正体
「...」
マジもののお化けがそこにいた。
「カカカカカカカカカカナンカナンカナンカンナンカンカンナカンナカン」
体をガクガクさせながら蠢いているのがなんとなく分かる。
やばすぎんだろ。
この瞬間に体は完全に硬直していることに気づく。
これが金縛りか。
果南は目をギュッとつぶって俺に抱きついている。
「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴメンネゴメンネゴメンネゴメンネ」
そのまま、まるで霧のように消えていく。
それと共に俺の意識も遠く、薄くなって消えていった。
目を覚ますと朝だった。
カーテンのわずかな隙間から日の光が入ってくる。
起きあがろうとしたところで、果南に抱きつかれていることに気づく。
お互いに汗だくであろうことはなんとなく分かった。
「おーい。離れてくれ」
その言葉でようやく目を覚ます果南。
来ていた浴衣的な寝巻きの帯は緩み、小さな谷間が目に入る。
こいつ...ブラしてねーのかよ。
そのまま少しの間ボーッと俺の顔を見た後、自分の格好を確認し、顔を真っ赤にしたまま枕を投げつけてくる。
「いたっ!!」
「な、何もしてないよね!!」
「してねーよ!ったく、いきなり抱きついてきたかと思ったら...じゃなくて昨日のあれ「その話はしないで!」と、話を遮られる。
「...話をするなって言ってもあれ...」
「大丈夫。なんでもないから」
そのまま帯を結び直すとそそくさと部屋を出ていってしまった。
つまりあれは夢じゃない。
あそこに立っていた人間。あれは一体...。
そんな疑問を抱きながら、俺は部屋についている風呂場で体を流すことにした。
そして、風呂を上がって体を拭いていると、果南が入ってきた。
「...な!?何してんの!?」と、バタンと勢いよく扉を閉める。
「...え?これは俺が悪いの?」と、思わず呟いたが、返答が来ることはなかった。
それから父さん達と合流し、ご飯を食べたのち解散となった。
しかし、その日の夜のことだった。
「んじゃ、俺そろそろ帰るよ」
「お?駅まで送って行こうか?」
「いいよ。バス出てるし」
そんな話をしていると、無言で俺の袖を引っ張る果南。
「なんだ?」
「...もう遅いし、泊まっていけばいいじゃん」
「...え?」
時刻は8時。正直遅いと言うほど遅くもない。
「なんだなんだー?2人もしかして仲良くなったのかー?」
「え?いや「そう。とっても仲良くなったの。とっても仲良くなったから、この人私の部屋で寝るらしい」と、他人事のようにそんなことをペラペラと言う。
「あらー?果南がそんなこと言うなんてねー。せっかくなら泊まっていく?」
「...はぁ...ならお言葉に甘えて」
そうして、俺はまた一晩過ごすこととなった。
特に会話をすることもなく、夜ご飯を食べて、風呂に入り、眠くなってきたので果南の部屋に行く。
コンコン
「...入っていいよ」
そう言われてゆっくりとドアを開いて、閉める。
「それで?どういう風の吹き回しだ?」
「...昨日のアレがまた出たら...怖いから...」
「...昨日のアレね...。あれの正体知ってるのか?」
「...知らない。知らないけど...カナンごめんって言ってた。私の知る限りそんなことをいう人間ではないけど、それでもそう言われる覚えがあるのはただ1人」
言わずもがな...か。
そもそも死んでるのかあの人。
「...なるほどね。まぁ、地元の友達とも遊びたいし、しばらくはこっちにいるのもありかなと思ってたから。別にいいよ」
そう言って俺は敷かれた布団に潜り込む。
「...そっちじゃなくて、こっち」と、自身のベッドを指差す果南。
「...いや、この部屋にいるんだから大丈夫だろ」
「何かあったらどうすんの。早く」と、かなり急かされながら俺は彼女のベッドに入る。
そのまま背を向けた状態で目を閉じる。
そして、その日も奴は現れるのだった。