第96話 (レーゲンス)
レーゲンス
話し合いが終わると昼だった。ここで食事をしようとゴードンが言い、しばらくすると部屋に食事が持ち込まる。
「鉱山の方はどうだい?もう魔獣は出てきてないのかな?」
「おかげ様でな。あれ以来魔獣の姿は鉱山では見ない。あそこで働いている人も安心して仕事ができてるよ」
食事をしながらデイブが聞くとヤコブが答えた。
「そりゃよかった」
デイブとダンが安心した声を出して言った。
「ところで二人は今回目的の者を手に入れた。レーゲンスに戻ってダンジョン攻略は続けるのかい?」
ウィーナが聞いてきた。二人は顔を見合わせてから
「アイテムボックスを探すという目的は無くなったけど強い敵と対戦したい、鍛錬したいという目的はあるからな。できるだけ未クリアダンジョンに挑戦するつもりだよ。隠し部屋があるかもしれない。ボスを倒したら良い品物をドロップするかもしれないしね」
デイブがそう言う。
「大陸中央部の山脈は逃げない。未クリアのダンジョンがあるのならそこで鍛錬をして実力をつけてから挑戦してもいいんじゃないかと思ってる」
ダンが言うとまだ強くなるのかねと呆れた口調でウィーナが言う。
「その向上心があるからランクSに上り詰めたんだろう」
「元々ランクにはこだわっていなかった。自分達が強くなりたいと思って鍛錬してからね。ランクは後付けだよ」
マッケインの言葉にデイブが答える。なるほどと頷く他のメンバー。
「ところで、あの結晶体を使ってオーブを作るのにどれくらいの時間がかかるものなんだい?」
デイブが話題を変えて言う。向かい側に座っていた4人は顔をヤコブに向けた。
「1セット、つまり2個作るのに約1ヶ月くらいかかるだろうというのがこの街の錬金術師達の見解だ。普通のクリスタル結晶体ならまず不純物を取り除くという作業だけで1ヶ月から2ヶ月は掛かる。今回はその前処理がいらないからな」
ヤコブが二人に説明をすると今度はダンがウィーナを見て言った。
「ウィーナは出来上がるまでこの街にいるのかい?」
その言葉に首を横に振るウィーナ。
「いや、あんた達と一緒にレーゲンスに戻るよ。オーブは出来次第別の者が持ってくる手筈になってる」
「なるほど。俺達は今日か明日に出ようかと思ってる」
デイブの言葉に問題ないねというウィーナ。ゴードンはせっかくオウルに来ているんだからもう少しゆっくりしたらどうだと聞いてきたが、
「余り長い間レーゲンスから離れているとあの街の冒険者達の中で俺達はどこにいるんだと話題になるかもしれない。余計な詮索はさせたくないんだよ。それと前も言ったけどこの街の人は静かに暮らしている。俺達の様な部外者が長くいることが良いことだとは思わない」
向かいに座っている4人はデイブの言葉を聞いて相変わらず優しい冒険者だと目の前の二人を見ていた。街の人をできるだけ刺激しな様に気を遣っている。ウィーナは目の前の二人を見ながら大きく頷いていた。
「大陸中央部の山々に挑戦する前には挨拶でまた顔を出すかもしれない」
ダンが言うと是非そうしてくれとゴードンが強く勧めてきた。
二人はこの日もオウルに泊まった翌朝、宿を出て大きな建物に挨拶に出向くとそこには木箱が多数積まれていた。それを見てミスリルだなとピンときた二人。
ゴードン、ヤコブ、マッケイン、そしてウィーナが出てくると
「これをアイテムボックスに入れて持って帰ったら良いのかな?」
と先にデイブが言う。
「今アイテムボックスはお主達の物だ。出来ればレーゲンスに持って行って貰いたい」
そう言ってゴードンが頭を下げる。
「そんなに恐縮してもらわなくても大丈夫だよ」
こりゃ凄いな、想像以上だと言いながらデイブが木箱を次々とアイテムボックスに収納していく。あっという間に木箱が全てアイテムボックスの中に収まった。
「さてと行こうかの」
デイブの作業を見ていたウィーナが言う。
「世話になった。良い取引をさせてもらったよ」
「それはこちらのセリフだぞ」
そう言って挨拶を終えると3人はオウルの城門から荒野に出る。行きと同じく荒野で野営をしながら20日後にレーゲンスの郊外に戻ってきた。
「あたしゃここから街に入る。あんた達は門から街に入ったら店に来てくれるかい?」
そう言って土を払って秘密の入り口を開けるとウィーナが中に入っていった。蓋が閉まると二人でそこに丁寧に土をかぶせて入り口を隠してから城壁にそって歩いて城門からレーゲンスの街に戻っていった。
「よう、久しぶり、ダンジョンに行ってたのかい?」
「ああ。クリアしたダンジョンの下層で鍛錬してたんだよ」
すれ違う冒険者らと挨拶を交わしながらウィーナの店に行くと既に彼女は戻ってきていていてこれから倉庫に行くからそこで木箱を出してくれと言う。
そうして店を出ると少し歩いたスラム街に入ったところにある倉庫に移動した。
「こんな場所に倉庫があるのか。ここなら場所柄誰も来ないな」
「確かに、それに普通ならこんな場所には物を置けないがウィーナなら問題ないって訳か」
ダンとデイブが交互に声を出した。
初めて店の奥に行った二人はその倉庫の場所と中の広さにびっくりする。倉庫の中には様々な物資が積まれていた。
「こっちがオウルに持ち込む物資、そしてこっちがレーゲンスで販売する品物さ」
ウィーナの言う場所にアイテムボックスから木箱を取り出して積み上げていく。
「これでまたオウルで必要な物資を手当することができるよ」
積まれた木箱をみて満足気な表情のウィーナ。そして店に戻るとウィーナが入れたお茶を3人で飲む。
「オーブで連絡が取れる様になったら必要な物をそのタイミングで手当できる様になるな」
そう言ってカップを口に運ぶデイブ。
「その通り。そしてあんた達が紹介してくれたサム、新しい販売先もできたからオウルの鉱山でも今までの様に販売量を気にすることなく採掘することができる。本当にあんた達には世話になったよ」
目の前に座っている二人と出会わなかったらオウルの鉱山の魔獣の討伐にも時間がかかっただろうし間違いなく犠牲も出た。そしてその間住民も安心できない夜が続く。オウルは安寧を保てなかっただろう。
それをさっくり倒したと思ったら今度はオーブの原料、オウルの街はダンとデイブに短い間に2度も救われている。
それにしてもとウィーナはお茶を飲みながら目の前に座っているランクSの二人を鑑定していた。デイブはそろそろ頂点だね、よくまぁここまで伸びたもんだよ。ダンがいなけりゃ大陸一と言われても良い位のレベルだ。おそらくダンに引っ張られて才能をどんどんと開花させてきたんだろう。
そしてそのダン、彼はまだ頂点が見えない。一体どこまで伸びるんだろうね。私の鑑定でも頂点が見えないってのは相当だよ。
雑談をしながらお茶を飲んでいる二人を交互に見ているウィーナ。




