116. ものづくり定例会議
朝の光が差し込むPOTENハウスのリビング。
大きなテーブルには、バルドが用意した焼き菓子と紅茶が並べられ、あたたかな香りが部屋いっぱいに広がっていた。
「よし、揃ったな。では、今月のものづくり定例会議を始めようか」
エリアスが帳簿を広げ、周囲を見渡す。
ツムギ、ナギ、エド、ハル、ぽて。ジンやリナ、そしてイリアも席に着き、各々の飲み物を手に会議の始まりを待っていた。
「まずは先月の売上報告からだ。イリア商会への月オーダー、それに職人ギルドへの《守り石》の納品。その他の個別オーダーも、いずれも好評のうちに完了している。特にお守り袋は、追加注文の問い合わせも来ているようだ」
手元の紙をめくりながら、エリアスはいつもの落ち着いた調子で続ける。
「今月は、《魔法陣モールド》と《魔石スライスマシーン》の商標登録が進む見込みだ。長期的に見れば、これらは収益の柱になりうるだろう。材料についても、ハルがよく集めてくれているおかげで、外部から買い足す量は最小限で済みそうだ」
そして、帳簿から視線を上げる。
「今回の議題はふたつ。ひとつは、イリア商会への月オーダー。もうひとつは……そろそろバザール出店もいいんじゃないかと思うんだが、ツムギ、どうかな?」
その問いに、ツムギはぱっと顔を輝かせた。
「はいっ、ぜひやりましょう! 直接反応をもらえる機会を作って、もっといろんな人にPOTENを知ってもらいたくて……!」
「……ふふ。想定通りの反応やな」
リナがくすっと笑いながら、紅茶をひと口すする。
「じゃあ、その方向で今月は進めていこう」
エリアスが帳簿を閉じ、周囲を見渡す。
「他に、何か伝えておくことがある人は?」
「はいっ!」
ハルが元気よく手を挙げると、全員の視線が集まった。
「透輝液の元となる晶樹液を採りにいったら、あの不思議な木がね……なんか、いつもと違う液を出してくれたんだ」
そう言って、ポシェットからガラス瓶を取り出す。中には、淡く琥珀色に輝く液体がたっぷりと収められていた。
「透明じゃなくて、こう……キラキラしてて。まるで光が混ざってるみたいだった」
ハルは慎重にもうひとつのガラス瓶も取り出す。こちらには、いつもの透明な晶樹液が入っている。
「普通のもちゃんと出してくれたけど……この琥珀色のは初めてで。どうやって使うかはまだ分からないんだけど、とりあえずお礼を言って、もらってきたんだ」
ぽてが「ぽへぇ……(あの木、やっぱりただものじゃない……)」と神妙につぶやく。
ツムギも、少し驚いたようにハルのガラス瓶を覗き込んでから、頷いた。
「これ……ちゃんと硬化するのか、調べてみなきゃね。ハルくんありがとう。すごく貴重なものかもしれない」
その言葉を合図にしたかのように、ものづくりチームの目が一斉にきらりと光った。
「じゃあ、試してみよう!」
エドが身を乗り出し、早速作業台に道具を広げ始める。
「属性発光器、準備してあるぞ。光の強さを調整しながら試したほうがいいだろう?」
ジンも手慣れた様子で引き出しから装置を取り出す。
「容器はどうする? 試験用の小皿でいいかな。普通の透輝液と比べるのも忘れないでね!」
ナギが布の陰から顔を出し、すでにメモ帳を片手にスタンバイ。
「ぽぺっ!(気泡抜き、まかせて!)」
ぽてがぴょこんと跳ねて、作業台の端に飛び乗る。
「じゃあ、ぼくも混ぜるの手伝うよ!」
ハルも腕まくりをして、隣に立つ。
「あ、ちょっと待って、ノートに記録取るから……えっと、液の色は“琥珀色で微細な金色の粒子が浮遊”……うん、すごく綺麗……!」
ツムギは興奮を抑えきれず、走り書きでノートに観察結果を書き込みながら、みんなの準備の様子を嬉しそうに見渡した。
ツムギはガラス瓶のふちに手をかけ、透き通るような琥珀色の液体をそっとひとすくい、試作用の小皿に移した。
「……じゃあ、少しだけ月影石の粉を混ぜてみよう」
机の上には、あらかじめ用意してあった微細な月影石の粉末。ツムギがそれをひとつまみ、液体に加え、ガラス棒でゆっくりと混ぜていく。
すると、琥珀色の液体がほんのりと輝き出し、粒子が光を反射して、キラキラと揺れた。
「うわ……きれい……」
ハルがぽつりと呟き、ぽても「ぽぺぇ……」と見惚れるように液体に目を奪われる。
「属性発光器、準備できてるよ」
エドが声をかけ、光属性に設定された発光器のスイッチを入れる。
装置から放たれた柔らかな光が、液体の表面を照らした。
一瞬、何も起こらないように見えたが——
「……あっ!」
数秒後、液体の表面がぷるりと震えたかと思うと、じわじわと光を吸い込むように変化し始めた。
やがて表面が少しずつ硬くなり、ツヤのある半透明の塊へと姿を変えていく。
「固まった……!」
ツムギが思わず声を上げ、エドとジンも顔を見合わせて頷いた。
「やはり、光属性の反応で硬化するか……透輝液に近い反応だな」
ツムギはそっとそれを指先でつつき、弾力や温度を確かめる。
「質感も近いけど……色が全然違う。あと、ちょっと密度が高い感じ……」
固まった塊は、透輝液よりもやや重く、表面にはどこか宝石のような輝きが宿っていた。
POTENハウスの作業場に、活気とわくわくが広がっていく。
未知の素材に触れるたびに高まっていく探究心。
——これがいつもの、“ものづくり”という魔法の始まりなのだ。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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