる。


 完成したばかりの“据え置き型・魔導通信機”が、中央の机にそっと置かれた。琥珀色に輝く本体の中で、金属プレートと宝石のような魔石が美しく封じられている。淡い光を反射しながら、まるで意志を宿しているかのようだった。


 「よし……せーので、いこうか」


 エリアスの静かな声に、全員が頷いた。


 「せーのっ!」


 ツムギ、エド、ジン、ナギ、リナ、ハル、ぽて、そしてイリアとエリアス——

 POTENの仲間たちが、それぞれの魔導通信機をいっせいに据え置き型に触れさせる。


 瞬間——


 ふわりと風が抜けたような感覚が、全員の指先を撫でた。


 「……っ!」


 据え置き型の魔導通信機が淡く光り、内部の魔石がゆっくりと脈打つように明滅する。


 「この感じ……!」


 誰もが、その感覚を知っていた。

 “繋がった”——。

 それは、確かな手応えだった。


 「——成功だ!!」


 歓喜とともにエドが叫ぶ。


 据え置き型が、ピカピカと明るく瞬き、応答のサインを返す。


 「ぽへぇっ!!(やったあぁあ!!)」


 ハルが待ちきれず、すぐさま通信機にタッチ。


 ━━ 《成功だ!!》


 彼の声が、作業場にそのまま響き渡った。


 「やったー!!」

 「完璧!完璧すぎる!!」

 「すっご……!え、これほんとに、あの“琥珀色の晶樹液しょうじゅえき”から作ったの!?」


 わあっと歓声が上がり、拍手と笑い声が広がる。

 イリアも口元に手を添えて微笑みながら、ツムギに向けて静かにうなずいた。


 据え置き型・魔導通信機——

 その中心には、POTENの仲間たちの技術と想いが、しっかりと封じ込められていた。


 その後、エドがちょうど良い板材を選び出し、作業場の隅に据え置き型の魔導通信機専用の台を組み立て始めた。その横では、ナギが手際よくメモ帳の表紙に布を貼りつけ、POTEN連絡帳を仕立てている。


 一方、作業場の奥では、イリア、ジン、エリアス、リナ、そしてバルドが、少し離れて声を潜めながら集まっていた。


 バルドは深く腕を組み、ゆっくりとした口調で言った。


 「……これは、危うすぎるぞ。本来、未発現魔導結晶は、極めて稀少な魔導結晶じゃ。特性も不明、扱いも困難。うかつに情報を出せば、ツムギどころか、ハルの身にも危険が及ぶかもしれん」


 イリアが静かに頷いた。

 「そうね。今回起きた事は、創舎の中に留めておくべきだわ。あの琥珀色の晶樹液……入手経路も用途も、入手した事も、すべて秘匿しないといけない。これが表に出たら、あの子たちだけでなく、POTEN全体が狙われかねないもの」


 リナがやや険しい顔つきで言葉を継いだ。

 「実際、前のお守り袋のときも、貴族筋がちょっかいかけてきてたしなぁ。これ以上、目立つとほんまに面倒なことになるで。ウチらがちゃんと壁にならな、ハルやツムギに色々背負わせることになる」


 ジンは小さく唸るように頷きながら、ぽつりと呟いた。

 「ハルが“取ってきただけ”で使用方法がわからなければまだ良かったが、あれが“未発現魔導結晶の元”と知れたら、もう収拾がつかん。外部には、無かった事にしておくのが妥当だな」


 「……ええ。登録も避けましょう」

 エリアスが帳簿の片隅に小さくメモを取りながら、落ち着いた声で続けた。

 「箝口令かんこうれいを出そう。それと、ハルの森への立ち入りは、今後しばらく記録にも残さない方がいい。こちらで管理しておきます」


 ひととおり話が落ち着いたところで、エリアスがそっと帳簿を閉じ、姿勢を正す。


 「……では、会議を再開しようか。今の件について、全員に共有しておく」


 静かな声だったが、その響きは場にいた全員の背筋を正すのに十分だった。


 「今、私たちが手にしたものは、非常に扱いの難しい“可能性”だ。未発現魔導結晶——その名が広まれば、想像以上の波紋を呼ぶだろう。だからこそ、これは創舎の中だけで扱い、外部には一切出さない。関わったことも、使ったことも、口外は厳禁だ」


 全員の視線が、自然とエリアスに集まる。


 「もし、どうしてもこれを使わねばならない場面があっても、“それ”を使ったことを知られることのないよう注意してくれ。それが、“守る”ということでもあるからな」


 ツムギも、ハルも、ナギも、エドも——

 そして、ぽてまでもが、無言で真剣に頷いた。


 重たい空気がひととき場を包んでいたが、エリアスがふっと柔らかく笑った。


 「……まあ、そんなに気にすることじゃないさ。何かあっても、私たち“経営チーム”がなんとかする。それが私たちの役目だろ?」


 そう言って肩をすくめるように笑う彼の言葉に、場の空気がふわりとほぐれていく。


 「さて。じゃあ次は——イリア商会への今月の納品、それからバザール出店に向けての商品の話をしようか」

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

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