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第三話 流れ星を掘り当てる


 星呼ほしよびは都まで引ったてられて、まどもない地下牢ちかろうへほうりこまれた。

 牢役人ろうやくにんたちは星呼びを見下みくだして笑う。


「さっさと正直しょうじきに話したほうがいい。きさまがどんなインチキをしたのかなど、こちらのえらい学者先生にはすべてばれてしまうのだぞ?」


 そう言われて前に出てきた学者はしかめっつらで、わざとらしいせきばらいをした。


「おっほーん! あたしは星の動きを何年も学び続けてきたのよ? あんたよりたくさん本を読んだの。すごいたくさん。だからあんたがウソを言っていることくらい、すぐにわかったの」


「なにを言っておるんじゃ? わしが流れ星を言い当てたことは、みなが見ておる」


「やだもうっ、まだそんなこと言って! あんたはただ、人より目がいいだけでしょ!? だから少し早く、流れ星を見つけただけ! 星を呼ぶなんてできないの、ばれてんだからね!?」


 学者はぷりぷりとわめきちらし、星呼びはこまりはてる。


「ああ、まあ、たしかに少しはよう、見つけられるだけなんじゃが……」


 そう言ったとたん、学者はばたばたとおどりだした。


「あっひゃーあ! ほら、もうっ! インチキがばれたとたん、あわててあやまってもおそいんだからね!? んもーうっ!」


「じゃが別に、空は見んでも当てられる」


 星呼びのひとことで学者はぴたりと固まり、ぴくぴくと笑顔をひきつらせる。


「まだ、そんなデタラメを言いたいの? せっかくたすけてあげようと思ったのに? あんたが客のみんなにインチキをあやまって、あたしのほうがずっとすごい大先生だと言いまわるだけでよかったのよ?」


「いや、ぜひ助けてもらいたい。それにあんたさまはえらい学者先生らしいが、わしもウソを言ったおぼえはない。空を見なくとも、気配けはいはわかるんじゃ……あっちじゃな」


 学者がぐりっと横を向くと、牢役人のひとりは階段かいだんけあがって空を見渡した。


「あっ、出てきました。流れ星です……指さした方向でした」


 そんな声が上から聞こえてきて、学者はにがにがしい顔になる。


「わざわざ探してどうすんのよ!? そりゃひとつくらい見つかるでしょうよ!?」


「今度はその真逆まぎゃくじゃ。ふたつならびそうじゃのう?」


「はひゃーあ!? まぐれで当たってお調子ちょうしにのったのね!? そんなほいほいまぐれが続くと思ってるの!?」


「出てきました。ふたつですね。消えました。願いそこねました」


 学者の顔がみるみる青くなる。


「もう、もどってきなさい……ふたつ、ならんでいたの?」


「ええ、だいたい同じ方向ほうこうでした。ふたつとも見える時も少しだけ重なって……」


 もどってきた若い牢役人の言葉をさえぎって、学者は地団駄じたんだをふむ。


「ほとんどずれていたんでしょ!? ならんでないでしょ!? はずれ! はずれでしょ!?」


「がんこじゃのう? それなら次じゃが……」


 星呼びの言葉をさえぎって、学者はおこり顔でおどりだす。


「もういいの! まぐれが続いたくらいでなんなの!? あたしよりえらいと思ってるの!? あたしは大臣だいじんにも相談そうだんされる学者なの! あんたはなんなの!? なんのつもりなの!?」


 牢役人たちは気まずそうに顔をそむけはじめた。

 学者は顔を真っ赤にして、急に笑いだす。


「ひゃひゃ……でもね? 流れ星を言い当てられるのは、あんただけと思わないでね? あたしにはわかるの。明日の夜には、何十年かに一度だけの、とんでもない流れ星がやってくる……あんたとちがって本をたくさん読んで、たくさん考えたからわかるの!」


「わしは本なぞ手にできたことがない。学者先生のほうがかしこいのじゃろうが……」


「そのとおりよ!」


「……その流れ星は、何十もの流れ星を集めたくらい、ばかでかいやつか?」


「そう! そう書いてあった! ……あんたもだれかにそう聞いていたの?」


「そうではないが……」


「だけどもう、あたしが先に大臣へ言ったからね!? 明日のおしろで開かれる大宴会だいえんかいで、みんなに国一番の学者と呼ばれるのは、このあたしだからね!?」


「その流れ星は今晩、まもなくらしいぞ?」


 星呼びが真上まうえを指さして、学者はひといきだまりこんだあと、あわてて階段を駆けあがる。


「そんなわけない……あたし何度も日にちを数えたのに……数えまちがいなんて、あるわけない……はずなのに!?」


 牢役人たちもいっせいに追いかけていった。

 若い牢役人は星呼びの牢を開ける。


「大先生も自分でたしかめたいですよね?」


 星呼びが階段をあがる途中とちゅうで、町のあちこちからおどろきの声が聞こえてきた。

 地上へ出ると、見たこともないほど大きな流れ星がゆっくりと、真上の夜空へ広がっている。

 あまりに見事だったが、あれを見上げる勇者がどのようにさわいでいるのか、そばで聞けないことがむしょうにくやしくなった。


「なんでこんな時だけ、わしにつきまとっておらんのじゃ?」


 学者はやけに静かだったが、へたりこんでふぬけた顔からよだれをたらしていた。



 翌朝。まだ日も見えないうちに星呼びはこっそりと牢屋から出された。

 そのまま村まで役人に見送られる。

 学者までついてきたが、ずっと星呼びをにらみつけてブツブツ言っていた。


「かんちがいしないでよ? あたしは少しずれていただけ。来るのはわかっていたのよ?」


「あんな流れ星が来るとわかっておったなど、学者先生さまはたいしたもんじゃな」


 星呼びはすなおにうなずくが、学者はぎしりでこたえる。


「うぎぎぎっ……お調子にのらないでね? あたしの親戚しんせきには、大臣のよめがいるんだからね!? だから師匠ししょうも押しのけて出世しゅっせできたんだからね!?」


 それから急に、低い声でささやいてきた。


「あんた、もしまた都へ近づいたら、二度と牢から出られなくしてやるから。それとよけいな話を言いふらしたら、あんたの村は丸焼きにされちゃうかも……わかったかしら?」


 学者の目が血走ちばしっていたので、星呼びはただおとなしくうなずいておく。


「あたしはまちがってないの……そう。都へ帰ったら、地下牢に窓をくりぬいておかなくちゃ。『星探しのペテン師』は、ただ夜目よめがきくだけなの。牢役人たちはみんな、そんなことにも気がつかないで『流れ星を言い当てた』なんてさわぐまぬけばかりなの……」



 都を追いだされた星呼びは、村へもどってもなにがあったのかはだれにも言えなかった。

 すぐに村を遠くはなれて、丘の上に残されていた粗末そまつな小屋へ逃げこむ。

 星呼びの親が重いやまいにかかった時、村の者へうつさないように押しこめられた小屋だった。

 そのころの星呼びは村から水と食いものをはこんだが、親は一ヶ月ともたなかった。


「まさかわしまで、ここで寝起ねおきするはめになるとはのう?」


 ゆか天井てんじょうもぼろぼろで、なべかまなどもない。なにもない。


「土ぼこりばかり、やたらとつもっておる」


 自分も一ヶ月ともたない気がして、首でもくくったほうがましに思えてくる。

 そうじをするのもばからしくなって、ぞうきんを投げた。

 ころんでもふとんすらない。


「流れ星をどれだけ呼べたところで、思うようにはならんものじゃ……いや、たかが流れ星じゃ。なんでそんなもの、探したいなどと願ってしまったのか。あほうじゃ……わしがあほうじゃ!」


 ずどん、と地ひびきがした。

 なにごとかと表に出ると、ぴかぴかの鍋や釜が玄関先につまれている。

 荷車を手にした勇者が立っていた。


「ここで暮らすことにしたのか? 流れ星がよく見えるからな!」


「あほうが。だれがそんなもの探したいと……それはなんのつもりじゃ?」


「村のやつらはほしくないらしい! だから、買ったおまえが使え!」


 まっさらなふとんもあった。

 それを見ていると、今すぐ首をくくる意気ごみもぼやけてくる。

 そうなってみると体の弱い星呼びにとって、やたらとありがいものだった。


くぎもたくさんあるから、ちょうどあちこちなおせるな!」


 勇者は畑仕事をしながら、たびたび丘の上にも立ちよる。

 村からかめいっぱいの井戸水をはこんで、ついでに小屋の天井や床をなおしていった。

 そして使いつぶした草履ぞうり着物きものをぬぎ捨てていく。


「腕のいいつくろいがもどって助かる!」


 星呼びは村の者と顔を合わせにくく、もはや畑仕事にも出られない。

 せめてと草履を編み続けて勇者に持たせるが、草履編ぞうりあみに使うわらたばも勇者がはこんできたものだった。


「おまえは残飯ざんぱんを作るのもうまいな!」


 星呼びは食事を多めに残し、大食らいの勇者に押しつけていたが、食いものもほとんどは勇者がはこんできたものだった。


「おまえがくれた『爆轟魔閃刃ばくごうませんじん』と『聖天雷神槌せいてんらいじんづち』のおかげで、何倍も早く畑が広がっている!」


「そのくわとつるはしは、そんな銘柄めいがらではなかろうが」


 それらを人の何倍もふり続けられるはたらき者も、勇者だけだった。

 しかし井戸水は出ない。

 ずいぶん深くまで掘り続けても、出る気配すらない。

 井戸掘りまで手伝う村の者は、だんだんと減っていた。

 村はまずしいまま、少しの不作ふさく日照ひでりで人死にが出てしまう。

 日に日に勇者の叫ぶ気合は大きくなって、いつしかひとりきりで掘るようになっていた。

 そんな姿をもう何年も、星呼びは草履を編みながら遠目に見守っている。



 もう何年も、星呼びは流れ星を探し続けていた。

 早く勇者の願いがかなうようにと、願い続けていた。


「すまんなチビ。話が長うなった。今日は流れ星もやけに少ない。願いはよくよくえらんでおけ。わしのようなまちがいをするな」


「星も呼べるようになった大賢者だいけんじゃさまが、なにをまちがったの?」


「願いをまちがった。勇者のやつめにも言っておいたが、いちばん大事と思える願いにしぼって、それだけをいつでも願い続けるべきじゃった。そう、いつでも……」


 チビは星空を見上げ、またブツブツと願いにまよい、願いを探しはじめる。

 そんな様子を見て、星呼びはさびしげに笑う。


「おまえがそんなに必死ひっしということは、勇者のやつめを『ウソつき』と呼ぶ者がまた増えとるのか……それでもやつは、掘り続けるじゃろうが」


 掘り続ければ、いつかは村の井戸と同じ水の流れに行き当たるはずだった。


「しかし勇者のやつも、だいぶやせてきた……以前なら片手でひねりつぶしていたクマを相手に、ケガまでしたのか」


 勇者は今でも明るい大声だったが、以前ほど気楽そうには笑わない。


「どこまで掘ればいいのか、いつまでかかるのか、だれにもわからん……じゃがわしはそんなことより、勇者のやつめがあきらめた顔だけは見とうない。ただ掘り続け、願い続けてほしい……」


 星呼びはくやしげに歯ぎしりする。


「……わしはただ、勇者のやつめにもっと頼られたかっただけじゃ。それがなぜ、こうもわしばかりが頼り続けているのか。流れ星をどれだけ呼べても……ほんの一時いっとき、都で名声めいせいとあぶく銭をられても、本当の願いは一度もかなったことがない」


 静かすぎる星空をいらいらと見渡した。


「せめてやつめが願い続けるかぎりは、わしもやつの願いがかなうようにと、願い続けずにはいられんのじゃ……ええい、今日は流れ星まで、やけにけちけちと、気配すら……ん? 真上?」


 そうつぶやいた直後、星呼びの背後へものすごい勢いで光る玉が落っこちる。


「みぎゃっ!?」


 ふりかえるとチビが目をまわしてひっくりかえっていた。

 星呼びがあわてて駆けよると、近くのれ木にかしたぎんのような飛びちりが広がっている。


「ま、まさか、こりゃ……?」


 銀色はにゅるにゅると集まって、クラゲのような形に近づく。

 さらには人のような形と色合いをまねしはじめて、チビと似た声まで出した。


「ごめんね。ぼくをぶつけちゃったおわびだよ。さっき願ってたとおりにしてあげる」


 そうげるや、銀の体は細い光をいくすじも夜空の彼方まで投げかけ、溶けるようにせていった。


「おいチビ! なにを願っていた!?」


 星呼びがゆさぶると、チビはとまどいながらつぶやく。


「星呼び様の願いがかなうように」


 チビのひとことで星呼びはぴたりと固まり、そっと耳をすませる。

 すぐに「神技しんぎ! 覇王流星突はおうりゅうせいづき・改十六号かいじゅうろくごう!」の気合がひびき、村中の犬猫いぬねこも地面から浮くほどの地鳴じなりがとどろいた。

 やがて荒野から、つるはしを手にした人影が駆けてくる。


「すごいぞ星呼び! 今日の『神技! 覇王流星突き・改十六号!』は神技で覇王すぎる!」


 丘までとどく大声で明るく笑っていたが、顔中がぬれていた。


「あきらめなくてよかった! おまえが願い続けろと言ってくれたおかげだな! 何度も! 何度も!」


 荒地のど真ん中にばかでかい水柱みずばしらき出し、月をかくすほどにのび上がる。

 それは見事な流星色りゅうせいいろかかがやいていた。






(おわり)




*あとがき


 それぞれの読者様が『星呼び』と『勇者』の性別をどう想像していたか、気になるところです。


 もし勇者が最後でもうひとこと叫ぶなら、

「おれのよめになってくれ!」

 と

「おれをよめにしてくれ!」

 どちらも捨てがたいので、読者様のお好きなほうで。

 もちろん両方男性や両方女性もありです。

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