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099. 創舎の資金調達

少し遅れてしまいました。ごめんなさい。

 エリアスが書類を整えながら、冷静な口調で切り出した。

 「さて、本拠地と活動内容は決まった。次は資金の話をしよう。創舎の運営にはある程度の初期費用が必要だが……当面の資金については、国からの貸付を利用することもできるぞ」


 その言葉にツムギは少し考え込み、それからぱっと顔を上げた。

 「えっと……実は、透輝液やミストスライムウールのロイヤリティが、最近すごく入ってきてるんです。それで賄えないかな?」


 エリアスはツムギをじっと見つめ、静かに頷いた。

 「まあ、確かに。私が管理しているものだし、あの二つの商標権だけで、かなりの額が入っているのは知ってる。創舎の立ち上げ資金としては十分だな」


 だが、そこで一呼吸おいて問いかける。

 「しかし、それを全部使ってしまっていいのか? ツムギ個人の貯蓄として持っておいた方がいいとも思うが」


 ツムギは力強く首を横に振った。

 「もちろんです! そもそも、私には不相応な大金ですし……。せっかく得られたお金を、自分一人のために使うより、みんなと一緒にものづくりをするために使いたいんです!」


 ジンが穏やかに微笑みながら腕を組んだ。

 「もし足りなかったら、俺のアタッチメントのロイヤリティもあるぞ」


 その言葉に、ナギが勢いよく手を挙げた。

 「じゃあ私も! ミストスライムウールの共同名義のロイヤリティで、少しなら出せるよ!」


 「ぼ、僕も!透輝液のロイヤリティたくさん入ってるから、創舎の為に出すよ!」

 ハルが胸を張って言う。


 「私もや!」

 リナも笑いながら乗っかる。「ちょっとやけど、商人やし、そういう時の貯蓄はあるで!」


 「……じゃあ、僕も!」

 エドも負けじと言う。「今までのバザール出店で、多少の貯蓄はありますよ!」


 ぽてまで「ぽぺ!(ぼくも!)」と威勢よく叫んだ。


 ツムギはそんなみんなの気持ちに胸がいっぱいになり、自然と笑顔がこぼれる。


 「ありがとう、みんな……!」


 それを見守っていたバルドは、呆れたように笑いながら 、イリアと顔を見合わせた。

 「ははっ、おぬしら、本当にいいチームになりそうだのう」


 エリアスも満足そうに頷き、静かに言葉を締めくくった。

 「では、資金はツムギのロイヤリティを中心に、必要に応じて補助を加える形で進めよう。これで、創舎設立に向けた準備は整ったな」


 エリアスが時計を確認し、軽く息をついた。そして、皆を見渡しながら静かに言った。


 「では最後に——お互いの魔導通信機を接続させよう」


 その言葉に、一同は顔を見合わせた。今まで個々に繋がっていた魔導通信機が、ここで初めて「POTENの仲間」として結びつく。その瞬間を迎えることに、なんとも言えない高揚感が広がる。


 それぞれが自分の魔導通信機を手に取り、順番に触れ合わせていく。透輝液で作られたパーツがふわりと淡く輝き、魔力が交わるたびに優しい風が広がった。


 「おぉ……」

 ハルが目を輝かせながら、魔導通信機の光を見つめる。


 「これで、いつでも連絡が取れるってことだね!」

 ナギが楽しそうに笑い、リナも「せやな。なんか、POTENの仲間の証って感じがするわ」と、じんわりとした声を漏らす。


 「正式に繋がったんだな……!」

 エドも腕輪型の魔導通信機を見つめながら、感慨深げに呟く。


 その瞬間、それまでの真剣な雰囲気が少し和らぎ、空気が緩んだ。緊張感が解け、皆が自然と笑顔になっていく。


 「よし、早速試してみるか!」

 ハルがぽてに向かって通信を送り、ぽてが「ぽぺ!(ばっちり!)」と元気よく応える。


 それを見て、ナギが「ほんなら、これから秘密の作戦会議とかもできるな!」と冗談めかして言い、エドが「それ、楽しそうですね!」と乗っかる。


 イリアは涼しげな笑みを浮かべながらも、珍しくわずかに感情を滲ませた。「これから私たちの育てた子たちがどう羽ばたいていくのか、楽しみね」その声音には、まるで雛を巣立たせる親鳥のような誇らしさと期待が込められていた。


 「ツムギがどこかでまた面白いものを作ろうとしとったら、すぐに止めることもできるしな」

 バルドが腕を組んで言い、ジンが「いや、止められるかどうかは別問題ですよ」と苦笑する。


 「そ、そんなに暴走してませんよ!」

 ツムギが慌てて反論すると、皆がくすくすと笑い声をあげる。


 しばらく和やかな雑談が続いた後、そろそろ解散の時間が近づいてきた。


 「じゃあ、そろそろ帰るわ。ツムギ、また生地のことで相談するね」

 ナギが軽く手を振りながら、楽しげに笑う。


 「うん!またホビーナにも行くね!」

 ツムギが笑顔で答えると、ナギは「待ってるよー!」と明るく言い、軽やかに工房を後にした。


 「私もそろそろ行くわ。リナ、ついてきなさい」

 イリアがそう言うと、リナは「はいはい、ちゃんと帰るわ」と肩をすくめながらも、ツムギの方を振り返り、「またな!」と親しげに手を振った。


 「うん!リナさん、また!」


 続いてハルも、小さく手を挙げる。

 「僕も帰るね。これからの事考えたら、今日はワクワクして寝れなそうだよ……」


 「うん!またね、ハルくん!たくさん考えて、いい夢見てね!」


 すると、ぽてが名残惜しそうにふわふわとハルの肩へ飛び乗り、ぽぺぺぺ……と小さく震える。

 「ぽぺ……!(ハル……もっと一緒にいたい……)」


 「ふふっ、ぽて。またすぐ会えるよ!」

 ハルはぽての体を優しく撫で、そっとツムギの方へと戻してやると、最後にもう一度「またね!」と笑い、軽やかな足取りで工房を後にした。


 エリアスも、帰り支度を整えながらツムギに向き直る。

 「これから色々と準備が必要になるな。手続きは進めておくから、何かあったらすぐに連絡を」


 「はい!ありがとうございます、エリアスさん!」


 エリアスが去ると、工房にはツムギ、ジン、バルド、エドの四人が残った。


 「さあ、エド。お前はどうする?」

 ジンが尋ねると、エドは胸を張り、「もちろん! 今日は工房に泊まらせてもらいます!」と元気よく答えた。


 バルドはその様子を見て、満足げに頷く。

 「そうだな。今日のところはゆっくり休め。明日からは、色々と学ぶことが増えるぞ」


 「はい、よろしくお願いします!」


 こうして、創舎設立に向けた最初の集まりは、無事に幕を閉じた。

 ツムギは、心の奥に湧き上がる温かな気持ちを抱きながら、仲間たちが去った工房を静かに見つめた。

 これから始まる新たな道が、どんなものになるのか——期待とともに、小さく拳を握った。

今日も最後まで読んでくれてありがとうございます。

明日はいよいよ第1章最終話です。

昼(12時〜14時)に最終話を

夜(22時〜23時)に今後の予定を更新予定です。

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