117. 未発現の魔導結晶の正体
「なんか、これ……どこかで見たことある気がするんだよね……」
ハルがじっと、硬化した琥珀色の塊を見つめながらぽつりと呟いた。
その横でぽても、「ぽぺ……(なんか、見覚えある……)」と首をかしげている。
ツムギは驚いたように目を見開いた。
「……あっ、ハルくん、それって……」
脳裏にふわりと浮かんだのは、あのバザールのくじで手に入れた《ハズレ召喚石》——
ツムギたちが使っている、残り少なくなってしまった“魔導通信機”の大切な材料だ。
「……これ、《ハズレ召喚石》に、そっくり……!」
「やっぱり!? 僕もそう思った!」
ハルがぱっと顔を輝かせた。
ツムギは慌ててノートを開き、以前書き留めた召喚石のスケッチを確認した。
色、質感、光の反射の仕方まで——比べれば比べるほど、この新しい透輝液の塊は、それに酷似していた。
「……やっぱり似てる」
ツムギは机の引き出しを開け、手持ちの《ハズレ召喚石》を一つ取り出す。
掌に乗せた琥珀色の結晶と、新しい透輝液の塊を並べてみると——驚くほど、そっくりだった。
「でも……この液体、透輝液と同じように作ったはずなのに、どうして……?」
「ぽてぇ……(なんか、秘密がありそうだよね……)」
ツムギは、ふたつの塊を見比べながら、小さく息を呑む。
そして改めて、透輝液の方をそっと光にかざした。
その中に微かに揺らめく光の粒が、まるで何かの“兆し”のように見えてならなかった。
「……こりゃ、そっくりすぎるな」
バルドが眉をひそめながら、透輝液の塊とハズレ召喚石を交互に見比べる。
「密度も質感も、光の通り方も、限りなく近い。だけど、これは……“別の何か”の可能性もある」
ジンが真剣な表情で小さく呟くと、エドも頷いた。
「ハズレ召喚石って、もともと“未発現の魔導結晶”って呼ばれてるんだよね?」
ナギが慎重な口調で続ける。
「持ち主の魔力で特性が変わるっていう話……もしツムギの創術で何かが目覚めたら、“未発現”で間違いないってことになるかも」
その言葉に、ハルも真剣な顔で頷いた。
「じゃあ……やっぱり試してみるしかないね!」
ツムギも、小さく笑って頷いた。
「うん。まずは、この素材で魔導通信機が作れるか試してみよう。透輝液とは違う、新しい“何か”かもしれないしね」
「でも……今って、みんな魔導通信機持ってるし、もう作る人いないんじゃないかな……?」
ツムギが首を傾げると、エリアスが静かに手を挙げる。
「それなら——POTENハウスの作業場に一台、据え置き型を置くのはどうだろう?」
「それ、いい!」
ナギが勢いよく身を乗り出す。
「今までは、何か伝えたいことがあると、みんなにいちいち連絡してたけど……
急ぎじゃない伝言はそこに送っておけばいいじゃん。今日は帰らないとか、生きてるよーとか。聞いた人は、横にメモ帳置いといて書き残しておくの。帰ってきた人が確認すれば、だいたいのことはわかるし!」
「特に……ハルの生存確認は、毎日したいしのう」
バルドがしみじみと呟く。
「それは確かに」
ジンも小さく頷き、ぽても「ぽてぇ……(確認、だいじ……)」としんみりしていた。
「みんな……ほんと、過保護なんだからー!」
ハルはむくれたように唇を尖らせながらも、その頬はほんのり嬉しそうにゆるんでいた。
「じゃあ、ささっと作ってみるね!」
ツムギが腕まくりをしながら材料を並べはじめると、POTENハウスの作業場に、いつものわくわくした空気が広がっていった。
琥珀色の晶樹液に月影石の粉を混ぜ、たっぷりと型に流し込み、固め、まずは下地をつくっていく。
「お父さん、エド、プレートをお願い!」
「おう、まかせとけ」
「この厚みでいけるね」
ジンとエドが手早く削り出したPOTENの文字の金属プレートと、宝石のように磨かれた魔石たち。それらをツムギが絶妙なバランスで配置していく。その上から透明な透輝液を再度丁寧に流し込み、
「ぽて、ハルくん、気泡よろしく!」
「ぽへっ!(任せて!)」
「いくよー!」
ぽてが魔導風で細かい気泡を外へ押し出し、ハルもその風に魔力を乗せて補助する。浮かび上がった気泡が、するりと液の表面から消えていく。
最後に、属性発光器を当てて——
ふわりと、淡い光が全体を包み込む。
透き通った層の中に、琥珀色の光と金属、宝石が美しく封じられた“POTEN特製・魔導通信台”は、小一時間で完成を迎えた。
まるでそれは、宝物のように、静かにその場に輝いていた。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
https://ncode.syosetu.com/N0693KH/