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ノワール・ルージュ  作者: 花屋敷
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第80話


「つまり俺達が未クリアダンジョンに潜って探してくるのが結果的に一番近道だってことになるのかな」


 ダンが言った。


「それが1つの方法であることは間違いありません。あとは商人の立場から申し上げるとアイテムボックス以上に価値のあることがあればそれのお礼としてアイテムボックスを差し上げるということもあります」


「アイテムボックス以上に価値のあるものってそんなのあるのか?」


 サムの言葉を聞いたデイブが言った。


「必ずしも1品でその価値があるというのではなく、例えばアイテムボックスを相手に差し上げることによりそれから長きにわたって利益が得られる場合などもありますね」


 ダンはわからないって顔をしてサムの話を聞いていた。隣のデイブを見ると彼はなるほどと相槌をうち、 


「商人の発想だな。刹那的に生きている冒険者にはない発想だ。なるほど長期にね」


「おいデイブ、一人で納得してないでどう言うことなのか俺にも教えてくれよ」


 ダンが言うとレミーが口を開いた。


「普通の冒険者は明日がどうなるかわからないからお金が入るとそれを使い切ろうとするの。残しても死んじゃったら使えないでしょ?あなた達もそれは同じ、良い武器や防具を買うための金策はするけど冒険者をやめた後のことは今は考えていない」


 レミーの言葉に頷くダン。


「それが悪いって言ってるんじゃないのよ。それが冒険者だから。でも商人は違う、ここにいるサムもそうだけど長く商売を続けて利益を出し続けることを考えてる。そして損得の物差しは常に長い期間で見てるの。今日金貨を100枚損したとしてもそのおかげでこれから半年か1年後に毎月金貨100枚以上の利益が出るとわかったら目先の損をとることもあるの」


 レミーの説明を聞いてようやく理解したダン。自分は冒険者だ。レミーが言う通り冒険者を辞めた後のことなんて考えてもいなかった。


「よくわかった。長期的に商人の利益になる様なことがあれば可能性はあるってことだな」


「ダン、商人だけじゃないぞ。商人から仕入れている客にも同じことが言える。片方のことだけ考えてたらダメだ」


 声を出したワッツに顔を向けて大きく頷くダン。


「残念ながら今私の手元にはアイテムボックスに関する情報はありません。ですが引き続き情報を集めてみましょう」


「よろしく頼みます」


 ダンとデイブがサムに礼を言ったあとワッツが二人に言った。


「サムに任せておけば大丈夫だろう。お前達は本職の冒険者としてあちこちのダンジョンを攻略したらいいんじゃないか?」


「そうするよ」



 

 翌日ギルドに顔を出した二人。掲示板に昇格の通知を貼られてからギルドに顔を出すのは2回目だ。ダンジョンの場所を聞きにここに顔を出した前回は中途半端な時間帯だったせいかギルドにはほとんど冒険者がいなかったが今回は時間帯もあり結構な冒険者がギルドの中にたむろしていた。

「ノワール・ルージュだ」


「DDだ」


「ランクSの二人が来たぜ」


 ギルドの扉を開けるとそこにいた冒険者達が二人を見て話をしている中ランクAのミゲルのパーティメンバーから声がかかった。二人が酒場に行くとそこにいた他の冒険者達も集まってきた。


「ランクSへの昇格おめでとう」


 ミゲルのパーティメンバーや他の仲間から次々とお礼を言われる二人。


「ランクSなんて俺達が冒険者になって初めて見たが、お前さん達なら誰も文句を言わないだろう。なんせ俺達も含めた他のランクAとはレベルが全然違うからな」


 一通りのお礼の後でミゲルが言った。


「ランクには拘ってないってのは変わってないんだけどな。でも特に断る理由も無いし」


 デイブがあっさりと言う。


「ところでしばらく見なかったが外でまた鍛錬してきたのかい?」


 ミゲルに続いてスミスが聞いてきた。


「ラウンロイドからリッチモンド方面に行ってた。1年ちょっとかな。あっちではダンジョンにも潜ったよ」


 ダンが答えるとデイブも続けて言った。


 その後はリッチモンドやレイクフォレストの話をする二人。レイクフォレストについてはここヴェルスでも有名な場所らしく女性を中心に一度は行ってみたいという声が多い。


「骨休めには最高の場所だよ。この大陸の風景と全然違う景色があそこにはある。リッチモンドに行けばそこからレイクフォレストには馬車の定期便が出ていて絶えず護衛の冒険者を求めている。クエストにかこつけて行ってみたらいいんじゃないかな」


 デイブの言葉に護衛クエストで行けるのなら一石二鳥だと盛り上がる周囲の冒険者達。


「しばらくヴェルスにいるのか?」


 ミゲルのパーティの戦士のスミスが聞いてきた。


「今未クリアのダンジョンに挑戦しているんだけど、あそこは深いかもしれない。楽しみではある」


 デイブが2人で攻略しているダンジョンについて周囲にいる仲間達に話をする。今までレイクフォレストで盛り上がっていた周囲もダンジョンの話になるとすぐに真剣な顔になる。このあたりは流石にランクAだとダンはその場の空気が一変したのを感じながら思っていた。


「12層でまだランクSが出てきていないって言うのなら深そうだな」


「そうだろう? 俺達は宝箱探しをしながらフロアをしらみ潰しに動いているがフロアも他のダンジョンよりは広目だと感じてる」


 ミゲルがそう言うと狩人のオリビアが


「私たちもそのダンジョンの10層でランクA相手に鍛錬しているけどそこでも既に広いわね」

 

 その言葉に頷くデイブ。このダンジョンは10層からランクAが出始めるので”所謂ランクAのパーティ”には良い狩場になっている。ダンとデイブにとっては同格は雑魚だが普通の冒険者にとっては雑魚にはならない。


「10層、11層はランクAだ。11層でたまに2体出でてくる。12層は常時複数体のランクAだ」


「その情報は助かるよ」


 フロアの情報は普通は周囲には教えないがダンとデイブは聞かれると普通に教えている。事前に敵のレベルや情報ああればそれだけで事故の確率が減る。ミゲルが礼を言うと他のメンバーからもありがとう、助かるぜという声がした。


「俺達の情報でよかったらいつでも聞いてくれ」


 ダンが周囲に言う。


「でも宝箱は期待すんなよな」


 とデイブが言った。



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