111. ナギのお守り袋
「えーっと……じゃあ、説明するね!」
ナギはホビーナから持ち帰った布製のケースを開く。中には色とりどりの小さな袋が、所狭しと詰め込まれていた。
「これ、全部お守り袋なんだけど、一個として同じ柄はないよ。透けてるのとか、不透明のとか、柄入りのとか。防水布を組み合わせて、パッチワークにしてみたんだ」
ぱっと見はランダムに見える布合わせ。でも、どれもどこか“あたたかみ”がある色で統一されており、POTENらしい優しさが漂っている。
「まず、防水布ってところがポイント。ツムギが最初に言ってたってのもあるけど、わたしも“そうしたい”って思ったから」
「うん……ナギらしいなぁ」
ツムギは嬉しそうに微笑み、ぽては袋の布をつんつんしている。
「でね? やっぱPOTENといえば“ぽて”でしょ!? だから、はじめはこういうの作ったんだ!」
そう言って取り出したのは、ぽてそっくりの丸っこいお守り袋。布で形を整え、ボタンで顔も再現されている。まるでぬいぐるみのように愛らしいそれに、場がどっと沸く。
「これ……普通に欲しい……」
ツムギがぽそりと呟き、
「絶対これ欲しい!!」
ハルは拳を握りしめ、ぽてを見比べながら目を輝かせた。
「でしょ!? でもさぁ……防水布って、結構高いんだよね。しかも、この形はちょっと手間かかりすぎちゃって……。予算とか、時間とか、いろいろ考えると現実的じゃないなって思って」
ナギはえへへ、と頭をかきながら、もう一度パッチワークのお守り袋を手に取る。
「だから、こっちにしたの! 防水布の端切れって、ホビーナにいっぱいあって、ほぼタダみたいな値段で手に入るの! 直線縫いだし、じゃんじゃん作れるし、何よりさ!」
ナギはひとつの袋を持ち上げ、ぽての横に並べる。
「これ、ぽてのパッチワークに……ちょっと似てない!? 色とか、配置とかさ!!」
全員の視線が、ぽてへと注がれる。
「ぽ、ぽへぇ……(お、おう……)」
ぽては予想外の主張にたじろぎつつ、ナギと袋を交互に見比べていた。
「ぽてに似てるかどうかは……まあ、置いとくとして」
エリアスが少し困ったように咳払いをしてから、袋を一つ手に取る。
「守り石、試しに入れてみようか? サイズ感の確認もしておきたいしな」
「おっけー! 入れてみるね!」
ナギが手早く、完成済みの魔石入り護符を一つ取り出して、お守り袋にそっと差し込む。するりと収まり、形も崩れずにすっぽりと収まった。
「ぴったりじゃん! ふふっ、もしかして、これで完成?!」
その言葉に、周囲からも小さな歓声があがる中、リナがぽつりと呟く。
「なあ、ナギ。これさ、袋の真ん中のあたりに、透ける防水布集めてみたらどう? 中の守り石、見えるやん? あれって魔法陣光ったりするんやろ? きらきらして綺麗やと思うで?」
「……それ、いい!!」
ナギの目がぱっと輝く。食い気味に身を乗り出し、袋を手に取りながらブツブツと改良のイメージを口にし始めた。
「子どもって光るの好きだよね? ほら、魔導ランタンとかの色変わるやつとか、バザールでめっちゃ売れてたし……表の真ん中に、透ける防水布集めてみる! 布選び、ちょっと楽しくなってきたかも……!」
ぽては袋と守り石を交互に眺めながら、「ぽへぇ……!(また凝り始めた……)」と小さく呟いた。
(防水布、ちゃんと使ってるし……しかも節約のためのハギレが、なぜか逆にめちゃくちゃ可愛くなってる……)
ツムギは、生地しか見えていないナギの真剣な横顔を見ながら、そっと息をのんだ。
(あの目は……生地の声が聞こえてる目だ……こわい……そのうち布の精霊と契約しそう……いや、布の精霊っているのかな……?)
とにかく、どう見てもただの節約から生まれたとは思えないその完成度とセンスに軽く震えつつ、ツムギは密かに誓う。
(ぽて型のお守り袋……これは、戦わずして勝ち取る所存……!)
——という決意を固めていると、隣でエリアスがさりげなく咳払いをした。気がつけば、すでにメモ帳と万年筆を手にしている。
「……では、今回の進捗と方針をまとめておこうか」
エリアスが帳面をめくりながら視線を上げた。
「守り石はツムギの魔法陣パーツを透輝液で制作、魔石はノーマルのスライスで。お守り袋はナギの防水パッチワークで対応、デザインは真ん中に透明な生地を寄せる形で。あとは全体の予算バランスと納期に注意しつつ、各自作業を続けていこう。次の確認日は納期一週間前で。異論は?」
一同が首を横に振る。
「じゃあ、解散!」
心地よい達成感と笑い声がリビングに広がった、ちょうどその時だった。
「おうおう、おぬしたち、よく働いたのう。ひと休みじゃ」
バルドがキッチンから現れ、大きなトレイを運んでくる。上には湯気の立つ紅茶と、焼きたてのスコーン、そして鮮やかな色のフルーツが小皿に盛られていた。
「今日はクリームをたっぷりのせてみたぞ。よかったらおかわりもあるからの」
「あっ、やった!」
「めっちゃ美味しそう!」
「ぽへぇっ!(最高のごほうび!)」
和やかな空気の中、POTENハウスにはふたたび、穏やかな笑いと紅茶の香りが広がっていった——。
ふとカップを置き、イリアが皆の方に顔を向ける。
「……みんな、ちょっと相談したいことがあるの」
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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⚫︎ハルの素材収集冒険記・序章 出会いの工房
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