103. お守り袋の作戦会議
4月13日の投稿です
「ただいまーっ! 面白い依頼、受けてきたよー!」
玄関の扉が開き、ツムギの元気な声が響いた。ぽても「ぽへーっ!」と跳ねながら続く。
キッチンで野菜の皮を剥いていたバルドが顔を上げ、「おかえり」と穏やかに頷く。
「さて、みなさん」
その後ろから入ってきたエリアスが、静かに声を上げる。
「会議を開きたい。手が空いている人は、リビングに集まってくれると助かる」
その声に、工房や素材庫、奥の作業部屋から続々と足音が響く。
リビングの大きなテーブルのまわりに、一人、また一人とPOTENの仲間たちが集まってきた。
ナギが「おかえり、どうだった?」と笑いながらクッションをぽんと投げ、エドは手の油を拭きつつ目を輝かせている。
ハルも椅子に座りながら「会議って……なんだかちょっと、大人みたいだね」と目を輝かせていた。
テーブルの上には、バルドが淹れてくれた紅茶と、焼きたてのクッキーが並べられていく。
全員が席に着き、ツムギがぽてを膝に乗せて落ち着いたところで、エリアスが立ち上がった。
「では、今回受けてきた依頼について説明する。内容は、来月の祭りに向けて、子どもたちに配る“お守り袋”を百個制作するというものだ」
「お守り袋?」とエドが小さく首を傾げる。
「毎年、職人ギルドが主催して子どもたちに配っているそうだ。だが、ここ数年は代わり映えしないものばかりで、今年はちょっと違う“特別なもの”をお願いしたいとのことだった。材料費に5万ルク(ひとつ500ルク)、報酬が30万ルク。配布用の無料アイテムとしては、悪くない条件だと思う」
「まぁ……量産前提って考えれば、うまくやりくりできる範囲やな。ツムギが暴走しなければ」
「うっ……暴走しないとは言えないかも」
ツムギがきまずそうに笑いながら、早速スケッチ帳を開いた。
「お守り袋って、ただの袋じゃなくて、中に“護符”みたいなのを入れたらいいと思うんだ。例えば、小さくて平たい魔石に、創術で守りの魔法陣を描くとか。ハルくんのポシェットに入ってたみたいな、そういう“心のお守り”になるもの……」
「うわ、もう楽しそうな顔してる……」とナギが苦笑する。
「袋の外側も、もし防水の布で作ったら雨に濡れても平気になるし……それに子どもたちが持って嬉しくなるような、かわいいデザインもいいよね? ぽて型でもいいかも!」
「ぽへー!!(それ、いいと思う!)」
ぽてが胸を張って小さく跳ねた。
エリアスとリナは、楽しげに語るツムギを見て、同時にため息をついた。
「……いいものはできそうだが、やはり予算との戦いになりそうだな」
「せやけど、やりがいはありそうやな。……でもな……魔石って高いよなぁ」
リナがスケッチ帳をのぞき込みながら、ぽつりとつぶやいた。
「このサイズの魔石、普通に買ったら一つ600ルクはすると思う。小さめのクズ魔石でも300ルクはくだらんし、平たくて大きさを揃えるなんて難しいんちゃう?」
ツムギが手を止め、うーん……と眉をひそめる。
「そっか……魔石をメインに使う予定だったけど、それじゃ予算が……じゃあ魔石は諦めた方がいいのかな……」
そのとき、静かに様子を見ていたハルが、ふいに手を挙げた。
「じゃあ、僕がとってくるよ。お守り袋に使えそうな魔石!」
一同の視線が一斉にハルに向く。
「えっ、でも……大丈夫なん? 危なくない?」
ナギが不安げに身を乗り出す。
「うん。僕、もう冒険者になったし、町の外の安全な範囲ならひとりでも行けるよ。素材集めも、もう何度もやってるし!」
ツムギも心配そうに目を細めるが、ハルの真っ直ぐな瞳を見て、口をつぐむ。
「……無理はしない、って約束してくれる?」
「うん! 絶対に無理はしないよ!」
ハルは元気よく頷いた。
「ハルも頼もしくなったな……」
エリアスが静かに目を細め、ぽてが「ぽへ〜(がんばってね〜)」とハルの肩に乗る。
そのとき、エドがぽんっと手を打った。
「ハルが取ってきてくれた魔石、スライスして使うのはどうかな。表面を平らにして、魔法陣を描くスペースをとって、大きさも揃える。余裕があったら、周囲を宝石みたいにカットしたら、光に当たってキラキラするかも!」
「……魔石の加工は、難しいと聞いたが。強度の問題や割れもあるだろう?」
エリアスが冷静に問いかけると、エドはうんうんと頷いてから言った。
「うん、簡単ではないけど、ジンさんの工房に行って相談してみるよ。適した道具があるはずだし、試作すれば何とかなるかもしれない。それにこの技術をマスターできたら、POTENのアイテム作りの幅が広がると思うんだ」
もっともらしい事をエドは言ってはいるが、恐らく思いついたから、やりたくなってしまっただけだとツムギは察してしまった。……が、ここはものづくりの仲間としてそっと口を閉じることにした。
ぽてもその様子を察したのか、ぽふっと小さく跳ねながら、
「ぽてぇ……(ジン、また徹夜フラグ……)」
とぼそっとつぶやいた。
思わずクスリと笑いがこぼれる中、エドは「今回はちゃんと寝てもらうって決めてる」と指を立てて宣言してみせた。
「じゃあ、生地の方は私が見てみるよ。防水機能のある生地、いくつか候補があるから、使い勝手とか触り心地とか、色々試してみるね」
ナギはメモを取りながらリナの方を向く。
「リナ、だいたい生地に使える予算ってどれくらい?」
「そうやな……ハルくんが魔石を持ってきてくれて、エドがうまく加工できたら、生地には一個あたり150ルクくらいまでは出せそうやと思うわ」
「おっけー、それなら結構選べるかも!」
「よし、それぞれの役割が決まったな」
エリアスが静かにまとめに入ると、場の空気が引き締まる。
「ハルは魔石の採集、エドは加工。ナギは防水布の候補選定、ツムギは護符の構想。ものづくりチームは、それぞれ可能であれば試作も進めておいてくれ。リナは採算が取れるかを随時確認しながら、全体のバランスを見ていこう。進捗の確認は、まず一週間後。それまでに、それぞれできる範囲で準備を進めてほしい」
一通り言い終えると、エリアスはメモをまとめながら静かに頷いた。
「私は、今決まった内容を職人ギルドに伝えておくよ。報酬や素材の詳細についても確認しておく。何か変更があれば、すぐに知らせてほしい」
全員が小さく頷き、自然と会議はお開きとなった。
その時、バルドが手を腰に当て、にやりと口角を上げる。
「ツムギ。護符の魔法陣のことじゃが……必要であれば、魔導裁縫箱先生と、わしとおぬしの三人で作戦会議でも開くか?」
その言葉に、ツムギの瞳がぱっと輝いた。
「はいっ、ぜひお願いします!」
仲間と共に踏み出した新たな依頼。
それぞれが、自分のやるべきことへと向かっていく。
明日も23時時ごろまでに1話投稿します
同じ世界のお話です
⚫︎ 僕だけ戦う素材収集冒険記 〜集めた素材で仲間がトンデモ魔道具を作り出す話〜
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⚫︎ハルの素材収集冒険記・序章 出会いの工房
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