かげろう
三題噺もどき―ひゃくろくじゅうさん。
お題:蕾・突風・視線
――――――――コォ――!!!
「―んっるさいな…」
甲高い鶏の声で目が覚めた。―鶏の鳴き声で目が覚めるって、どんな田舎だ。
―いや、田舎だった。今は祖父母の住む田舎に来ているんだった。
道理で、身体が節々痛むような気がするし。カーテンしてないから、陽が入ってきて眩しい。
「―なんじだ…」
自分でも驚くぐらいの低い声が漏れる。
おぉ…。私こんな低い声だせるんだ…どすがきいてて嫌だな。周りの人間が起きて居なくてよかった。聞かれたらドン引きされそうだ。
「―ろくじ…」
枕元に置いてあったスマホの電源を入れ、確認する。
まだ起きるには早い…。いや、普段なら早くはないんだが。今日に限っては早い。今日―というか、今週いっぱいか。こっちにいる間は、遅寝遅起きが基本だ。
おはようではなく、おそようだ。
「んん…」
隣で眠る母は起きそうにない。
時間も時間だから、寝直そうかとも思いはしたが。やけに喉が渇いていたし、体温が上がり始めていて、暑くて眠れそうにない。
―とりあえず水分補給でもしよう。と思い立ち、布団から抜け出し立ちあがる。
「……」
ちなみに、布団をひいて雑魚寝をしているのは、仏壇があるリビングである。一面畳が敷かれている。奥に仏壇。その前には大き目のローテーブル。その真横に、布団が敷かれている。
すぐそこに仏壇があるので、いかがなものかと思いもするが。まあ、今更なので気にしていない。―たまに視線を感じるけど。
「……」
なんとなく。
今日は布団を出たところで、仏壇に向かって軽く会釈をする。なんとなくだ。こういう勘には従うに限る。
そのままの脚で、廊下を挟んで隣にあるキッチンへと向かう。
平屋なので、障子で仕切られているだけだ。ひらっきぱなしのキッチン。
「……」
ギシ―という音が、歩くたびに響く。
ここも古いからなぁ…と、軋む床の悲鳴を聞きながら。冷蔵庫に向かう。
バコ―と開くが…何にもない。麦茶ぐらいはあると思っていたんだが。昨日飲み干したままか、もしや…。水でもいいんだが、水道水は飲みたくないし。
「―あ…」
そうだ。
ふと思い立ち、キッチンのすぐそばにある裏口から外へと出る。少し大きめのサンダルをつっかけ、玄関側に回る。
―なんというか、この家はよくわからないつくりをしているなぁと今更ながら思う。いや、普通と言えば普通なんだが。
「……」
玄関から入って、右側。先ほどまで寝ていたリビングがある。左側にキッチン。このキッチンもなかなか広い。いやまぁ、キッチンというか水場?は普通だと思うのだが。その横に、大き目の机一個は置けるぐらいの広さのリビングがある。なんというか…あああれだ。夏によく見たくなる、バーチャルが主流になった世界でみんながたくさん頑張るアニメ映画だ。あれのお姉さま方がお話してらっしゃるキッチンみたいな感じだ。―個人的にはいつでも見たい作品だ。おばあちゃん大好き。
「……」
と、まぁ、それは置いておいて。とりあえずは、そんな感じの家で。
外には、なんと。驚くことに。
冷蔵庫が置いてある。
「―なんで?」
と、思ったし。言いもしたが。
ま、ここは家の中にも冷蔵庫が二台ほど置かれているし。コンセント引けるから、外でもいいか、みたいな感じかもしれない。知らないけど。
「…たしか…」
ここに…と、冷蔵庫を開き、中を見る。
ん、あった。昨日買った水を入れておいたのだ。リビングの方に入れておくと、誰に呑まれるかわかったもんじゃないから。
「……」
バタンーと冷蔵庫を閉め。ペットボトルの口をひねる。ゴクリと、一口それを飲み。残りを冷蔵庫に戻す。口をしっかりと絞めて。
―と、その時に。何かの視線を感じた。
庭の方。
「――」
玄関の入り口辺り。
丁度そのあたりに、いとこの小学生たちが育てた朝顔が並んでいる。まだその時ではないのか、蕾は小さく閉じたままになっている。
「――?」
その前に、1人の少女が立っていた。
白いワンピース。黒いロングの髪。
陽炎のように、儚げで、そこにいるようで、そこにいないような…。
「――」
いとこかとも思ったが、あんな子はいない。男ばっかだし。
近くの子供でも迷い込んだのか?こんな時間に?いやそもそも迷い込むような場所でもないのだ。確かに山の方にはあるが、迷う程のものじゃない。それこそ、こんな時間に、だ。
「あの―
と、声を掛けるべく手を伸ばす。
その時、合わなかった視線が、パチ―と合った。
青く、美しい瞳だった。吸い込まれるような、深い青だ。
「―?
それと同時に、彼女はにこりと微笑んだ。
口角が上がり、そのまま、口を開き―
「っわ――!」
突然、風に吹かれた。
突風に煽られて、私はつい目を閉じる。
彼女と繋がった、視線が、切れる。
「――ぁれ?」
彼女は居なくなっていた。