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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第81話


 商人のサムはヴェルスでの商売を終えると地元であるラウンロイドに戻ってきた。そうしてすぐに幹部社員を集めると矢継ぎ早に指示を出す。


・レーゲンスについての情報収集

・ヴェルスでの支店及び倉庫の開設

・テーブルマウンテンとの商売の拡大


「これからこの商会がさらに大きくなっていくには今のラウンロイドだけにオフィスがあるというのでは流れについていけなくなる。ついてはここの同規模の店をヴェルスに構えたい。ヴェルスの店はヴェルスとレーゲンスを担当し、ここラウンロイドではリッチモンドとテーブルマウンテンを担当する。もちろんラウンロイドとヴェルスの交易は今まで通りだ」


 テーブルマウンテンが従来の閉鎖的な街から開放的な街になったという話はすでにラウンロイドの商人の中でも広がっていた。


 商売のエリアが拡大していく中でいつまでも全てをラウンロイドだけでやっていくと時流に乗り遅れると考えたサムは店を複数作ってエリア毎に担当させることにする。


「ヴェルスに店と倉庫ができた際には私はそちらに移動する。そしてここの店の責任者は副社長のマイヤーに任せる」


 とNo.2のマイヤーをラウンロイドのトップにすることを宣言した。この背景としてはラウンロイドは既にリッチモンド、ヴェルスと大きな商売のベースを持っているので今までの路線の延長で対応できるだろうという考えだ。


 マイヤーはサムが商会を作った時からの仲間でサムがリッチモンドやヴェルスに行商に出て長期間不在となってもそのあいだに商会を切り盛りしておりその手腕には定評がある。もちろん客先の受けも悪くない。


「私からもそろそろ店の拡大を検討してはどうかと社長に提言するつもりだったんですよ」


 サムの商会のオフィスにある社長室。ソファに向かい合って座りながらその言葉をきいたサム。


「ラウンロイドではある程度の地位を築くことができた。逆に言うと限界が見えてきたとも言える。このままこの規模の商会でいることも考えたんだがどうも私はじっとしているのが苦手でね。新しい街との商売のチャンスがあるのなら行商じゃなくて腰を据えて取り組んでみたいと思ったのさ」


「それがよろしいかと。ラウンロイドとリットモンド、そしてテーブルマウンテンはこちらでしっかりと面倒を見ますから社長はヴェルスを起点にしてレーゲンスの客先の開拓をお願いします」


 そう言ってから


「ノワール・ルージュともより深い関係になるのを期待しておりますよ」


「もちろん。それは今回の決断の大きな部分を占めている。彼らはヴェルスを拠点に活動している。そしてランクSになった。ランクSまで上り詰めた冒険者は彼らだけだ。どこの商会も彼らとコネを作りたいと思っているだろう。幸いに私はワッツとレミーの夫婦を通じで既に彼らとは既に顔見知りだ。ここでさらに良い関係にしておかないと他の商会に足元を掬われるからね」


 サムがノワール・ルージュを彼らがまだランクBの頃から高く評価していたのを知ってるマイヤーはサムの言葉に大きく頷く。


 サムが幹部を集めて指示を出してすぐにサムの商会が動き出した。サムがヴェルスにいた際に既に拠点となる店や倉庫を建てる場所には手付金をうっていたのでその後サムとスタッフがヴェルスに乗り込むと早速店の改築と倉庫の手直しに入る。


 「ラウンロイドに戻ったと思ったらすぐにこっちにきたのね」


 レミーが笑いながらサムにお茶を入れる。


「ダンとデイブをしっかり囲いたいってことだろう?ここに店と倉庫を構えるのは悪くない選択だな」


 ワッツもレミーに続いて言う。


「まだランクBだった時にあの2人が伸びると言う話をお二人から聞いていましたからね。彼らの動きはずっと注目していましたし、将来の可能性を考えてこの街に来るたびに店と倉庫を出す事前調査はしていたんですよ」


 そう言うと流石にサムだなと2人が言う。ただサムがこの街に住むまでとは思っていなかった様でサムから話を聞いたあとで、


「社長自らこっちに住んで商売をするのか」


 ワッツがびっくりして言った。


「ラウンロイドの店の商売は安定してます。私がいなくても問題なく回っていくでしょう。後を任せているマイヤーも優秀な男ですからね。私はそれより新規の商売としてここ以外にレーゲンスとの取引を拡大したいと考えているんですよ」


「ダンとデイブもサムなら顔馴染みだしね」


「そうそう、その通り」


 レミーの言葉に大きく頷くサム。そうして2人を見てノワール・ルージュは今はどうしているんです?と聞いた。


「ヴェルスでクリアされていないダンジョンに挑戦している。数日前に聞いた話だと結構深いダンジョンで今は23層に降りたところでランクSS相手に鍛錬しているそうだ」


「ダンジョンクリアじゃなくてフロアをくまなく歩いて宝箱を探しているそうよ。そして今はワッツが言ったとおり23層でランクSSがいるから鍛錬にちょうどいいって言ってここ1ヶ月ほどずっと同じフロアで鍛錬しているみたい」


「クリアを目指さずにですか?」


 ワッツとレミーの話を聞いたサムがびっくりして言うと、


「そこがあいつらの凄いところさ。以前も言ったけどあいつらは急いでいない。目標はあるがその為に回り道をするのを厭わない。自分達の腕が上がる敵がそこにいればそこでじっくりと腰を据えて鍛錬に励む。こんな冒険者はなかなかいないぞ」


「なるほど」


 サムはそれしか言葉がでない。今まで付き合ってきた冒険者達とは全く異質だ。そう思っているとサムの心中を察したのかレミーが言った。


「私たちが冒険者だった時もそんな発想はなかったわ。ダンジョンは人よりも早くそして深く潜っていくものだと思ってたから。もちろん苦労したフロアもあってその時はそのフロアに留まったことはあるけど、鍛錬目的でじっくり腰を据えてなんて誰も考えなかったもの」


「こいつの言う通り。俺たちを含むいわゆる冒険者の常識はあいつらには通じない。持っている素材が元々優れていて鍛錬することを当たり前と思っている2人。強くならない訳がない」


 そう言ってからサムを見てニヤリとして。


「がっちりあの2人を掴んでおけよ」



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