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5 レイテの裏で

 1944年一〇月二〇日、米軍がフィリピンのレイテ島へ上陸を開始する。

 ブルネイに停泊していた連合艦隊は、総力をもってこれに当たることにした。

 しかしその中に『吾妻』はいなかった。


「納得出来ません!」

 田中副長が山野艦長に食ってかかる。

「何故我々は日本へ逃げ帰らねばならんのですか!」

「それはね田中副長」

 山野艦長は冷静を装って言うも、装いきれていなかった。

「我々の運ぶ物資を待つ人々が、本土にいるからだ。我々の運ぶスズとゴムを、本土の人々が待ちかねているからだ」

「しかし!」

「それよりも田中副長。乗員の『私的な買い物』は済んだかい?」

 山野艦長の悔しげな視線に、田中副長は気持ちを切り替えた。

(この人も悔しいのだ!)

 確かに山野は悔しかったが、それは戦闘に参加出来ないことで溺死出来なさそうだからだ。悔しさの方向が違う。

「っ! ……はい。バナナを中心に、マニラ麻やコプラを満載。カッターにココナッツロープを山積みにしておりますこれ以上載せる余裕はありません!」

「宜しい。では出港だ」


 一〇月二一日、吾妻乗員はブルネイの連合艦隊に敬礼しつつ、一路呉を目指した。


 実のところ、ブルネイには艦隊を集中し過ぎたため補給する石油がなかったし、艦艇が多すぎて邪魔になっていた。

 そこで石炭でも動く、戦闘力のない吾妻をブルネイから放流しよう、と連合艦隊指令部は判断したのだ。

 もちろん、吾妻の運ぶスズとゴムを本土の人々は首を長くして待っていたが。



 一〇月二五日に神風特別攻撃隊が初出撃するなど、戦争末期も末期の様相を示す中。

 一一月六日。吾妻は呉からブルネイに、貴重な航空機部品や弾薬を詰め込んで戻ってきた。

 米軍の目標はあくまで連合艦隊であり、吾妻のような『小物』ではなかったから、艦隊による襲撃を受けなかったのだ。

 それでも米軍は吾妻対策に潜水艦クイーンフィッシュ、バーブ、ピクーダの三隻を派遣はしたが、連絡が来なくなったことから恐らく嵐か何かで沈没したのだろうと判断した。

 しかしこれは、吾妻に搭載された兵器『山嵐』、ヘッジホッグモドキなこれにより沈められただけだった。

 なお吾妻は逃走を優先したため、これら三隻を沈めたことを知らなかったりする。


 一一月七日、連合艦隊指令部からの指示を受けた吾妻は、シンガポールへ急ぐ。南方資源地帯の資源をより集めやすいシンガポールを拠点とすることで、物資輸送にかかる経費を削減するための判断だった。

 一一月一三日。シンガポールへ到着した吾妻は、小貨物庫にゴムを、大貨物庫に重油を、乗員室の端にまだ緑色のバナナを、そして燃料庫に石炭を満載して下関を目指す。

 この吾妻の航海は、後の『南号作戦』の試金石だった。


 一一月一四日から二五日の吾妻の航海は無事終了した。

 一一月二七日から一二月一二日の、下関―シンガポール航海も無事だった。

 一二月一三日から一二月二六日のシンガポール―下関航海では敵航空機に捕捉されかかったが、無事逃走出来た。

 一二月二七日から一月一一日の下関―シンガポールの航海も無事だった。


 この吾妻の成功をもって、南方資源地帯からの特攻的資源輸送である南号作戦は実行させる。


 一月一三日から一月二六日の航海。二〇日に吾妻は潜水艦からの雷撃を受けるも、回避して『山嵐』による一発の反撃後、ひたすら逃走する。

 戦後の資料公開により、この吾妻の攻撃により米潜水艦『ボアフィッシュ』が沈没したことが発覚する。

 史実で『ヒ88B船団』壊滅の切っ掛けを作ったボアフィッシュは吾妻により沈められたが、肝心のヒ88B船団は米第14空軍により捕捉・殲滅された。

 

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