表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/136

113. お守り袋の完成

 それからの日々は、まるで時間が加速したようだった。

 それぞれが、夢中で“ものづくり”に向き合い、目の前の作業に没頭していった。


 エドとジンは早速、魔石のスライスに取りかかる。

 火属性の刃をもつスライス機は絶好調で、割れやすいはずの魔石も次々と綺麗にカットされ、必要な数の守り石の“芯”が、確実に形になっていく。


 一方で、ぽてとバルド、そしてツムギとハルは、並んで透輝液の魔法陣パーツを丁寧に作り続けた。

 透明な液体に小さな魔法陣が形づくられていくたび、ぽてが気泡を抜き、ハルの風魔法で小さな気泡も整えられ、仕上げはツムギの細やかな手で固められていく。

 「よし、今日のもいい感じ……!」

 そんな声があちこちで響く、穏やかな活気に満ちた作業場だった。


 ナギのお守り袋も、改良が重ねられていた。

 中心に透ける防水布を集め、柄や質感を絶妙に組み合わせたパッチワーク。袋の中に守り石をそっと入れると、布越しに淡く光る魔法陣がふわりと浮かび上がる。


 まるで、ちいさな魔法の世界をそのまま閉じ込めたような——

 どこか物語の中から飛び出してきたかのような、美しくて心躍る仕上がりだった。


 ものづくりチームが日々、守り石の仕上げや袋の縫製に汗を流していたその裏で——

 イリア、エリアス、リナの経営チームは、“売るため”の準備に追われていた。


 新たに完成した「魔石スライスマシーン」や「魔法陣モールド」は、これまでにない技術だ。

 商標登録の準備をはじめ、職人ギルドや登録管理局との調整、素材流通の申請など、やるべきことは山ほどある。


 「特許もそうだけど、これはもう“流通管理”の問題にも関わってくるわね」

 イリアは資料をめくりながら、淡々と処理を進める。


 「……正式登録を通すには、細部の設計書も必要になる。エドには明日、また細かいヒアリングをお願いするか」

 エリアスは書類を重ねる横で、静かに次の行動を思案していた。


 「うち、こういうの嫌いやないけど、量がえぐいな……。さすがに紅茶だけじゃ頭回らへんわ」

 リナは片手に甘い菓子をつまみながら、見慣れぬ書類の山に挑んでいた。


 その忙しさは、ある意味、職人チームを上回っていたかもしれない。

 POTENの新しい“看板商品”を世に出すための、静かなる戦いが、裏では進行していたのだった。


 それぞれの作業は着実に進み、仕上がった守り石とお守り袋は、次第に数を増していった。

 ツムギは、完成したひとつをそっと手に取り、布越しに光る魔法陣を見つめる。


 ——きっと、誰かの“守り”になる。


 そんな確信が、胸の奥でじんわりと広がっていった。


 その様子を、ふと見守っていたリナがつぶやく。

 「……めっちゃ綺麗やな、これ……」


 思わずぽてがぴょこりと飛び跳ねる。

 「ぽへ!(でしょー!)」


 ナギも隣で袋の縫い目を確認しながら、ふふっと笑う。

 「最初は予算の壁しか見えなかったけど、なんか、ちゃんと“届けたいもの”になった気がするね」


 ジンは出来上がった守り石を手に取り、光をかざして眺める。


「ほう……こりゃあ、もう工芸品みたいなもんだな」


 「ほんと美しいですよね。……って、見惚れてる場合じゃないですよ。ジンさん」


 エドが冗談めかして言いながら、残りの材料のチェックを始める。


 ——それから数日が過ぎた。


 創舎では、朝から晩まで“守り石”と“お守り袋”の制作が続けられ、POTENハウスはまるで小さな工房のように活気づいていた。

 日ごとに出来上がるパーツや袋が並び、仲間たちの動きは手慣れたものになっていく。


 *****


 そして、納期まで残り一週間となったある日。

 全員が揃い、最終確認のための打ち合わせが開かれた。


 エリアスが帳簿を確認しながら、静かに口を開く。


 「さて……これで準備が整った。いよいよ、納品だな」


並べられた完成品を前に、メンバーたちは思わず息をのんだ。


 透明感のある“守り石”は、透輝液のパーツがしっかりと魔石に馴染み、淡く光を宿している。

 色とりどりのお守り袋は、どれも丁寧に仕立てられていて、中心に透けた防水布が組み込まれたナギのデザインが、魔法陣の輝きを優しく包み込んでいた。


 「ナギの袋、めっちゃかわいいし、守り石との組み合わせもばっちりやなあ。これは絶対、子どもたち喜ぶわ」

 リナがひとつひとつ袋を手に取りながら言うと、ナギは嬉しそうに微笑んだ。


 「エドのスライスも完璧だったよ。あれがなかったら、こんな綺麗な守り石にはならなかった」

 ツムギがそっと声をかけると、エドは少し照れたように頷く。


 「パーツも気泡ひとつなく、よう仕上がっとる。ぽて、ハル、ようやったのう。感謝しとるぞ」

 バルドがふたりに向かって大きく頷けば、


 「ぽへー!(おまかせあれ!)」

 「へへっ、任務完了!」


 そんなやりとりの中、ツムギがふと視線を向けた。


 「それと、エリアスさん、リナさん、イリアさん……本当にありがとうございます。みんながものを作ることに集中できたのは、経営チームが支えてくれたからです」


 「うんうん。納品の準備とか契約のこととか、私にはさっぱりだったし……ほんと助かったよ、ありがとね!」

 ナギも素直に礼を述べる。


 リナは照れくさそうに肩をすくめたが、エリアスは帳簿を閉じながら、静かに口を開いた。


 「こちらこそ感謝している。……とはいえ、我々の仕事はここからが本番だな。まずは納品して、きちんと価値を伝える。作られたものの力が最大限に届くように——」


 イリアがふっと微笑み、ぽてが「ぽへー(がんばれー)」とひと声あげると、場がふわりとあたたかい空気に包まれた。

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

https://ncode.syosetu.com/N0693KH/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ