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109. 魔石に願いを込めて

 翌朝、POTENハウスの作業場では、澄んだ朝の光とともに、新たな試みが静かに始まっていた。

 昨日仕込んだ透輝液とうきえきのモールドは、しっかりと硬化しており、ツムギは慎重に型から取り出す。表面はなめらかで、魔法陣の細かな溝もしっかりと浮かび上がっていた。


 「うん、いい感じ……!」


 隣の作業台では、ジンとエドがハルの採取してきた魔石を、手際よくスライスしていた。火属性の魔石で刃を高温に保ち、厚さを調整しながらひとつひとつ丁寧に形を整えていく。


 「ツムギ、いくつか仕上がったら見せてくれ。こっちで調整もしてみるから、試作品が欲しい」

 エドが手を止め、声をかけてくる。


 「うん! ぽて、やるよ!」


 「ぽへっ!(おっけー!)」


 張り切ってツムギは、完成したモールドに透輝液を流し込む。今回使うのは、透明度の高い基本のタイプ。細かな線が多いモールドだからこそ、気泡をしっかり抜く必要がある。


 「ぽて、お願い!」


 「ぽてぇぇ……(お任せあれ〜)」


 ぽてがふわっと浮き上がり、軽く魔力を送ると、不思議とぷつぷつと気泡が抜けていく。


 「うん、バッチリ!」


 属性発光器を当てると、みるみるうちに透輝液が固まり、美しい透明の魔法陣パーツが姿を現した。ツムギはそっとそれを手に取り、魔力を通してみる。


 ——すっ……


 細い線をなぞるように、魔力がスムーズに流れていく。光が淡く浮かび上がり、試作とは思えないほどきれいに魔法陣が発動した。


 「よしっ……! これならいける……!」


 小さくガッツポーズを決めるツムギ。その頬には、ほんの少し誇らしげな笑みが浮かんでいた。


 「できたよ、一個目!」


 ツムギが完成した魔法陣パーツを手に、エドとジンの元へ駆け寄った。

 エドが受け取り、スライスされた魔石のひとつを取り出すと、そっと重ね合わせてみる。


 「……ぴったりだ。サイズ、完璧」


 嬉しそうに小さく頷いたエドは、そのまま手を止めずに続けた。


 「じゃあ、接着してみようか」


 ツムギは頷き、透輝液を少量取り出して、慎重にパーツと魔石の間に塗布していく。

 そっと指先で位置を合わせ、ピタリと貼り合わせ属性発光器をあてた。


 その瞬間——


 ふわり、と優しい光が魔法陣から広がる。

 控えめながらも確かな輝き。それは、魔法陣が正しく発動した証だった。


 「……ついた。成功だね!」


 ツムギの声に、エドもジンも「おおっ」と息を漏らす。

 バルドが作業の手を止めて駆け寄り、子どものように目を丸くする。


 「おおお、なんと……! これは実に見事じゃ! 2人ともよくやったな!」


 「魔力の保持期間は、まだわからないけど……もし光が弱くなっても、属性発光器で“充電”すれば、また使えるようになると思うの」


 そう説明しながら、ツムギは魔法陣を覗き込む。

 それはただのお守りではなく、“繰り返し使えちゃんと効果もある護符”という新しい価値を持った品だった。


 「先生にも見せてくるね!」


 そう言ってツムギは魔導裁縫箱まどうさいほうばこの前へ向かい、ふたを開けて魔法陣パーツをそっと差し出す。


 すると、蓋の表面に柔らかな文字が浮かび上がった。


 『よくできたね、ツムギ。見事な仕上がりだよ』


 「へへっ、ありがとうございます、先生!」


 ぽてはツムギの肩で、「ぽへー!(すごい!)」と嬉しそうに飛び跳ねていた。


 試作品が無事成功し、POTENハウスの作業場にはささやかな喜びの空気が流れていた。


 「じゃあ……いよいよ量産体制、だね!」


 ツムギがそう口にすると、エドとジンも頷き、リビングに並べられたハルのとってきてくれた魔石たちに視線を向けた。

 色とりどりの魔石が、きらきらと朝の光を反射して輝いている。


 「これを活かして、色付きのパターンも試してみよう。染料、いくつかあったな」


 透輝液に微量の染料を混ぜ、淡く色を帯びた液体を丁寧にモールドに流し込む。

 ツムギの手元には、青、桃、緑、琥珀色と様々なバリエーションが次々に並んでいった。


 その頃、バルドも様子を見にやってきて、袖をたくし上げながら言った。


 「わしも手伝おう。こういう細かい作業、案外好きでな」


 黙々と丁寧な手つきで透輝液を扱うバルドの姿に、ツムギは思わず笑ってしまう。

 「バルド先生、私より器用じゃないですか!」

 「そうか?ツムギも、なかなかなものじゃよ」


 どこか誇らしげな声に、ツムギの胸がふわりと温かくなる。

 ほんの少しだけ、孫の成長を見守る祖父のような空気が、ふたりの間に漂っていた。


 そこへ、ぱたぱたと足音が響く。


 「ただいまー!」


 元気な声とともに学院から帰ってきたハルが、扉を開けて作業場を覗くと、ぽてがすぐにすっ飛んできてまとわりつく。

 「ぽへぇぇ!(ハルー!まってたよー!)」

 「うわっ、ぽて、近いってば!」


 けれど、すぐにハルは作業の様子を見て目を輝かせた。


 「早速魔法陣のパーツ作ってるんだね。僕も何かできることある?」


 ツムギが「もちろん!」と頷くと、

 ぽてはぷるぷると身体を揺らして気泡抜きを始める。

 「ぽてぇ!(ぷちぷち抜くのは任せて!)」


 それを見ていたハルが、ふと思いついたように呟く。


 「もしかして、それ風魔法でもできるかも……?」


 手のひらをそっとかざし、ぽての動きを真似るように魔力を流してみると、

 液体の表面にあった小さな気泡が、ふわりと浮かび上がって弾けた。


 「できた……! ぽて、見て!」


 「ぽへぇ!(おおーっ!?)」


  ぽてが感心したように、つぶらな瞳でじっと見上げると、ハルは少し照れくさそうに笑った。

 その後は、ふたりで仲良く並んで気泡抜きに集中し、楽しげに息を合わせていく。

 おかげで、思っていたよりずっと早く、色とりどりのパーツが仕上がっていった。


 ひと段落してふと視線を上げると、作業台の向こう側でジンとエドが何やら黙々と作業していた。

 どうやら魔石のスライスだけでは飽き足らず、今度はその側面を丁寧に削っているようだ。


 「……あれって、もしかしてエメラルドカット……?」


 目を丸くするツムギの前に、ジンが笑顔で魔石を掲げてきた。


 「見てくれよ。 ちょっと見栄え、よくなっただろ?」

 「お父さん、それもう魔石じゃなくて……宝石だよ……!」


 ツムギが呆れ混じりに言うと、ぽてが「ぽへぇ……(きらきらだぁ……)」と目を輝かせて魔石に見入った。


 せっかくなので、透輝液の魔法陣パーツを取りつけてみると——淡く光る魔法陣が、美しく輝く魔石の中に浮かび上がった。


 「わあ……これ、守り石っていうよりもはや宝飾品だね。小さめだったら、つけて歩きたいくらい……」


 「なら、次はアタッチメントにぴったりはまる設計にしてみようか?

 この角度……この厚みなら、いけるはず……!」


 と、エドはすでに新しい設計図をノートに描き始めている。早口になっているあたり、もう楽しくて仕方がない様子だった。


 色とりどりの魔法陣パーツが、仲間たちの手で少しずつ作られていく——

それはまるで、小さな願いをひとつひとつ護符に込めて、形にしていくような、あたたかく楽しい時間だった。——

明日も23時時ごろまでに1話投稿します


同じ世界のお話です


⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜

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⚫︎ハルの素材収集冒険記・序章 出会いの工房

https://ncode.syosetu.com/N4259KI/

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